EP 2
歌姫は極貧につき(新曲:月曜日のレクイエム)
農場の中央広場に、手作りの木製ステージが設置されていた。
今日の農場は、いつもの農作業の手を休め、即席のライブ会場となっていた。
「みんなー! 今日は私の新曲を聴いてくれてありがとうっ! この歌は、異世界の戦士たちが『月曜日』という絶望の魔王と戦う、魂の鎮魂歌なの!」
ステージ上で手を振るのは、異世界のアイドルにして人魚族の末裔、リーザだ。
フリルひらひらの衣装(ルチアナのお古を改造)を身にまとい、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
観客席には、ポチ、フェンリル、三柱の神々、そしてサルバロスや龍魔呂といった、そうそうたるメンツが揃っている。
最前列でペンライト(発光するキノコ)を振っているカイトは、純粋に楽しみにしていた。
「リーザちゃん、歌上手いもんなぁ。どんな曲なんだろう」
「カイト様、なんでもルチアナ様が作詞作曲を指導されたとか」
「へぇ、ルチアナが? 珍しいこともあるもんだ」
カイトが期待の眼差しを向ける中、演奏(魔法による自動伴奏)が始まった。
重々しく、どこか悲壮感漂う短調のメロディ。
リーザがマイクを握りしめ、透き通るような美声で歌い出す。
「ガンガンガンガン! アタマガガン!」
「……ん?」
カイトの手が止まった。
「目覚まし時計の 『キーン』 が辛い~♪
月曜日だ 朝からバックレしたい~♪
布団の宇宙から 帰還 したくない~♪」
(……え? 歌詞、重くない?)
カイトの困惑をよそに、リーザは感情をたっぷりと込めて歌い上げる。その表情は、世界の終わりを嘆く聖女のように美しい。
「満員列車は嫌だ~ 寿司詰めギュー詰め♪
汗と香水の スメルハザード♪
ドナドナドナドナ~ 会社に運ばれる♪
魂抜けた サラリーマン行進~♪」
「ちょっと待って!? 世界観!!」
カイトは思わずツッコんだ。
だが、周りの異世界住人たち(ポチやデュークたち)は、「会社」や「満員列車」の意味がわからず、ただその旋律の「禍々しさ」に聞き入っている。
「ほう……『カイシャ』とは、なんと恐ろしい処刑場なのだ……ドナドナ……」
「魂が抜けるほどの行進……死霊魔術の一種か?」
住人たちが勝手に深読みして震える中、サビに入るとリーザの歌声は熱を帯び、絶叫に近い祈りへと変わった。
「電車が 止まってくれれば~ (あぁ、神様!)♪
会社に 隕石落ちてくれ~ (せめて台風!)♪
宝くじよ 当たってくれぇ♪
ルルルールルルー 現実逃避行~♪」
「ルチアナァァッ!!」
カイトはステージ袖でビールを飲んでいる駄女神を睨みつけた。
ルチアナは「いい詞でしょ? 私の魂の叫びを投影したのよ」とドヤ顔でサムズアップしている。この女神、神界での仕事がよほど嫌だったらしい。
そして曲は、悲劇のCメロへ。
「せめてコンビニで朝飯~ 癒やしを求めて♪
誰だよ エビマヨ買い占めた奴ぅ~ (許せん!)♪
ツナマヨじゃ嫌だ オカカしかねぇ~♪
『ご縁』 しか結べぬ 侘しい 朝だ...♪」
リーザの目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その涙は演技ではない。本気の「空腹」と「悲しみ」が込められていた。
「もう一回だけ ベッドに戻りたい……」
消え入るような最後の呟きと共に、曲が終わる。
一瞬の静寂の後、広場は割れんばかりの拍手に包まれた。
「ブラボー! なんという悲劇! なんという怨念!」
「『オカカ』という響きに、世界の無常を感じたぞ!」
スタンディングオベーションを送る魔物たち。
しかし、カイトだけは気づいていた。
最後のパートを歌っている時、リーザのお腹が『グゥ~』と盛大に鳴っていたことを。
「……リーザちゃん」
ステージから降りてきたリーザに、カイトは声をかけた。
「あ、カイトさん! どうでしたか? 地球の英雄『サラリー・マン』の悲哀、届きましたか?」
キラキラした目で聞いてくるが、その体は小刻みに震えている。
カイトは尋ねた。
「あのさ、歌詞に出てきた『オカカ』……妙に感情こもってなかった?」
「っ……!」
リーザが顔を赤くして俯く。
「……だって、私……最近ずっとパンの耳しか食べてなくて……。コンビニのおにぎりなんて、夢のまた夢で……」
「えっ」
「近所のおばちゃんがくれるお惣菜も、最近減っちゃって……昨日は茹で卵半分でした……」
(アイドルの食生活じゃない!)
カイトは絶句した。
リヴァイアサンの娘であり、こんなに可愛いのに、なぜここまで極貧なのか。
そして、そんな空腹状態で「会社に隕石落ちろ」と歌わせていたルチアナの罪深さよ。
「……龍魔呂さん」
「あいよ」
カイトが呼ぶと、屋台の方から龍魔呂が無言で皿を差し出した。
そこには、焼きたての『特製エビマヨおにぎり(Sランク米使用)』と、具だくさんの豚汁が乗っていた。
「え……これ……」
「食え。ファンサービスだ」
「い、いいんですか!? 夢のエビマヨ……!!」
リーザは皿を受け取ると、大きな口を開けておにぎりに齧り付いた。
「んん~っ!! おいひぃ~~っ!!」
リスのように頬を膨らませ、幸せそうに涙を流すリーザ。
その姿を見て、カイトは心に誓った。
「この子には、もっとまともな仕事を斡旋してあげよう」と。
それがまさか、後に建設される「カイト分校」での、カオスな音楽教師(兼・校歌斉唱係)への道に繋がるとは、まだ誰も知る由もなかった。




