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EP 7

勇者パーティ、ダンジョン攻略に来る

 カイト農場から南へ数百キロ離れた王都。

 その王宮のテラスで、一組の夫婦が戦慄していた。

「……おい、セーラ。感じるか?」

「ええ、あなた。……背筋が凍るような、禍々しい気配だわ」

 男の名はリュウ(鍵田 竜)。

 かつて魔神王を討ち取り、世界を救った最強の勇者。

 女の名はセーラ。

 あらゆる魔法を使いこなし、夫と共に地獄を生き抜いた最強の聖女。

 彼らは今、遥か彼方の「カイト農場」の方角を睨みつけていた。

「間違いない。魔神王クラス……いや、それ以上の怪物が、5体……いや6体は集まっている」

 リュウの額に冷や汗が流れる。

 彼らが感知したのは、天魔窟で遊んでいる神々(創造神、竜神、魔王、鬼神など)の魔力だ。

 それが一箇所に密集しているのだから、世界崩壊の予兆に見えても仕方がない。

「アレンのためにも、放置はできないわ。……行きましょう、あなた」

「ああ。久々に『本業』に戻る時が来たようだな」

 リュウは愛する息子アレン(6歳)の手を引き、決意を固めた。

 家族旅行を装い、世界の脅威を秘密裏に排除する。

 それが、最強夫婦のミッションだった。

 †

 数日後。

 リュウ一家は、カイト農場へと辿り着いた。

 表向きはのどかな農村風景。だが、リュウの歴戦の勘が警鐘を鳴らしていた。

(……おかしい。畑を耕しているのはスケルトン。空を飛んでいるのはドラゴン。そして、あの納屋から漂う、濃密な異界の気配……!)

「パパ、あそこ行きたい!」

「待ちなさいアレン。あそこが『敵の本拠地』よ」

 セーラが杖を構え、リュウがユニークスキル【ウェポンズマスター】を発動し、亜空間から聖剣と魔剣を呼び出す準備をする。

「行くぞ。どんな罠が待ち受けていようとも、俺たちが粉砕する!」

 三人は、地下ダンジョン(天魔窟)への入り口である納屋の扉を開けた。

 ウィィィィン……♪

 自動ドアが開く軽快な音。

 そして、肌を撫でる涼しく快適なエアコン

「……は?」

 リュウが固まった。

 ジメジメした洞窟を想像していたのに、そこはピカピカの大理石の床と、極彩色のネオンが輝く別世界だった。

 『いらっしゃいませー! 天魔窟へようこそー!』

 愛想の良いゴーストの店員が、深々と頭を下げる。

 BGMは軽快なジャズ。

「な、なんだここは……。幻術か? 精神攻撃か?」

 セーラが警戒レベルを最大に引き上げる。

 だが、リュウの足は、ある一点を見つめたまま動かなくなった。

 彼の視線の先にあったのは、『コンビニ・ダンジョンマート』の看板だった。

「こ、コンビニ……?」

 リュウの足が勝手に動く。

 10年ぶりの光景。

 整然と並んだ商品棚。明るい店内。

 そして、おにぎりコーナー。

 リュウは震える手で、棚に並んだ三角形の物体を手に取った。

 パッケージには、異世界語だが、確かにこう書かれている。

 【 ツ ナ マ ヨ 】

「……嘘、だろ……」

 リュウの目から、大粒の涙が溢れ出した。

 10年間。

 来る日も来る日も、固い黒パンと、味の薄いスープ。

 肉といえば臭みの強い羊肉か、パサパサの保存食。

 夢にまで見た、白米。海苔。そしてマヨネーズ。

 パリッ。

 包装フィルムを開ける音。この音すら懐かしい。

 ガブッ。

「…………ッ!!!!」

 リュウはその場に崩れ落ちた。

 口の中に広がる、ふっくらとした米の甘み。海苔の磯の香り。そして、ジャンキーで背徳的なツナマヨのコク。

「うめぇ……! うめぇよぉぉぉ……! 俺は……俺はこれを待っていたんだぁぁ……!」

 最強の勇者が、コンビニの床で号泣しながらおにぎりを貪り食う。

 亜空間の聖剣など、どうでもよくなっていた。

「あ、お客さん。床で食べると汚れますよ?」

 そこへ、品出しをしていたエプロン姿の青年――カイトが声をかけた。

「あ、すみません……。あまりに懐かしくて……」

 リュウが涙目で顔を上げる。

 カイトは、リュウの黒髪と、その泣き方を見て、ハッと気づいた。

「もしかして……日本人、ですか?」

「……!」

 リュウが目を見開く。

「あ、貴方も……?」

「はい! 僕、カイトです! 農場やってます!」

「お、俺はリュウ……元サラリーマンだ……!」

 ガシィッ!!

 二人は固い握手を交わした。

 言葉はいらない。異世界で「ツナマヨ」に感動できる同志というだけで、魂が通じ合ったのだ。

 †

 一方、夫の醜態(?)に警戒を強めていた妻セーラ。

「リュウ! 何を毒されているの! しっかりなさい!」

 彼女は杖を構え、周囲を威圧した。

 その視界の端に、ピンク色に輝く『UFOキャッチャー』が入った。

 景品の箱には、こう書かれていた。

 【S級ポーション配合・究極アンチエイジング美容液 ~マイナス10歳肌を貴女に~】

「……え?」

 セーラの動きが止まった。

 30代に差し掛かり、最近目元の小ジワを気にしていた元聖女。

 彼女は杖を投げ捨て、ガラスケースに張り付いた。

「こ、これは……若返りの秘薬!? 王家にも伝わっていない伝説の……!」

 セーラは財布から銀貨を鷲掴みにし、両替機へ走った。

「やりなさい! 今すぐ両替を! 私が全財産を賭けて獲ってやるわ!」

 †

 そして、息子のアレン。

 彼はすでに、B2階のマグナギア闘技場へ迷い込んでいた。

「すっげー! ロボットだ! 動いてる!」

 目の前で戦うドワーフ王ガンテツとカイトのトラクター。

 男の子の夢が詰まった光景に、アレンは大興奮だ。

「僕もやりたい! パパ、ママ、僕これに乗る!」

 †

 数時間後。

 カイト農場の休憩スペースにて。

 ツナマヨおにぎりを5個完食し、幸せそうにお茶を啜るリュウ。

 大量のコインを消費してゲットした美容液を抱きしめるセーラ。

 ドワーフ王に弟子入りして、スパナを握っているアレン。

 かつて魔神王を倒した最強の勇者パーティは、天魔窟の文明(と物欲)の前に、完全敗北していた。

「……カイト君」

 リュウがしみじみと言った。

「ここは……天国か?」

「あはは、ただの農場ですよ。……よかったら、また遊びに来てくださいね」

「ああ。……いや、移住を検討させてくれ。公務員なんて辞めてやる」

 リュウの目は本気だった。

 こうして、天魔窟に新たな常連(重課金勢)が加わった。

 だが、遊び呆けている場合ではない。

 B3階の雀荘では、魔界の宰相と鬼神が、新たなカモ(勇者)を待ち構えていたのだ。

 次回、麻雀卓を囲む神と勇者!

 「麻雀卓を囲む神と悪魔」へ続く!

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