表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京極高次は静かに暮らしたい  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

第5話 昇りゆく者の影と光

賤ヶ岳の戦いから時が過ぎ、

高次は、ようやく落ち着いた呼吸を取り戻しつつあった。


秀吉の追捕を逃れたとはいえ、

行く先は定まらず、

日々の変化を見つめるしかなかった。


そんなある日、

思いもよらぬ知らせが届く。


――妹・竜子が、秀吉の側室となった。


高次は、しばし言葉を失った。


竜子は幼い頃から聡明で、

浅井家の血を引く気品を備えていた。

だが、秀吉の側室となるとは――

乱世は、人の想像を軽々と越えていく。


竜子は、兄のために動いた。


「兄は、ただ流れに巻き込まれただけ。

 どうか、お許しくださいませ」


秀吉は、竜子の言葉を静かに聞き、

やがて口元に笑みを浮かべた。


「京極高次……あの若者か。

 あれは、妙に勘の良い目をしておる」


秀吉は、戦場での高次の姿を思い返していた。

派手さはない。

だが、状況を読む力と、

無駄に動かぬ慎重さがあった。


「よい。許すとしよう。

 あの男は、運がある」


その一言が、

高次の未来を決めた。


天正十二年(1584)。

高次は秀吉に仕えることを許され、

近江国高島郡に二千五百石を与えられた。


「殿、これで京極家も再び表に立てましょう」


そう言ったのは、

浅井家旧臣であり、

今は高次の側近として仕える **赤尾伊豆守** だった。


伊豆守は、

浅井家滅亡後も京極家に忠義を尽くし続けた男である。


高次は頷いた。


「ありがたいことだ。

 だが、石高よりも……

 ようやく“立つ場所”を得た気がする」


伊豆守は微笑んだ。


「殿は、立つ場所さえあれば、

 必ず道を見つけられるお方です」


翌々年、石高は五千石へと加増された。


「殿、これは異例の早さですぞ」


伊豆守の声には驚きが混じっていた。


高次は、遠くの山並みを眺めながら言った。


「殿(秀吉)は、私を見ておられる。

 それに応えるだけだ」


「殿は慎重で、

 しかし決める時は迷わぬ。

 それが評価されております」


高次は苦笑した。


「私はただ……

 状況を見極めているだけなのだが」


「それを“運が良い”と言うのでしょう」


天正十四年(1586)。

九州平定。


高次は、秀吉の軍に従い、

戦場で功を挙げた。


彼の戦い方は、

派手な武功を求めるものではない。

だが、地形を読み、

兵の動きを見極め、

無駄な犠牲を出さぬ采配があった。


「京極殿の采配は、静かだが冴えておる」


秀吉はそう評し、

高次に一万石を与えた。


さらに大溝城を与え、

高次はついに“大名”となった。


天正十五年(1587)。

高次は、浅井家の娘・初を正室に迎えた。


初は、浅井長政の娘であり、

高次とは従兄妹にあたる。


初は、柔らかな笑みを浮かべた。


「高次様は、

 流れの中で沈まず、

 かといって流されすぎることもない……

 不思議なお方です」


「……褒められているのだろうか」


「もちろんです。

 そういう方でなければ、

 この乱世を歩けません」


高次は、少し照れたように目を伏せた。


天正十八年(1590)。

小田原征伐。


高次はまたしても功を挙げ、

近江八幡山城二万八千石を与えられた。


翌年、秀次が関白に就任すると、

高次は従五位下・侍従に任ぜられた。


八幡山の天守から見下ろす景色は、

かつての自分が想像もしなかった広がりを見せていた。


「……ここまで来るとは、思わなかった」


初が隣で微笑んだ。


「高次様は、

 どこへ行かれても、その場を整え、

 人の心を落ち着かせるお方です」


高次は、静かに頷いた。


乱世の中で、

彼は確かに“道”を見つけてきた。


それは、

力でも、

野心でもなく――

 状況を見極め、

 最善の一歩を選び続ける力。


そしてその選択を支えたのは、

いつも“運”だった。


高次はまだ知らない。


この先、

その運が、

彼をさらに大きな舞台へ押し上げることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ