濡れた手の先に
彼女を追いかけ続ける俺の身体に、容赦なく雨が打ち付ける。
彼女は走り続ける。俺から逃げているのだ。
段々と彼女方が先にスピードが遅くなり、息を荒げてその場に止まる。
「はぁ…!?わざわざ、ここまで追ってきたわけ!?」
「あぁ、そうだ。」
当たり前だ。君に”あんなこと”を言われては追いかけない理由がない。
「あんた…私のこと、嫌いじゃないわけ?」
「…何故、嫌いになるんだ?」
「あの噂よ、まさか聞いたことが無いわけ?」
そんなわけがない。何時もクラスの中心人物に仕立て上げられる俺は、
何度もその話を聞かされた。
その内容は酷いもので、彼女が加害者に仕立て上げられているような物語だった。
だが、彼女はまったくの無関係。物語をばらまいている人こそが加害者だ。
だが、周りの奴らは違う。
最初の情報だけで相手を知った気になり、相手への態度を変える。
俺は、そんな奴らの噂を信じるわけがない。
「聞いたことはある。だが、信じるわけないだろう?」
「なんで…私のことなんか…」
「信じてくれるの…?」
掠れた弱々しい声が、雨の音に掻き消されてしまいそうだ。
「なんで、か…それは…」
何度も君に伝えたかった言葉。
でも、言えなかった言葉。
今、ここで伝えよう。
周りの雨の音に連れて行かれないように、君を救えるように。
「君のことが、好きだからだ。」
傘も持っていない手に打ち付けていた大粒の雨が、少しだけ弱まった気がした。




