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京極高次は静かに暮らしたい  作者: 双鶴


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エピローグ 波の音の向こうに

若狭の海は、

今日も変わらず波を寄せている。


寄せては返すその音は、

まるで祈りのように静かで、

どこか懐かしい温かさを帯びていた。


小浜城の天守から海を眺めていたのは、

京極忠高――

高次の長男である。


父が亡くなってから、

季節がいくつも巡った。


だが、

城下に吹く風の柔らかさは変わらない。

町の人々の穏やかな表情も変わらない。


忠高は、

その理由を知っていた。


「……父上が、

 この地に“静けさ”を残されたのだな」


彼は、

父が晩年に愛した祈りの言葉を思い出す。


争いを避け、

人を赦し、

静かに生きることを願った父。


その願いは、

城下の空気に、

人々の暮らしに、

そして海の音にまで

染み込んでいるように思えた。


忠高は、

城下へと続く道をゆっくりと歩いた。


後瀬山の麓に広がる町屋は、

父が整えた街路のままに

穏やかな佇まいを見せている。


二条城を思わせる小浜城の郭は、

戦のためではなく、

人が集い、語り、

静かに時を過ごすための空間として

今日も息づいていた。


「父上は……

 本当に静かに暮らしたかったのだろうな」


忠高は、

ふと空を見上げた。


雲がゆっくりと流れ、

その向こうに広がる青さが

どこまでも澄んでいた。


夕暮れ。

海辺に立つと、

波の音が一層柔らかく響いた。


忠高は目を閉じた。


その音の向こうに、

父の声が聞こえる気がした。


――静かに生きたい。

  それが、私の望みだ。


父が最後に残した言葉。

その静かな願いは、

今も若狭の海に寄せる波のように

絶えず響き続けている。


忠高は、

そっと胸に手を当てた。


「父上……

 あなたの静けさは、

 この地に確かに残っています」


波が寄せ、

また返す。


その音は、

まるで高次の祈りが

今も若狭を包んでいるかのようだった。


そして忠高は、

その祈りを胸に抱きながら

静かに歩き出した。


若狭の空は、

どこまでも穏やかだった。


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