EP 9
本当の恐怖
龍魔呂の拳によって半死半生となった魔人サルバロスは、地面に転がりながら安堵していた。
痛みは激しいが、龍魔呂が拳を収めたからだ。
(……助かった。殺されはしなかった……。この隙に逃げて、いつか必ず復讐を……)
だが、その安堵は一瞬で凍りついた。
龍魔呂が下がった背後から、さらに強大で、さらに禍々しいプレッシャーを放つ影たちが歩み出てきたからだ。
「……ねえ、みんな」
扇子をパチンと鳴らし、魔王ラスティアが艶然と微笑んだ。
「私達、最近暴れてないのよねぇ。ストレス溜まってるし、ここで舐めて貰ったら困るし?」
その隣で、黒いコートを羽織った竜神デュークが、憐れむような目でサルバロスを見下ろした。
「……運がいいな、貴様。始祖竜が居て良かったなぁ、サルバロス」
「え……?」
サルバロスが意味を理解できずにポカンとする。
足元では、小さな竜が「グルルル……(仕方ねぇな、後始末は俺かよ)」と面倒くさそうに唸っていた。
「さあて、責任は取らなきゃね、魔人君♡」
不死鳥フレアが一歩前に出た。
その背中から、真紅の炎が翼のように噴き上がる。
「楽しみだわぁ……♡」
ボォォォォォッ!!
フレアが優雅に舞い始めた。
それは死を呼ぶ演舞。
彼女の周囲に、太陽の如き熱量を持った8つの炎が出現する。
炎は有機的にうねり、やがて8つの巨大な炎龍へと変貌した。
「え? え? ちょっ、待っ――」
サルバロスの顔が引きつる。
熱い、ではない。存在そのものが蒸発する熱波だ。
「『不死鳥紅蓮の舞』!!」
フレアが指を弾く。
8匹の炎龍が、一点集中でサルバロスに殺到した。
ドゴォォォォォォォォンッ!!!!
「ギャアアアアアアアアッ!!!!」
サルバロスは一瞬で焼かれた。
再生能力など意味がない。細胞の一つ一つ、魂の欠片に至るまで、神炎が焼き尽くし、炭化させ、灰へと変えた。
そこには黒い染みしか残らなかった。
「ふぅ! スッキリ♡」
フレアは汗一つかかず、晴れやかな笑顔で振り返った。
「ポチぃ! お願い♡」
「ぐるるる(あいよ)!」
ポチが吠えた。
『時空回帰』。
始祖竜の権能が発動し、サルバロスの周囲の時間だけが巻き戻る。
灰が集まり、炭になり、肉になり、皮膚になり――。
「――ッ!! ひぃぃぃッ!?」
サルバロスは悲鳴を上げて蘇った。
死の激痛と恐怖の記憶を残したまま、五体満足で復活させられたのだ。
「な、なんだ……今、俺は死んで……!?」
「……おい」
ガシッ。
復活した瞬間に、首根っこを掴まれた。
見上げれば、氷の瞳をした狼王フェンリルが立っていた。
「全火力を出せるのか。……次は俺だな。良いサンドバッグだ」
フェンリルの背後に、無数の氷槍が展開される。
「待て待て、フェンリル」
デュークが割り込んだ。彼は楽しそうに拳をポキポキと鳴らしている。
「久々に3柱(俺・お前・フレア)の同時攻撃を試さないか? あいつ(サルバロス)なら死なないし、実験台に丁度いい」
「あら♡ 面白そう♡」
フレアが再び炎を灯す。
氷と炎と闇。
世界を滅ぼせるエネルギーの混合実験。
サルバロスは顔面蒼白で首を振った。
「や、やめろ……許してくれ……!」
「駄目だわ」
フェンリルは冷酷に却下した。
「混合魔法だと一瞬で死ぬ。それでは恐怖を味わえん。……コイツは氷牢責め(ひょうろうぜめ)にするんだ」
パキパキパキッ!
フェンリルの魔力がサルバロスを包み込む。
体感時間を引き伸ばされ、神経を直接凍らされ、指先から一本ずつ砕かれては再生させられる、終わらない拷問コースが確定した。
「ひ、ひぎぃぃぃぃぃッ!!」
サルバロスの絶叫がこだまする。
死んで逃げることも許されない。
神々による「教育」という名の無限地獄は、彼が「人助けの喜び(=石運び)」に目覚めるまで、延々と続くのだった。




