EP 10
居酒屋メニューで反省会
深夜の地下3階。
つい先ほどまで、愛の告白と悲鳴が飛び交っていた『BAR 煉獄』の空気は、劇的に変化していた。
ジュワァァァァァッ……!!
心地よい揚げ物の音。
漂ってくるのは、ニンニク醤油とごま油の芳ばしい香り。
照明は少し明るくなり、BGMはジャズから「賑やかな祭囃子(和風)」へと切り替わっている。
「……ほら、できたぞ」
龍魔呂がドンッとテーブルに置いたのは、洒落たカクテルではない。
山盛りの**『特製・若鶏の唐揚げ』と、湯気を立てる『だし巻き卵』、そしてキンキンに冷えた『メガジョッキ(生ビール)』**だった。
「「「わあぁぁぁぁ……!」」」
カウンターから座敷席へと移動させられた女性陣(ルチアナ、ラスティア、フレア、ヴァルキュリア、セーラ、ルナ、リーザ)が、ゴクリと喉を鳴らした。
「さっきまで『愛』だの『人生』だの語っていたが……。腹が減っては恋もできんだろう」
龍魔呂は、ベストのボタンを外し、袖をさらにまくり上げ、腰に前掛けを巻いていた。
完全に**「居酒屋の大将」**スタイルである。
「食え。カイト農場の地鶏と卵だ。味は保証する」
その言葉が合図だった。
「い、いただきますっ!」
ルチアナが唐揚げに箸を伸ばし、ガブリと齧り付く。
サクッ! という軽快な音と共に、熱々の肉汁が口の中に溢れ出す。
「はふっ、あつっ! うまぁぁぁい!!」
ルチアナは涙目で叫び、すかさずビールを流し込んだ。
クゥゥ~ッ!!
「これよ! 結局これなのよ! 愛より唐揚げ! 恋よりビール!」
創造神の威厳など欠片もない。ただの酔っ払いである。
†
「こっちの焼き鳥も絶品よ!」
ラスティアは、タレの絡んだ『ねぎま』を頬張っていた。
炭火の香りと甘辛いタレが、魔王の胃袋を鷲掴みにする。
「悔しいけど……龍魔呂の言う通りね。こんな美味しいものを前にしたら、悩みなんてどうでもよくなるわ」
「そうですわね……。私、禁断の扉を開けそうになりましたけど、この『だし巻き卵』の優しさを知ったら、家に帰ってリュウにも作ってあげたくなりました」
セーラが、ふわふわの卵焼きを食べてほっこりと微笑む。
龍魔呂の料理には、荒ぶる精神を鎮める鎮魂歌のような効果があった。
「ポテトサラダ美味しいですわー! ハムがいっぱい入ってます!」
ルナもご満悦だ。
「この『冷やしトマト』も最高です! お塩だけでこんなに甘いなんて!」
ヴァルキュリアも箸が止まらない。
先ほどまでの修羅場が嘘のように、全員が笑顔で食卓を囲んでいる。
それを厨房から眺めながら、龍魔呂は満足げに頷いた。
「……フッ。やはり、女は笑って飯を食っている時が一番だな」
彼は手際よく追加の枝豆を茹でながら呟いた。
「龍魔呂さん、さすがだねぇ」
隣でコーラを飲んでいたカイトが感心する。
「みんなの胃袋と心を同時に満たしちゃうなんて。……やっぱり、このハーレムの支配者は龍魔呂さんだよ」
「……よせ、オーナー。俺はただの餌付け係だ」
龍魔呂は苦笑して否定した。
†
宴は深夜まで続いた。
食べ尽くし、飲み尽くし、語り尽くした美女たちは、テーブルに突っ伏して幸せそうに寝息を立てていた。
「むにゃ……龍魔呂ぉ……もう食べられないわよぉ……」
「……唐揚げ……おかわり……」
その無防備な寝顔を見ながら、龍魔呂は静かにグラスを拭き上げた。
「……さて。閉店の時間だ」
彼は一人一人に毛布をかけ、照明を落とした。
シリアスな旅立ちを決意したはずが、気づけば大量の美女に囲まれ、居酒屋のオヤジになっていた夜。
だが、この騒がしくも温かい日常こそが、今の彼にとっての「救い」なのかもしれない。
「……悪くない夜だったな」
龍魔呂は小さく呟き、カイトと共に店を後にした。
こうして、『BAR煉獄の恋騒動』は、誰一人結ばれることなく(全員キープ状態で)、平和な満腹感と共に幕を閉じたのである。




