表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

外伝・ある貴族の御令嬢に転生した少女の物語~それぞれの思い~アレクト国の場合パート2

両親編のパパさんの回想。一目ぼれってやつですね。







初めて彼女を『見た』時、彼女は血に塗れていた。

それでも不思議な事に彼女は誰よりも光輝いていた。


流れる水のように澄み切った蒼い髪。

新緑を思わす緑の瞳。


そう。

まるでおとぎ話に出てくる水輝姫の様な少女。

儚く、美しい。


「・・・この少女は・・・」


「サーリア教の生贄にされた少女です。残念ながら、間に合いませんでした」


白い肌。そのふっくらと膨らんだ場所に刻まれるのは黒鴉くろからすのマーク。

サーリア教・・・その裏の使徒が好んで使う刻印が少女の胸に刻まれていた。


少女は切り裂かれていた。

手を

足を

体を

目を

耳を

鼻を

ありとあらゆる場所を。


それでも少女は生きていた。

正確には虫の息だったのだが優秀な我が国の魔導師によってその傷は癒された。


勿論その際に胸の刻印も消そうとした。

しかし不思議な事に刻印は消えなかった。

その刻印が淡い光を放つたび、少女の顔が苦しそうに歪み、


・・・見ていられない。


「エリス、この少女を良く見ておきなさい」


これが今のアレクト国の現状なのだと母は言う。

自ら腹を痛めて産んだ子ですら、黒髪でないというだけで殺せるのだと。

どこまでも残酷に、道具として扱えるのだと。


いらない子供。

汚れた子供。


今回の首謀者達は1人残らず処刑された。

そこにはこの少女の両親の姿もあったという。


この子が目を覚ました時、なにを思うだろう。


悲しいのか

苦しいのか


恐怖なのか

怒りなのか


それとも―――なにも感じないのか


もしかして死にたいと思うのかもしれない。

この国はまだ腐っている。

黒髪以外の色素を持つ者は蔑まれ、人として生きる事さえ許されないような世界。

そんな世界で両親を失い、頼るものもいないとなれば死を望んだとしてもおかしくはないだろう。


ダメだ。


そんな事は【許さない】


・・・・・・・・・・・・・・え?

なぜ、今僕はそう思ったのだろうか。

許さない?

なぜ?


自分の抱いた感情が分からない。

これは、なんだ?


「エリス、どうしました」


「・・・いえ」


彼女にそっと触れてみる。


頬に

額に

唇に


・・・唇は柔らかかった。


―――もっと彼女に触れてみたい。

まだ曇るその瞳に僕を捕えて欲しいと願う。


どうしたのというのだ。

まるで自分が自分ではないようだ。


身を引き裂くような激情が、体中を駆け巡る。


子供。

それも女になりきれていない少女。


まだ幼いというのに。

もっと魅力的な女性が周りには多くいるというのに。


僕は、本当にどうした?


「エリス、気分でも悪いのですか?」


「母上、1つ聞いても良いですか?」


この感情の言葉を、僕は知っている。

けれど、この感情を抱いたのは初めての事で、


「父上と出会った時、一目で恋に落ちたといいましたよね。それは身を引き裂くような痛みと、激情はありましたか?」


「・・・そんなものは無かったわ。けれど」


「けれど?」


「全力で、愛してほしいと願ったわ」


「愛して欲しい、ですか?痛みではなく?」


「愛の形は人それぞれです。愛し方も、恋の落ち方も。でも、恋を知ったら全ての人はこう想うはずよ【愛してほしい】と」


「愛して欲しい・・・」


彼女の顔をもう一度見た。

まだ彼女の事を何一つ知らないと言うのに、恋に落ちるなんて事が本当にあるのだろうか?


「・・・バカバカしい」


そう言いつつも僕は彼女から目を離せなかった。

今だ目覚めぬ幼い少女。

傷だらけで、それでも懸命に生きようとする少女。


そう。

傷だらけで、守ってあげたいと、


「あ・・・」


フッと、少女の目から涙が一滴零れ落ちた。

頬を伝い、シーツに染みを作る。


「泣くな」


夢の中でさえ苦しむ少女が哀れでしかたがなかった。

どうすれば少女は笑ってくれるのか、それだけが頭の中を占めた。


「どうすれば・・・そうだ」


ゆっくりと、少女の頭を撫でる。

すると、どうだろう。

さっきまでの苦痛が和らいだのか少女の顔色が戻ってきた。

ウッ、ウッと唸っていた口から溢れるのは規則正しい寝息。


ホッとした瞬間、僕は自分が必要以上にこの少女を気にしている事に気がついた。

いつもであれば、この様な真似はしでかさないというのに・・・僕は本当にどうしたと、


「・・・あぁ、そうか。そういう事か」


分かってしまった。理解した。

僕は少女に苦しんで欲しくないのだ。笑っていて、欲しいのだ。

身を引き裂くような激情。

愛おしいと感じる心。

その意味が導く答えは1つ。



僕は、彼女に一目ぼれをしたのだ。

13歳も、年下の子供に・・・


「母上」


「なんですか?」


「この少女を、僕に下さい」


僕の言葉を聞いた母は大きく目を開き冗談でしょう?と口に出した。


僕はいずれ、この国を背負う事になる。

第一王子と生まれ、次期国王として育てられた僕は今まで欲しい物など一つも無かった。

ただ流されるままに身を任せ、将来結婚する相手すら興味を示さなかった。

いつか、両親が【王妃】に相応しい娘を選ぶだろうと考えていた。

どうでも良かったのだ。

誰でも良かった。

ただ自分の言う事に忠実であればそれで良いと考えていた。


それなのに・・・


あぁ、なんという事だろう。

僕は彼女を愛してしまったのだ。

狂う程に、愛おしいという感情が溢れて止まらない。


彼女を傷つける全てのモノから彼女を守りたい。

彼女に愛されたい。

彼女に僕を見て欲しい。

彼女を抱きしめたい。




―――彼女が、欲しい。





「この望みを叶えて貰えないのであれば、僕は全ての権利を放棄します。王位継承権などもはや不要。彼女より優先される物などありません。母上、どうか彼女を僕の伴侶に迎える事をお許しください。王妃に相応しくないと言うのであれば、最高の礼儀作法を教え込みます。僕に相応しい娘だと認めさせてみせます。彼女を穢れた娘だと反対する者がいるのであれば処分します。エリス・アレクトの、最初で最後の願いです。お許しください、母上。お許し下さるのであればこの先僕は母上の言う事には二度と逆らいません。お願いです」


「・・・・・・・・・・・・・その少女があなたを好きになるかは分からないのですよ?」


「好きになります」


「言い切りましたね」


「彼女は僕の運命の人です。嫌いになるわけがありません」


「・・・なら、まずは王を説得いたしなさい」


その言葉を聞き、エリスは母の許しを得た事を知った。


「えぇ。きっと得て見せます」


それだけで彼女が手に入るのならば。


「・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・」


「目が覚めましたか。愛しの・・・・・・・・・・・すみませんが名前を教えていただけますか」


「・・・・・・・・・・・・は?」


それが、生涯を掛けて愛する事になる女性、リーシャとの出会いであった












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ