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百回目の硝子の戦場〜白い軍服は、血を知らない〜  作者: 薄氷薄明


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2/2

後編

 



 朝。


 戦場は終わった。


 敵軍も味方も壊滅。


 硝子の森の破片は静かに光を反射し、粉々になった木々が虹色の光を散らす。


 美しい戦場。残酷な世界。

 

 私は立っている。

 血と泥にまみれた、漆黒の軍服を着て。


 煙が晴れた今。私は気づいた。


 周囲には、誰もいなかった。

 あなたも、最初からいなかった。


 血に染まる白い軍服も、私を責めたあなたの声も。



 ――『あなた』が隊長だと思っていたでしょう。


 違う。

 私はセレス。隊長は私、敵軍の。


 『あなた』ーー白い軍服のゼノは戦乱の最中、私の知らぬ間に誰かの英雄になった。



 あなたの部隊に入ったという、瞳のまぶしい若い少年。

 そんな少年も、どこにも存在しなかった。

 あれは、いつかの私とあなたの幻だ。

 かつて私があなたの部下であり、ただ純粋にあなたを慕っていた頃の私自身。


 あの日。

 街を燃やした。

 激化するゲリラ戦。味方の消耗を避ける最後の手段として、街を炎で覆い、敵を葬った。

 夜の火炎に照らされる建物は虹色に輝き、光景は美しい。

 でも、多くの者を死なせた罪は重く、私の胸に深く突き刺さった。


 あの日。

 前線を維持できなくなり、上から「味方ごと吹き飛ばせ」という命令が下った。

 私は座標をわずかにずらした。少しでも命が失われないように。上への小さな反抗として。


 罪の意識は消えない。


 自分の座標を敵に送った。

 司令室にいた私ごと、吹き飛ぶように。



 すべて私一人でやったなんて耐えられなかった。

 だから『あなた』を作った。

 戦場での罪をあなたへの愛に置き換えて心を保っていた。

 生き残った理由を預けて。



 硝子の森が光っている。


 ここは、英雄たちの墓標。

 戦場で散った命そのものが結晶化し、森の姿を成したのが、この硝子の森だ。


 あなたは、とっくにあの美しい森の一部になっているのでしょう。

 無数にきらめく木々のうち、どれがあなたなのか、私には分からない。


 誰もいない戦場で囁く。


「愛していました」


 返事はない。当然だ。


 あなたは過去のループで見た、私が愛した人の残像なのだから。


 破片の光が、私の瞳を映す。

 幻想の残像は、もう誰も踏み込めない場所に。



 世界がひび割れる。


 ーーまた始まる。




最後までお読みいただき、ありがとうございます。


▼本作の裏設定(ネタバレを含みます)

・主人公の正体:味方の後方支援ではなく、敵軍の隊長(黒い軍服)。

・「あなた」の真実:死亡済。会話も、白い軍服も、すべて主人公の心が壊れないように生み出した幻覚です。

・「新兵の少年」の真実:存在しません。何度もループする世界の中で、かつて「あなた」の味方だった頃の純粋な主人公自身の幻影です。


ループする世界で、彼女の「あなた」への愛は心を保つためだけだったのでしょうか。

「あなた」との立場まで変わる絶望的なループの中で、彼女がいつか本当の救いに辿り着けることを祈って。

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