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第五章 天魔窟

地下に広がる「ラウンド○ン」

 海への遠足から戻って数日後。

 カイト農場は、いつもの穏やかな日常を取り戻していた――はずだった。

「カイト! カイトーッ! できたよー!」

 庭師の妖精キュルリンが、バタバタと羽を震わせて飛んできた。

 彼女はカイトの鼻先に着地すると、ドヤ顔で胸を張った。

「なになに? 何ができたの?」

「地下の『娯楽室』だよ! カイトが『みんなで遊べる場所があったらいいな』って言ってたから、ボク頑張っちゃった!」

「おおっ、本当!?」

 カイトは目を輝かせた。

 以前、雨の日に「トランプとか卓球とか、ちょっとした遊び場が欲しいな」と呟いたのを覚えていてくれたのだ。

「ありがとうキュルリン! 公民館のゲームコーナーみたいな感じかな? 早速みんなで行ってみよう!」

 カイトは休憩中の神々や従業員たちに声をかけた。

「みんなー! 地下に新しい遊び場ができたって! 行ってみようよ!」

 暇を持て余していた竜神デューク、魔王ラスティア、鬼神龍魔呂、そしてポチたちが、「ほう、遊び場か」と興味深そうについてくる。

 一行は、納屋の奥にあるダンジョン入り口の階段を降りていった。

 †

 地下1階。

 本来なら薄暗い石造りの通路があるはずの場所。

 だが、扉を開けた瞬間、そこに広がっていたのは――。

 パパパパパパァァァンッ!!!!

 ギュイイイィィン! ピロリロリン♪

 視界を埋め尽くす、極彩色のネオンサイン。

 大理石の床に、どこまでも続く近未来的なアーケード。

 爆音で流れるアップテンポなBGM。

「……は?」

 カイトが目を丸くした。

 公民館? いや、これは……。

「『ラウンド○ン』だこれーッ!!」

 カイトの記憶にある、日本の大型複合アミューズメント施設そのものだった。

 いや、広さは東京ドーム10個分はある。天井には魔法で「偽の夜空」が映し出され、遠くにはカジノの摩天楼や、ジェットコースターのレールまで見える。

「えへへ、名付けて『総合地下遊楽施設・天魔窟てんまくつ』だよ!」

 キュルリンがピースサインをする。

「す、すげぇ……。地下を拡張してこんな街を作っちゃったのか……」

 カイトは圧倒されたが、すぐに順応した。

 「まあ、異世界の魔法って便利だしな!」

 一方、神々の反応は違った。

「な、なんだこの煌びやかな世界は……! 天界よりも眩しいぞ!」

 女神ルチアナが目をシパシパさせている。

「ふむ……。魔力の奔流を感じる。この箱一つ一つが魔道具なのか?」

 魔族宰相ルーベンスが、並んでいるゲーム筐体を興味深そうに観察する。

「さあさあ、まずは『ゲームセンター・エリア』だよ! 遊ぶにはこのコインを使ってね!」

 キュルリンが渡してきたのは、カイトの顔が刻印された金貨、通称『Kコイン』だった。

「このコインは、農場のお仕事をすると貰えるんだよ! 今日はオープン記念で10枚サービス!」

「なるほど、労働対価か。よくできたシステムだ」

 ルーベンスが感心しながらコインを受け取る。

 †

 一行は、とりあえず目についた『UFOキャッチャー(物理)』の前に立った。

 ガラスケースの中には、ぬいぐるみではなく、Sランク魔獣の肉塊や、最高級の宝石、レアな魔道具が山積みになっている。

「きゅぅ!?(肉!)」

 カイトの肩に乗っていたポチが、ケースの中にある「マンモスドラゴンの骨付き肉」を見て、身を乗り出した。

 ヨダレが滝のように流れている。

「あ、ポチ。あれが欲しいの?」

「わん!(取れ!)」

 ポチは筐体に飛びつくと、ガラスをカリカリと爪で引っ掻いた。

 しかし、このガラスはダンジョン産の強化クリスタル製。始祖竜の爪でも傷つかない(というか、ポチが手加減している)。

「違うよポチ。これは力ずくじゃなくて、このボタンとレバーでアームを操作して取るんだ」

 カイトがお手本を見せる。

 コインを投入。チャリーン。

 軽快な音楽と共に、ミスリル製のアームが動き出す。

「狙いを定めて……えいっ!」

 ウィーン……ガシッ!

 アームが肉を掴んだ。

 だが、持ち上げた瞬間――スルッ。

 アームが脱力し、肉が落ちてしまった。

「あーっ! 惜しい! 確率機かこれ!?」

 カイトが悔しがる。

 それを見ていたポチが、ブチ切れた。

 『グルルルァァッ!!(なんだそのふざけた鉄屑は! 俺の肉を放せ!)』

 ポチの全身から赤黒い殺気が溢れ出す。

 彼は「ゲームのルール」など知ったことではない。肉が落ちた、その事実に激怒したのだ。

 バヂヂヂヂッ!!

 ポチが口を開け、『崩壊のブレス』をチャージし始めた。

 筐体ごと消し飛ばして、中の肉を強奪する気だ。

「わーーっ!! ダメダメ!!」

 カイトが慌ててポチの口を塞いだ。

「ポチ! ゲーム機を壊したら出禁だよ! ちゃんとルールを守って遊ぶのが『いき』ってもんなんだよ!」

「きゅぅ……(解せぬ)」

 ポチは不満げに鼻を鳴らしたが、カイトに諭されてしぶしぶ殺気を収めた。

「貸してみろ。……俺がやる」

 そこへ、サングラスをかけた龍魔呂が進み出た。

 彼は無言でコインを投入すると、繊細かつ正確無比なレバーさばきを見せた。

 ウィーン……ガシッ!

 アームが肉の「重心」を完璧に捉える。

 そのまま微動だにせず、取出し口へと運ばれていく。

 ボトッ。

「……取れたぞ」

 龍魔呂がクールに肉を取り出し、ポチに渡した。

「わふぅぅ!!(神!!)」

 ポチは目を輝かせ、龍魔呂に飛びついて顔を舐め回した。

 龍魔呂は「よせ、スーツが汚れる」と言いながらも、満更でもなさそうに頭を撫でている。

「すげぇ! 龍魔呂さん、UFOキャッチャーのプロ!?」

「……昔、ユウにお菓子を取ってやるために練習した」

 意外な特技が発覚した。

 その横では、デュークが『パンチングマシーン・ゴッド』に本気でブレスを吐いて「測定不能(ERROR)」を出して爆笑し、ラスティアが『スロットコーナー』の輝きに吸い込まれていた。

「ふふふ……。ここは天国ね。さあ、遊び尽くすわよ!」

 カイトは苦笑した。

 みんな楽しそうだ。まあ、たまには息抜きもいいだろう。

 だが、カイトはまだ気づいていなかった。

 この施設の「中毒性」と、コイン稼ぎのための「労働意欲」が、農場の生産性を劇的に変えてしまうことを。

 次回、魔王ラスティア、カジノの沼にハマる!

 「魔王ラスティア、カジノで破産する」へ続く!

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