後編
朝。
戦場は終わった。
敵軍も味方も壊滅。
硝子の森の破片は静かに光を反射し、粉々になった木々が虹色の光を散らす。
美しい戦場。残酷な世界。
私は立っている。
血と泥にまみれた、漆黒の軍服を着て。
煙が晴れた今。私は気づいた。
周囲には、誰もいなかった。
あなたも、最初からいなかった。
血に染まる白い軍服も、私を責めたあなたの声も。
――『あなた』が隊長だと思っていたでしょう。
違う。
私はセレス。隊長は私、敵軍の。
『あなた』ーー白い軍服のゼノは戦乱の最中、私の知らぬ間に誰かの英雄になった。
あなたの部隊に入ったという、瞳のまぶしい若い少年。
そんな少年も、どこにも存在しなかった。
あれは、いつかの私とあなたの幻だ。
かつて私があなたの部下であり、ただ純粋にあなたを慕っていた頃の私自身。
あの日。
街を燃やした。
激化するゲリラ戦。味方の消耗を避ける最後の手段として、街を炎で覆い、敵を葬った。
夜の火炎に照らされる建物は虹色に輝き、光景は美しい。
でも、多くの者を死なせた罪は重く、私の胸に深く突き刺さった。
あの日。
前線を維持できなくなり、上から「味方ごと吹き飛ばせ」という命令が下った。
私は座標をわずかにずらした。少しでも命が失われないように。上への小さな反抗として。
罪の意識は消えない。
自分の座標を敵に送った。
司令室にいた私ごと、吹き飛ぶように。
すべて私一人でやったなんて耐えられなかった。
だから『あなた』を作った。
戦場での罪をあなたへの愛に置き換えて心を保っていた。
生き残った理由を預けて。
硝子の森が光っている。
ここは、英雄たちの墓標。
戦場で散った命そのものが結晶化し、森の姿を成したのが、この硝子の森だ。
あなたは、とっくにあの美しい森の一部になっているのでしょう。
無数にきらめく木々のうち、どれがあなたなのか、私には分からない。
誰もいない戦場で囁く。
「愛していました」
返事はない。当然だ。
あなたは過去のループで見た、私が愛した人の残像なのだから。
破片の光が、私の瞳を映す。
幻想の残像は、もう誰も踏み込めない場所に。
世界がひび割れる。
ーーまた始まる。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
▼本作の裏設定(ネタバレを含みます)
・主人公の正体:味方の後方支援ではなく、敵軍の隊長(黒い軍服)。
・「あなた」の真実:死亡済。会話も、白い軍服も、すべて主人公の心が壊れないように生み出した幻覚です。
・「新兵の少年」の真実:存在しません。何度もループする世界の中で、かつて「あなた」の味方だった頃の純粋な主人公自身の幻影です。
ループする世界で、彼女の「あなた」への愛は心を保つためだけだったのでしょうか。
「あなた」との立場まで変わる絶望的なループの中で、彼女がいつか本当の救いに辿り着けることを祈って。




