EP 6
サウナで整う中間管理職
マグナギア・トーナメントの熱狂が冷めやらぬ中。
戦いを終えた男たちは、天魔窟のB4階にある温泉施設『極楽浄土』の暖簾をくぐっていた。
脱衣所にて。
漆黒のスーツを脱ぎ、几帳面に畳んでいるのは、魔族宰相ルーベンス。
ボロボロになった作業着を脱ぎ捨てているのは、ドワーフ王ガンテツ。
そして、既にタオル一枚で仁王立ちしているのは、竜王ドラグラスだ。
「……ふぅ。肩が凝りますな」
ルーベンスが眼鏡を外し、首を鳴らす。
「違いねぇ。ワシもさっきのトラクター戦で、職人のプライドごと腰を痛めたわい」
ガンテツが湿布臭い体をさする。
三人は無言で頷き合い、浴室へと足を踏み入れた。
†
広大な浴場の奥に、その場所はあった。
扉を開けた瞬間、肌を焼くような熱気が襲いかかる。
『灼熱サウナ・炎魔』。
室温200度。
熱源は、地下マグマから直結した溶岩石。
そして、部屋の中央でタオルを振り回しているのは、炎の精霊王サラマンダーだ。
「ウッス! いらっしゃい! 今日はカイト様のハーブ水で、最高にキマるロウリュを用意してありやすぜ!」
サラマンダーが熱波師として待ち構えていた。
三人はひな壇に並んで座った。
「……かけろ」
ルーベンスが短く命じる。
サラマンダーが、焼けた溶岩石にアロマ水を豪快にかけた。
ジュワァァァァァァァッ!!!!
爆発的な蒸気と共に、ミントと柑橘の爽やかな香りが広がる。
だが、その温度は地獄級だ。
並の生物なら即死する熱波が、男たちの全身を包み込む。
「……くっ!」
ルーベンスが歯を食いしばり、汗を流す。
熱い。だが、この極限の熱さが、日頃のストレスを毛穴から搾り出していくようだ。
「……ふぅ。この熱気、ウチの魔王が予算会議でゴネた時のプレッシャーに比べれば、涼しい風のようなものですな」
ルーベンスがポツリと漏らした。
それが、愚痴大会の合図だった。
「わかるぞ、アンタ……。ワシの国もじゃ。若い職人たちは『デザイン重視だ』とか抜かして、基礎をおろそかにしよる……」
ガンテツが髭から汗を滴らせながら同調する。
「我もだ……。娘は放蕩三昧、同族のデュークはラーメン狂い……。竜王としての威厳など、もはやどこにもない……」
ドラグラスが天を仰ぐ。
種族も立場も違う三人の背中に、哀愁という名の湯気が立ち昇る。
「……オイオイ! 湿っぽい話はそこまでだ! 熱波いくぜぇぇッ!」
サラマンダーが空気を読まずにタオルを旋回させ、さらに熱い風を送り込んだ。
「「「ぬおおおおおおおおっ!!」」」
三人は限界まで耐え、そして一斉に部屋を飛び出した。
†
サウナの次は、水風呂だ。
だが、ただの水風呂ではない。
狼王フェンリルの魔力で冷却された、『絶対零度水風呂』。水面には薄氷が張っている。
ザパァァァンッ!!
三人は躊躇なく飛び込んだ。
「――ッ!!??」
声にならない声が出る。
200度の世界から、マイナス数度の世界へ。
血管が収縮し、神経が研ぎ澄まされる。思考が強制的にシャットダウンされ、ただ「冷たい」という感覚だけが残る。
「……あ、あ、あ……」
ルーベンスの口から、魂が抜けかけていた。
1分後。
彼らはフラフラと水風呂から上がり、露天スペース(地下だが星空が投影されている)にあるリクライニングチェアに倒れ込んだ。
†
――ととのった。
三人の脳内を、快楽物質が駆け巡る。
手足がピリピリと痺れ、体が宙に浮いているような浮遊感。
ラスティアの浪費も、ロボットの敗北も、胃の痛みも、すべてがどうでもよくなる瞬間。
「……いい月だ」
ドラグラスが偽の月を見上げて呟く。
「……ああ。カイト殿の作る施設は、どうしてこうも……痒いところに手が届くのでしょうな」
ルーベンスが脱力した声で返す。
「全くだわい。……あの若造、ただの農夫じゃねえ。人の心を『耕す』天才じゃよ」
ガンテツが笑う。
三人は裸のまま、固い握手を交わした。
「……同志よ」
「……今度、飲みに行きましょう」
「……ああ、割り勘でな」
ここに、種族を超えた「中間管理職同盟」が結成された。
彼らの絆は、ミスリルよりも硬く、サウナストーンよりも熱い。
風呂上がり。
腰に手を当てて、キンキンに冷えた「カイト特製フルーツ牛乳」を一気飲みするおじさん達の顔は、少年のように輝いていた。
「ぷはぁーっ! 生き返った!」
「さあ、明日からも部下の尻拭い(仕事)を頑張りますか!」
彼らがリフレッシュした頃。
地上の入り口には、新たな「客」が到着していた。
シリアスな顔をした「勇者パーティ」である。
次回、シリアス勇者がゲーセンで堕落する!
「勇者パーティ、ダンジョン攻略に来る」へ続く!




