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EP 3

ルナのマウントと頭ポンポン

 地下3階、『BAR 煉獄』。

 カランカランとドアベルを鳴らして入ってきたのは、元聖女であり、今は勇者の妻として家計と育児に奔走するセーラだった。

「あら……混んでるのね」

 セーラが帰ろうとした瞬間、龍魔呂が素早く動き、席を用意した。

 その流れるようなエスコートに、カウンターに陣取っていたルチアナ、ラスティア、フレア、ヴァルキュリアの「独身美女連合」に緊張が走った。

(……来たわね、既婚者)

(……纏っているオーラが違うわ。あれは『所帯じみた色気』よ)

 彼女たちは直感した。

 自分たちにはない「生活感」という武器を持つセーラは、家庭的な龍魔呂と相性が良すぎる、と。

「……セーラ様、こちらへ。温かいハーブティーでもいかがですか?」

 龍魔呂の声が優しい。

 セーラは疲れた笑顔で席に座った。

「ありがとう、龍魔呂さん。……家じゃリュウもアレンも手がかかって、ゆっくりお茶も飲めないのよ」

「……心中お察しする。リュウ殿は今頃、コンビニでおにぎりを買い占めている頃だろう」

「まあ、あのアホ夫……! 帰ったら説教だわ」

 セーラがため息をつく。

 その「愚痴をこぼす人妻」と「聞き上手なマスター」の構図は、もはや熟年夫婦のような安定感を醸し出していた。

 †

 その空気に耐えられなかったのが、端の席でメロンソーダを飲んでいたエルフのルナだ。

「むぅぅ……! 面白くありませんわ!」

 ルナがストローを噛みながら声を上げた。

「皆さん、大人ぶって! 私も混ぜてください! 私だって数千年生きてるレディなんですのよ!」

「はいはい、ルナちゃんは静かにしててねー」

 ルチアナが手で追い払うしぐさをする。

「そうよ。ここは『修羅場』という名の大人の戦場なの。お子様はあっちで積み木でもしてなさい」

 ラスティアも余裕の笑みだ。

 子供扱い。

 ルナのプライドが傷ついた。

 彼女はドンッとグラスを置き、龍魔呂を睨みつけた。

「龍魔呂! 私にも『大人なお酒』をくださいな! 一番苦くて、一番キツいやつを!」

「……ダメだ」

 龍魔呂は即答した。

「未成年に酒は出さん」

「私はエルフですのよ!? 還暦なんて何十回も過ぎてますわ!」

「……見た目が子供なら、俺にとっては子供だ」

 龍魔呂の鉄の掟。

 ルナは「うわぁぁぁん!」と泣き出した。

「酷いですわ! 私も酔っ払って龍魔呂に絡みたいのに! 甘えたいのに!」

 店内に響くルナの号泣。

 ルチアナたちが「あらあら」と呆れ顔で見ていると、龍魔呂が小さく溜息をついた。

「……やれやれ。仕方ない」

 龍魔呂は冷蔵庫から、カイト農場特製の「完熟マンゴー」と「高級生クリーム」を取り出した。

 ナイフが閃き、マンゴーが花のように飾り切りされる。

 シェイカーでクリームを泡立て、器に盛る。

「……ほら、食え」

 ドン。

 出されたのは、宝石のように輝く『特製マンゴーパフェ(金箔乗せ)』だった。

「えっ……?」

 ルナが泣き止む。

「……酒は出せんと入ったが、甘いものは別だ。カイト殿が『ルナちゃんには内緒で』と残しておいてくれた最高級品だ」

「カイト様が……! それに龍魔呂の手作り……!」

 ルナの目がハートになった。

 彼女はスプーンでパフェを頬張る。

 とろける甘さ。

「ん~っ! 美味しいですわ~!」

 ルナが口の周りにクリームをつけながら満面の笑みになる。

 それを見た龍魔呂は、カウンター越しに手を伸ばした。

「……ついてるぞ」

 龍魔呂の親指が、ルナの唇についたクリームを拭い取った。

 そして、そのまま彼女の銀髪を、ポンポンと優しく撫でた。

「……よく似合っている。やはりお前には、酒より笑顔の方がいい」

 ドクンッ!!

 ルナの時間が止まった。

 クリームを拭われる(接触)。

 頭を撫でられる(接触)。

 そして、「笑顔がいい」という殺し文句。

 †

「…………」

 ルナはゆっくりと、勝利の笑みを浮かべてカウンターの女性陣を振り返った。

「……ふふ。……ふふふふふ!」

「な、なによその顔は」

 ルチアナが嫌な予感を覚える。

 ルナはスプーンをマイクのように突きつけた。

「見ましたか、おば……お姉様方!!」

 彼女は叫んだ。

「龍魔呂は! 私にだけ! 『お触り』しましたわーッ!!」

「ぶっ!?」

 全員が飲み物を吹き出した。

「クリームを拭うという高等テクニック! そして頭ポンポン! これは私が『守ってあげたい存在No.1』であるという証明! つまり実質的な本命ですわーッ!」

 ルナの強引な三段論法。

 だが、その物理的接触スキンシップの多さは事実だ。

「キィィィッ! 生意気よこのチビっ子!」

「龍魔呂! 私の口にもクリームつけなさいよ! わざとつけるから拭きなさい!」

「私なんて全身クリームまみれになってもいいわよ!」

 ルチアナ、ラスティア、フレアが殺気立ってクリームを要求する。

 店内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 その騒ぎの中、セーラだけが静かに紅茶を啜りながら、微笑んでいた。

「ふふ……。龍魔呂さんって、本当に子供好きで面倒見がいいのね。……いいパパになりそう」

 その一言が、龍魔呂の「父性(オカン属性)」を刺激することになるとは、まだ誰も気づいていなかった。

 次回、人妻セーラのターン!

 「聖女セーラ、人妻のときめき」へ続く!

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