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EP 8

麻雀卓を囲む神と悪魔

 地下遊楽施設『天魔窟』のB3階。

 大人の社交場であるこのフロアの一角に、紫煙漂う個室『四神闘技場(麻雀ルーム)』があった。

 ジャラジャラジャラ……。

 全自動卓(魔法駆動)が牌を洗う音が、心地よく響く。

 その卓を囲んでいたのは、世界の裏側を支配する超大物たちだった。

 東家トンチャ:魔族宰相ルーベンス。

 漆黒のスーツを着こなし、片眼鏡の奥で冷徹な計算を行っている。

 南家ナンチャ:鬼神龍魔呂。

 サングラスを外し、鋭い眼光で卓上の「流れ」を読んでご、静かに牌を磨いている。

 西家シャーチャ:カイト。

 「ルールはよく分からないけど、絵合わせだよね?」とニコニコしている。

 そして、北家ペーチャに座らされたのは――。

 コンビニおにぎりで理性が崩壊し、ふらふらとここに迷い込んだ勇者リュウだった。

「……ほう。日本の『麻雀』を知っているとは。やはり貴様も転生者か」

 ルーベンスが手牌を整えながら、冷ややかな視線を向ける。

「ああ。大学時代、講義をサボって打ち込んだもんだ。……経済学部卒の計算力、舐めないでもらおうか」

 リュウは眼鏡(伊達)をクイッと上げた。

 相手は魔族と鬼神だが、麻雀は運と確率のゲーム。魔力で殴り合うわけではないなら、勝機はある。

 ここで勝って大量のKコインを稼げば、あのUFOキャッチャーの「最高級霜降り肉」や「伝説の美酒」を持ち帰れるのだ。

「レートは『点ピン』ならぬ『点野菜』だ。……負ければ、相応の労働をしてもらうぞ」

「望むところだ。俺の【ウェポンズマスター】の手先は器用だぞ」

 こうして、神と悪魔と勇者による、血で血を洗う闘牌が始まった。

 †

 「ポン」

 「チー」

 場が動く。

 ルーベンスの打ちは、完璧な理論派デジタルだ。

 『超・高速演算』により、捨て牌から相手の手の内を読み切り、危険牌を絶対に通さない。さらに影魔法で相手の動揺(影の揺らぎ)を感知する鉄壁の守り。

(……フン。勇者の手は『タンピン三色』。待ち牌は【六万】か。……通さんぞ)

 対する龍魔呂は、究極の感覚派オカルトだ。

 殺気と直感で「当たり牌」を察知し、さらに相手が恐怖を感じる牌を叩きつけて精神を削る。

(……ここだ。死の匂いがする)

 バチィンッ!!

 龍魔呂が牌を強打するたびに、卓に亀裂が入りそうになる。

「くっ……! なんだこのプレッシャーは……!」

 リュウは脂汗を流していた。

 魔神王との決戦以上に神経が削られる。

 彼の計算では「ここは押せる」はずなのに、龍魔呂の殺気が「切れば死ぬぞ」と告げてくるのだ。

(落ち着け……俺は勇者だ。確率論セオリーを信じろ!)

 リュウは震える手で危険牌を通した。

 セーフ。

 よし、流れは来ている!

 だが、この卓には計算も殺気も通じない、「特異点」が存在していた。

「あ、これ綺麗な鳥さんの絵だね! いらなーい」

 カイトだ。

 彼はセオリー無視で、ドラだろうが役牌だろうが、気に入らない絵柄を捨てまくっていた。

「おいおいカイト君……。そんな無防備な捨て牌じゃ、カモにされるぞ?」

 リュウは余裕を見せて忠告した。

 カイトの捨て牌はバラバラ。どう見ても初心者の「国士無双(役満)狙い」崩れだ。そんなものが成立する確率は天文学的に低い。

(勝てる! この局、俺がもらった!)

 リュウの手牌が完成する。

 リーチ一発、ツモ。満貫確定の綺麗な手だ。

「リー……」

 リュウがリーチ棒を出そうとした、その時。

「あ、揃ったかも!」

 カイトが無邪気に牌を倒した。

 パタリ。

 そこに並んでいたのは、1と9の数牌、そして字牌の全て。

 麻雀における最高難易度の役満。

「……【国士無双・十三面待ち(ダブル役満)】?」

 ルーベンスの片眼鏡が割れた。

 龍魔呂がサングラスを落とした。

 リュウが椅子から転げ落ちた。

「な、ななな……!? 馬鹿な! 捨て牌を見る限り、絶対にテンパイしてなかったはずだ!」

 リュウが絶叫する。

 ルーベンスがカイトの手牌と山を確認し、青ざめた。

「……ありえない。カイト殿、貴方……『嶺上開花リンシャンカイホウ』で、しかも『ハイテイ』で、さらにドラが全部乗っている……?」

 確率など存在しなかった。

 カイトが「欲しい」と思った牌が、物理法則を無視してそこに現れたのだ。

 彼のスキル【絶対栽培(すべてを育てる力)】は、手配の「育ち」すらも支配していたのである。

「えへへ、よくわかんないけど、僕の勝ち?」

 カイトの笑顔が、勇者リュウにトドメを刺した。

 †

 数時間後。

「うぅ……。すっからかんだ……」

 リュウは真っ白に燃え尽きていた。

 財布の中の金貨も、さっき稼いだKコインも、全てカイトとルーベンスに吸い取られた。

 借金まみれだ。

「約束通り、働いてもらいますよ、勇者殿」

 ルーベンスが冷酷に借用書(労働契約書)を突きつける。

「仕事は簡単です。農場の草むしり、ドブ掃除、そしてポチ殿の散歩係です」

「ポ、ポチ殿の散歩……?」

 リュウは窓の外を見た。

 そこでは、全長数百メートルの始祖竜ポチが、「散歩の時間だオラァ!」と咆哮しながら大地を揺らしていた。

「死ぬ! あんなの散歩させたら俺が死ぬ!」

「大丈夫だよリュウさん! ポチは甘噛みしかしないから!」

 カイトが爽やかに笑う。

 こうして、救国の勇者リュウは、カイト農場の「下っ端アルバイト(借金返済中)」として雇われることになった。

 だが、彼にとっての地獄はこれからだった。

 同じ頃、カラオケボックスでは、彼の妻セーラもまた、別のトラブル(ママ友会)に巻き込まれていたのだ。

 次回、アイドルの歌声が海を越える!

 「リーザのカラオケ・リサイタル」へ続く!

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