表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/100

EP 9

リーザのカラオケ・リサイタル

 天魔窟のB4階にある、完全防音カラオケボックス『セイレーン』。

 最新の音響設備と、異世界転移者たちの記憶から抽出された楽曲データが揃うこの場所で、今まさに伝説のライブ(練習)が行われようとしていた。

 特大パーティールーム。

 ステージに立つのは、農場専属アイドルとなった人魚姫リーザ。

 プロデューサーの女神ルチアナ(すでに泥酔)がタンバリンを叩き、カイトと勇者リュウ(借金返済の休憩中)が観客としてソファに座っている。

「聴いてください! ルチアナPから授かった、新曲です!」

 リーザがマイクを握りしめ、瞳をキラキラと輝かせた。

「この歌は、古代の戦士『オーエル(OL)』たちが、邪悪な魔王『ジョーシ(上司)』と戦い、伝説になる物語だと聞きました! 心を込めて歌います!」

「……嫌な予感がするな」

 リュウが冷や汗を拭う。

 モニターにタイトルが表示された。

 『サビ残なOLのテーゼ』

「ぶふっ!?」

 リュウがお茶を吹き出した。

 チャラッチャ~♪ チャラッチャ~♪(あの有名なイントロ)

 壮大な音楽と共に、リーザが歌い出す。

(歌い出し)

♪サビ残な上司のように

社畜よ 神話になれ

「うっ……!」

 リュウが胸を押さえて呻く。

 リーザの無垢な美声が、元・サラリーマンの古傷を正確に抉ってくる。

(Aメロ)

♪青いグラフ(営業成績)が 今 胸のドアを叩いても

私だけをただ見つめて 命令いつけるあなた

そっと定時を 求めることに夢中で

労基(運命)さえまだ知らない いたいけな瞳

「やめろ……やめてくれ……」

 リュウが膝から崩れ落ちる。

 「青いグラフ」や「労基」という単語が、呪言カースとなって彼の精神を蝕む。

 だが、リーザは意味を分かっていないため、悲劇のヒロインになりきって切なく歌い上げる。

(Bメロ)

♪だけどいつか気付くでしょう その背中には

遥か終電 目指すための 羽根があること

「羽根なんてねぇよ! あるのはタクシーチケット(自腹)だけだよ!」

 リュウが涙ながらにツッコミを入れるが、リーザの熱唱は止まらない。

 そして、サビへ突入しようとした――その時だった。

 バァァァァァンッ!!

 防音ドアが物理的に吹き飛んだ。

 入り口に立っていたのは、真珠のドレスを纏い、鬼の形相をした海の女王リヴァイアサンだった。

「リーザ! ここにいましたのね! また変な歌を……!」

「お、お母様!? 練習の邪魔をしないでください!」

「邪魔などしていません! お母様も混ぜなさい!」

「えっ?」

 リヴァイアサンはマイク(2本目)をひったくると、ステージに上がり込んだ。

「私も地上ここに来て、アイドルの動画を研究しましたわ! 娘だけにいい格好はさせません! デュエットですわよ!」

「お母様……! はいっ!」

 母と娘、最強の海洋親子が並び立つ。

 曲はクライマックスのサビへ。

(サビ)

♪サビ残なOLのテーゼ

窓際からやがて飛び立つ(※比喩)

 『窓際ぁぁぁぁぁ~~~~ッ!!』

 リヴァイアサンのオペラ歌手のような超高音が、リーザのアイドルボイスと共鳴する。

 「窓際族」という言葉の哀愁が、物理的な衝撃波となってカラオケルームを揺らす。

♪ほとばしる熱いストレスで

有給を裏切るなら

 パリィィィィンッ!!

 「ストレス」の部分で込められた魔力が臨界点を超え、テーブルの上のグラスと、リュウの眼鏡(伊達)が砕け散った。

♪この稟議そらを抱いて輝く

社畜よ 神話になれ

 ズドオオオオオオオオッ!!!!

 歌い終わった瞬間、カラオケマシンの採点機能が限界突破し、爆発した。

 (採点:測定不能・国家転覆レベル)

 †

「はぁ……はぁ……。気持ちいい……!」

 リヴァイアサンが紅潮した顔で肩で息をする。

 リーザも完全燃焼の笑顔だ。

「やりましたね、お母様! 『リンギ』って、きっと世界を救う聖剣の名前ですね!」

「ええ、そうですわね! 稟議を通す……なんて重みのある言葉でしょう!」

 親子は手を取り合い、感動を分かち合っている。

 その対面で。

 勇者リュウは、ソファで真っ白な灰になっていた。

「……稟議……ハンコ……差し戻し……うっ、頭が……」

 カイトが慌てて駆け寄る。

「リュウさん! しっかりして! ここは異世界だよ! もう稟議書なんて書かなくていいんだよ!」

「カイト君……。俺、帰るよ……。ポチ殿の散歩の方が、この歌よりマシだ……」

 リュウはよろよろと部屋を出て行った。

 最強の勇者の心を折ったのは、魔神王でも邪神でもなく、「社畜のパロディ」だった。

 †

 ちなみに、この時リヴァイアサンの歌声(超音波)は、地下を抜けて地上の海まで届いていた。

 その影響で、ルナミス近海の魚たちが、翌朝なぜか「整列して死んだような目で泳ぐ(通勤ラッシュ泳ぎ)」という奇妙な現象が確認されたが、原因は不明とされている。

 歌って踊って、心を破壊して。

 天魔窟の夜は更けていく。

 だが、遊びすぎたツケは必ず回ってくる。

 神々の手持ちコイン(Kコイン)が、底をつきかけていたのだ。

 次回、神々が労働に目覚める!?

 「カイト農場、経済圏を確立する」へ続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ