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外伝・ある貴族の御令嬢に転生した少女の物語~それぞれの思い~アイリーンの場合

第一話に出てきたアイリーンという侍女兼護衛の少女について書きました。

そして血とかグロの表現があるので苦手な方はご遠慮ください。























暗闇の中、うめき声が聞こえた。


辺りを漂うのは鉄のような香り。

普通に生きて行く分にはあまり関係があるとは言えない香りだがある特定の職に就く者にとってその香りは『当たり前のモノ』


アイリーンはその職に就いていた。

今もまた、一仕事終えたばかりだ。

自らの左手に持つ、銀色の獲物に付着する赤い滴がその状況を物語っていた。


「ゲスが」


足元に転がる『それ』に、アイリーンは吐き捨てる。


それは人の首であった。多分、男性。

大きな黒い布で顔の大半を覆い、目だけを出している状態の。

それが苦痛の表情でアイリーンを見上げている。


『マスターガーディガン』というものがある。

その名の通り、『主』を『守る』護衛の事を指すのだがマスターガーディガンに入隊出来る条件は2つ。


1つは15歳以上という事

2つ目は何らかの功績を上げる事。


マスターガーディガンはこの国でもっとも尊い職。

国中の男達の憧れの職であった。

だがこの職には一部の上層部しか知らない部門があった。


『特殊暗殺部隊【番犬】』

これは『守る』を対象とした『表』のマスターガーディガンとは違い『殺す』を対象とした『裏』そのもの。

平たく言えば暗殺。

アイリーンは両親を失った10歳の頃から『そこ』に所属していた。

主が命じるままに殺し、主が命じるままに動く。

アレクト国の闇の部分。

それがアイリーンの『全て』

そして主であるメイラからの命令はこうだった。



『イリスを守れ』



暗殺者を生きたまま捕えても、相手はプロだ。誰がイリスを狙ったのか恐らく吐きはしないだろう。

だから、殺せ。確実に。

メイラはそうアイリーンに命じた。


アイリーンは息の根を止めた事を確認すると『獲物』の血を拭い太もものベルトに入れた。

衣服に血など一滴も付着していない。

だからこうして『獲物』を隠してしまえば誰もアイリーンの正体に気づかない。


後はこの死体を片づけてしまえば今日の仕事は終わり。暖かい寝台に入って眠りにつく。

そして明日もこの繰り返し。


と、思っていた。

だが今日は違っていた。


殺した人間の体から微かに漂う香水の匂い。

確か最近、メイラの正室にどうかと勧められた貴族の令嬢がこれと同じ香水を愛用していたはずだ。

それはオーダーメイドで作られたもの。世界にたった1つしかないもの。


「・・・ふふふ・・・あはは・・・」


身の程知らずの娘。


「・・・愚かだわ」


大方、イリス様を殺せば自分が正室になれると信じて窺わなかったのだろう。

けれど、それは無理。

例えイリス様がいないとしても、こんな一目で分かるような証拠を残す安易な考えの持ち主を正室に迎えるなんて・・・例えメイラ自身が望んだとしても王家一族が許さない。


そう。イリス様は王家が認めた『正室』

今さらそれを覆そうなど、愚か以外なにものでもない。


馬鹿な女。

これであなた達の運命は消えたも同然。


王家に逆らいし罪は命をもって償え。


アイリーンは首を持ち上げると狂ったように笑った。

溢れだす血が首を伝い、衣類を真っ赤に染め上げても笑う。

月の光だけで映し出されるその姿は妖しい雰囲気を醸し出し彼女の美しさを一層際立てている。


「イイ子、イイ子。お前はイイ子。ちゃんと主を教えてくれたわ」


アイリーンはそっと、大切そうに首の髪を撫でた。

自分の視線に合わせて話しかける。


「・・・あなたの主は、いったいどんな声で鳴いてくれるのかしら・・・?」


きっと、素敵な鳴き声よね。


そしてアイリーンはその首を持って・・・









「・・・なんですか、その首は」


「暗殺者の首です」


メイラの寝室に現れた。


メイラの隣にはイリスが寝ている。

肌蹴た寝巻。首周辺に散らばる赤い刻印。目に浮かぶ涙の痕。


「ここでご報告します?」


「・・・いえ、ここではマズイ」


イリスが目を覚まして初めて見るモノが血まみれの生首なら確実にトラウマになる。


そう考えメイラはイリスを起こさないよう慎重に寝台の上から下りた。

夜はまだ肌寒い。カーディガンのようなものを羽織って外に出るよう指示する。

月の光がまるで水のように降り注ぐ幻想的で美しいバルコニーへ。


もし、もしもアイリーンの手にその不気味な首がなければ月光の下で語らう2人の姿はさぞや美しい絵になったであろう。


そう。それは映画のワンシーンのように・・・


「所でメイラ様。これ、どうします?」


「捨ててしまいなさい。というか、なんで持ってきたんですか」


「暗殺者の雇い主が分かった場合の指示を得ていませんでしたのでご判断を窺いに・・・というのは建前で可愛らしいイリス様の寝顔を覗きに・・・下半身に男性の象徴がついていたら疼いていました」


じゅるり


無意識に溢れた涎を慌てて拭うアイリーンの姿にメイラは引いた。


付き合いは長いが相変わらずアイリーンの幼子趣味にはゾッとする。

相手が女であれば男性の象徴を欲しがり、相手が男であっても男性の象徴を欲しがる。

たまに『こいつ、生まれるべき性別間違ってないか?』と思う時がある。


・・・否、もしこいつが男であれば被害は倍増していただろう。

女であるから被害者の傷も些細な物で済んでいるのだ。

幼い少年が、涎を垂らす青年に襲われる。


・・・トラウマになる事間違いなし。

やはりアイリーンは女で良い。うんうん。


「・・・メイラ様がもう少し幼ければお相手いたしましたよ」


「死にますか?」


「メイラ様、かぁるいジョークでございます」


グッと握りこぶしを作り耐える。


会話は問題だらけだった。


「あ、そうですわ。メイラ様」


「・・・なんですか」


「この首、わたくの好きにしても宜しいですか?」


「どうする気ですかそんなもの」


「送ります」


「誰に・・・って、もしや・・・」


「勿論、この暗殺者の主に・・・あぁ、この際相手も殺してしまいましょうか。きっと、良い見せしめになるでしょう」


「ぜひやりなさい。許可します(0.5秒)」


清々しいほどに早い決断だった。


主の答えは決まった。

もう遠慮する必要など、ない。

邪魔者は消してしまえばいい。


愛しいイリスの命を狙うもの。


それらを見せしめの為に『処分』してしまえば他の貴族も少しは大人しくなるだろう。

それでもなお逆らうというのであれば、


殺せばいい


自分の仕事は『暗殺』

王家に逆らいしものを消すこと。

それが仕事。


「アイリーン」


「はい」


「メイラ・アレクトが命じます・・・我らが王家に逆らいし愚か者を・・・消しなさい」


淡々と、メイラは命じる。

その目に感情は見えない。冷たく、冷めきった目。

そこには普段イリスと共にいる優しいメイラの姿などなかった。

あるのは『王族』としての支配者の姿。


「・・・・・・・・・御意」


そしてその主に仕える事をアイリーンは誇りに思っていた。

残酷で、優しくて、『理想の支配者』

ただ淡々に命令をする『我が主』


わたしの、主様









この日を境に1つの貴族が『消えた』

そしてこの日より1つの噂が流れた。

あの貴族が消えたのは『正妃』になられるイリス様の命を狙ったせいだと・・・






王家に逆らうな、醜き者たちよ

逆らえば最後、この世の地獄を見るだろう















ちなみにアイリーンの武器は決まっていません。その時その時で応用するので例え食器でも対戦可能です。いざとなったらモップをへし折って戦います。ある意味最強侍女ですね。

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