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EP 5

聖女の浄化魔法 VS ルナの神域魔法

 聖剣に拒絶された勇者カイルに代わり、前に進み出たのは聖女アリアだった。

 彼女はハンカチで口元を覆い、軽蔑しきった目で農場を見渡した。

「オエッ……! なんて臭いですの! 腐敗と死の匂いが充満していますわ!」

 彼女が指摘したのは、畑に撒かれている「特製肥料」の匂いだった。

 それは魔族宰相ルーベンスが計算し、オークたちが調合した『ドラゴンゾンビの骨粉』や『魔獣の堆肥』であり、農作物にとっては最高の栄養源だ。

 だが、温室育ちの聖女には、ただの「けがれ」にしか見えなかった。

「許せませんわ。神聖なる大地を、このような汚物で満たすなど……! わたくしが全て消し去って差し上げます!」

 アリアは法衣を翻し、聖なる杖を掲げた。

「穢れし大地よ、神の光に焼かれなさい! 【聖域浄化セイクリッド・ピュリファイ】!」

 カッ!

 杖の先から白い光線が放たれた。

 それは畑の肥料を「悪」と認定し、蒸発させようと襲いかかる。

「ああっ!? 私の計算した『黄金比率肥料(1キロ金貨5枚相当)』がぁぁ!!」

 後ろで見ていたルーベンスが悲鳴を上げた。

 だが、その光が地面に届く直前。

 ブンッ!

 横合いから飛んできた「何か」が、聖女の魔法をハエ叩きのように弾き飛ばした。

「……なっ!?」

 アリアが目を見開く。

 そこに立っていたのは、泥だらけのエプロンを着た銀髪の少女――ルナだった。

 彼女の手には、世界樹の杖『ミストルティン』が握られている。

「めっ! ですわ」

 ルナは頬を膨らませて怒っていた。

「お野菜さんのご飯(肥料)を消そうとするなんて、なんて酷いことをしますの!」

「な、なんですって!? 農婦風情が、聖女であるわたくしに意見する気!?」

 アリアは激昂した。

 自分の高貴な魔法が、こんな薄汚い小娘に防がれたことが許せなかった。

「黙りなさい! 貴女ごとき、この最大出力の聖魔法で、塵一つ残さず浄化して……」

「浄化……?」

 ルナが小首を傾げた。

 そして、パァァァッと顔を輝かせた。

「ああ! お掃除対決ですのね! 受けて立ちますわ!」

 ルナの中でスイッチが入った。

 彼女にとって「浄化」とは、敵を倒すことではない。世界をピカピカにすることだ。

 そして何より、庭師として、農業顧問補佐として、よそ者に「掃除」で負けるわけにはいかない。

「見ていてください、カイト様! 本物の『綺麗』を見せてあげますわ!」

 ルナが杖を高く掲げた。

 周囲の大気中のマナが、渦を巻いて彼女の杖に吸い込まれていく。

 その魔力総量は、アリアの聖魔法の数百倍、いや数千倍。

「ひっ……!? な、なによそのデタラメな魔力は!?」

 アリアが顔を引きつらせて後ずさる。

 だが、もう遅い。

 世界樹の巫女が放つ、慈愛と暴走の極光。

「汚れも、曇りも、ぜ~んぶサヨナラ! 【世界樹の極光ユグドラシル・オーロラ】☆」

 シュヴァアアアアアアアアアアッ!!!!

 世界が、エメラルドグリーンの光に飲み込まれた。

 それは破壊の光ではない。

 あらゆる物質を「あるべき清らかな姿」へと強制的に還元する、神域の洗浄魔法だ。

 光の奔流が、聖教国の騎士団を飲み込む。

「うわぁぁぁぁ! 鎧のサビが落ちていくぅぅ!」

「虫歯が治った!? 腰痛も消えたぞ!」

「心が……洗われる……。俺たち、なんで戦っていたんだっけ……?」

 騎士たちは戦意を喪失し、あまりの心地よさにその場へへたり込んだ。

 そして、光の直撃を受けた聖女アリアは――。

「いやぁぁぁぁッ! やめてぇぇぇ! 私の『聖女の加護(厚化粧)』がぁぁぁ!!」

 バリンッ!

 彼女が顔に施していた何重もの「美肌魔法」「デカ目補正魔法」「小顔結界」が、ルナの圧倒的な浄化力によって、ガラスのように砕け散った。

 光が収まった後。

 そこに立っていたのは、聖女アリア……によく似た、「地味で素朴な顔立ちの女性」だった。

 眉毛は薄く、肌にはソバカスがあり、目は半分くらいの大きさになっている。

「あ……あぅ……」

 アリア(スッピン)は、自分の顔をペタペタと触り、絶望の悲鳴を上げた。

「み、見ないでぇぇぇぇ!! わたくしの、毎朝2時間かけた『聖なる威光メイク』がぁぁぁ!!」

 彼女はその場にうずくまり、顔を隠して泣き出した。

 物理的なダメージはゼロ。しかし、精神的なダメージは即死級だった。

 †

「ふふん! 私の勝ちですわね!」

 ルナはドヤ顔で杖を収めた。

 農場はピカピカになり、空気は澄み渡り、騎士団は温泉上がりのようにリラックスし、聖女はスッピンになって泣いている。

 それを見たカイトは、感心して拍手をした。

「すごい! ルナちゃん、今の光の演出、最高だったよ!」

 彼は騎士団がへたり込んだのを、「ショーの演出に感動してくれている」と解釈した。

「あのお客さん(アリア)も、感動して泣いてるみたいだし。やっぱりルナちゃんの魔法は人を幸せにするね!」

「えへへ、それほどでもありませんわ!(カイト様に褒められた!)」

 ルナは嬉しそうにカイトに抱きついた。

 一方、指揮官であるボルジア枢機卿は、ガタガタと震えていた。

 勇者は剣を抜けず、聖女は化粧を剥がされて戦闘不能。騎士団は骨抜き。

「ば、馬鹿な……! ここは悪魔の巣窟だと言うのか!?」

 彼は錯乱し、禁断の言葉を叫んだ。

「おのれ異端者ども! こうなれば、『神の鉄槌』を下してくれる!」

 ボルジアが懐から取り出したのは、天使を強制召喚する禁呪のスクロールだった。

 だが、その行動が、農場に住む「本物の管理者」の逆鱗に触れることになる。

 ビニールハウスの中でバジルの世話をしていた天使長ヴァルキュリアが、静かにじょうろを置いた。

「……神の鉄槌、ですか。いいでしょう」

 彼女の背中から、純白の四枚翼がバサリと展開される。

 次回、本物の天使降臨。

 枢機卿、信仰の根幹をへし折られる!

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