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EP 2

魔王ラスティア、カジノで破産する

 地下迷宮『天魔窟』のB3階。

 そこは、上階の賑やかなゲーセンとは一線を画す、大人の社交場だった。

 カジノ『ロイヤル・スライム』。

 深紅の絨毯が敷き詰められ、シャンデリアが妖しく輝く店内。ディーラーを務めるのは、蝶ネクタイをした知能の高い「ハイ・スライム」たちだ。

 そんな優雅な空間に、悲痛な絶叫が響き渡った。

「い、嫌ぁぁぁぁッ!! 嘘よ! 嘘だと言ってぇぇぇ!!」

 ルーレット台の前で、ドレス姿の美女が床に崩れ落ちていた。

 魔王ラスティアである。

 彼女の目の前では、無情にもルーレットの球が「黒」のポケットに収まっていた。

「あ、赤……。私は『赤』に全財産(Kコイン10万枚)を賭けたのよ!? なんで黒が来るのよぉぉ!」

 ラスティアは台をバンバンと叩いた。

 彼女はカジノに入ってからというもの、魔王らしい豪快さでチップを賭け続け、そして見事に負け続けていた。

 ビギナーズラックなどない。あるのは「魔王は運が悪い」という、勇者物語のお約束だけだった。

「ラスティアさん、大丈夫?」

 見かねたカイトが声をかける。

「大丈夫なわけないでしょ! 今月の『お菓子代』も『ドレス代』も、全部スッカラカンよ! うぅ……これじゃあ明日から水しか飲めないわ……」

 世界の半分を支配する魔王が、ゲームのコインごときで明日をも知れぬ生活に転落している。

 スライムのディーラーが、プルプルと震えながら「お客様、お代の追加は……?」と催促する。

「うぅ……。借金……いえ、国庫から前借りを……」

 ラスティアが震える手で、禁断の誓約書(借用書)にサインしようとした、その時だった。

 パシッ。

 黒い革手袋の手が、ラスティアの手首を掴んで止めた。

「……見苦しいですよ、閣下」

 冷ややかな声。

 そこに立っていたのは、漆黒の執務服を着こなし、片眼鏡モノクルを光らせた男――魔族宰相ルーベンスだった。

「ル、ルーベンス!? 助けて! このスライムがイカサマを!」

「イカサマなどありません。貴女が確率論を無視して、感情のままにチップをばら撒いただけです」

 ルーベンスはため息をつき、ラスティアの首根っこを掴んで椅子から引き剥がした。

「下がっていてください。……私が取り返します」

 †

 ルーベンスは静かに席に座った。

 ゲームはルーレットから、**『ブラックジャック』**へと変更された。

 対戦相手は、このカジノで最強と呼ばれる「キング・スライム」のディーラーだ。

「カイト殿。私にコインを10枚だけ貸していただけますか?」

「え? 10枚だけでいいの?」

「ええ。元手はそれで十分です」

 ルーベンスは受け取ったコインを、指先で弄んだ。

 片眼鏡の奥の瞳が、冷徹な光を帯びる。

「始めましょうか。……授業料(教育)の時間だ」

 カードが配られる。

 ルーベンスは手札を見もしない。ただ、場に出たカードと、山札の厚み、そしてディーラーの微細な魔力振動を観察していた。

 『超・高速演算マスマティカル・プロセッシング

 彼の脳内で、膨大な数式が走る。

 既に出たカードの記憶カウンティング

 残りのカードから導き出される確率分布。

 スライムの表面張力から予測する次のカードの滑り具合。

「……ヒット」

「……スタンド」

「……ダブルダウン」

 ルーベンスの指示は機械のように正確だった。

 最初は小さな勝ちだったが、徐々にレートを上げ、雪だるま式にチップが増えていく。

「な、なっ……!?」

 ディーラーのスライムが脂汗(粘液)を流し始めた。

 勝てない。

 強い手札を出しても、ギリギリの点数でかわされる。バーストさせようとしても、寸前で止められる。

 まるで、次に配られるカードが全て見えているかのような――。

「……終わりだ」

 ルーベンスが最後のカードをめくった。

 【A】と【J】。

 最強の手役、ブラックジャック。

「私の勝ちだ。……配当は3倍。ここまでの勝ち分と合わせて、ラスティア様の負債(10万枚)をちょうど回収させていただく」

 ザザザザザッ……!

 山のようなチップが、ルーベンスの元へ押し寄せた。

 完全勝利。

 カジノ内からどよめきと拍手が起こる。

 †

「す、すごーい!! ルーベンス、愛してるわーッ!!」

 ラスティアが歓喜の悲鳴を上げ、ルーベンスに抱きついた。

「よかったぁ! これでお菓子が買えるわ! ねえ、次はバカラやりましょうよ! 貴方となら無敵よ!」

 調子に乗る魔王。

 ルーベンスは、抱きついてくるラスティアを冷めた目で見下ろし、こめかみをピキピキと引きつらせた。

(……チッ。この浪費家ババアが。少しは反省しろ)

 心の中では毒づきながらも、彼は表情を崩さずに言った。

「閣下。……本日はもう閉店です。これ以上遊ぶなら、来年度の城の改修予算(ピンク色の外壁塗装)を白紙に戻しますが?」

「ひっ!? ご、ごめんなさい! 帰ります! 大人しく帰りますぅ!」

 ラスティアは慌てて引き下がった。

 金庫番には逆らえないのだ。

「やれやれ……。カイト殿、お騒がせしました」

 ルーベンスは肩をすくめ、カイトに借りたコイン10枚を返した。

「いやあ、かっこよかったよルーベンスさん! 数学ってすごいんだね!」

 カイトが感心すると、ルーベンスはフッと口元を緩めた。

「フフ……。計算通りにいかないのは、カイト殿の野菜の成長速度くらいですよ」

 大人の余裕を見せつける宰相。

 だが、この平穏な地下遊園地に、新たな来訪者が迫っていた。

 「なんじゃこりゃあぁぁぁッ!! ワシらの技術がパクられとるぞぉぉッ!!」

 地響きのような怒鳴り声。

 現れたのは、筋肉ダルマのような小柄な老人――ドワーフの国王ガンテツだった。

 彼の背後には、鋼鉄の巨人がそびえ立っていた。

 次回、ロボット対決!?

 「ドワーフ王、ロボットを持って殴り込み」へ続く!

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