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EP 4

聖剣、主を選別す

 カイト農場の入り口。

 ピザを配ろうとするカイトに対し、勇者カイルは殺気を漲らせていた。

「ええい、どいつもこいつも! 俺を無視するな!」

 カイルは苛立っていた。

 勇者である自分が現れれば、民衆はひれ伏し、敵は恐怖に震えるはずだ。

 なのに、この農夫カイトはのんきにピザを勧めてくるし、後ろにいる執事(龍魔呂)や眼鏡ルーベンスは、自分を「取るに足らない存在」として見ている。

「貴様ら全員、この聖剣の錆にしてくれる!」

 カイルは背中に手を回し、伝説の武具『雷霆らいてい』の柄を握った。

 神殺しの力を持つ究極の兵装。

 これを抜けば、世界を裂く稲妻が走り、あらゆる敵を滅ぼす――はずだった。

 『(……待て、小僧)』

 脳内に、冷徹かつ重厚な声が響いた。

 カイルの声ではない。雷霆の意思だ。

「なっ、なんだ!? 今、抜くところだぞ!」

 カイルが構わず力を込めるが、剣は鞘に吸い付いたように微動だにしない。

 『(目の前の「黒い竜」を見ろ)』

 雷霆の意識は、カイルなど見ていなかった。

 その鋭い感覚は、農場の縁側で寝そべりながら、片目を開けてこちらを見ている「黒いトカゲ(ポチ)」だけに注がれていた。

 ポチの金色の瞳が、スッと細められる。

 始祖竜としての「王の威圧」が、空間を越えて雷霆に叩きつけられる。

 並の聖剣なら、そのプレッシャーだけでへし折れていただろう。

 だが、雷霆は違った。

 『(……ほう。久々に骨のある気配だ)』

 雷霆はポチの威圧を真っ向から受け止め、逆にバチバチと紫電を弾けさせた。

 恐怖などない。あるのは、同格の強者に対する純粋な闘志と、武具としての矜持のみ。

 『(始祖竜か。相手にとって不足なし。……だが)』

 雷霆は冷酷に判断を下した。

 『(今のカイルでは、あの竜に傷一つつけることすら叶わん。抜けば、1秒で砕かれるのはこちらのほうだ)』

 武器は一流でも、使い手が三流。

 このまま戦えば、雷霆自身の「不敗の伝説」に泥を塗ることになる。

 誇り高き神造兵装として、それは許容できない。

 『(頭を冷やせ、小僧。貴様にはまだ、あの怪物は早すぎる)』

 雷霆は自らの意思でロックを掛けた。

 物理的な摩擦ではなく、因果律による拒絶。

 カイルの未熟な魂では、今の雷霆を引き抜くことは不可能となった。

「ぬ、ぬぐぐぐ……! な、なぜだ!? 抜けろ! 俺の聖剣!」

 カイルは顔を真っ赤にして、両手で柄を引っ張った。

 血管が浮き出るほど力んでいるのに、剣は岩のように動かない。

「くっ、そ! 故障か!? なんで本番でこうなるんだ!」

 ジタバタと剣と格闘するカイル。

 その滑稽な姿を、ポチは興味深そうに見つめていた。

 『(……へえ。俺の覇気を受けても折れねぇとはな。中身はそこらのナマクラじゃねえみたいだ)』

 ポチは雷霆の「芯の強さ」を認めた。

 使い手はゴミだが、剣そのものは一級品だ。

 †

 その様子を見ていたカイトは、心配そうに眉を下げた。

「あらら……。お兄さん、剣が抜けなくなっちゃったの?」

 カイトはピザのお盆をルーベンスに預け、カイルに近づいた。

「くっ、来るな! 今抜いて、貴様を……ぬおおおおっ!」

「無理しないほうがいいよ。腰を痛めちゃうから」

 カイトはカイルの背中に手を添えた。

「きっと、手入れ不足で噛み込んじゃったんだね。いい道具も、持ち主との相性が大事だからさ」

「う、うるさい! 俺は選ばれし勇者だぞ! 相性など……!」

「またまたぁ。道具は正直だよ。ほら、ちょっと貸してごらん」

 カイトがカイルの背中越しに、雷霆の鞘に触れた。

 その瞬間。

 頑なに心を閉ざしていた雷霆の中に、電流のような衝撃が走った。

 『(――!?)』

 カイトの手から伝わる、底知れない熱量。

 それは魔力や闘気ではない。

 「この剣を大事にしたい」「直してあげたい」という、純粋で、それでいて太陽のように巨大な「慈愛の波動」。

 雷霆は戦慄した。

 数千年の時の中で、数多の英雄や王に使われてきたが、これほどまでに「よどみのない魂」に触れたことがあっただろうか。

 『(……なんだ、この男は。俺の拒絶を、ただの「不調」として優しく包み込んでくる)』

 雷霆のロックが、自然と緩んだ。

 認めたわけではない。だが、この男の底知れない器に、興味を抱かずにはいられなかったのだ。

 『(……フン。悪くない手触りだ)』

 雷霆は静かに殺気を収めた。

 それと同時に、ポチの警戒も解かれた。

「あ、ちょっと緩んだかも。……お兄さん、この剣、すごくプライドが高そうだね。もっと大事にしてあげなきゃダメだよ」

 カイトはポンポンと鞘を叩き、離れた。

「な、何を……」

 カイルは呆然とした。

 今、確かに剣が「納得」したのを感じた。

 勇者である自分ですら制御できなかった最強の意思が、この農夫の一撫でで沈黙したのだ。

「ば、馬鹿な……。俺より、こいつの方が相応しいとでも言うのか……!?」

 カイルは屈辱に震えた。

 だが、剣が抜けない以上、物理攻撃は不可能だ。

「こうなったら魔法だ! アリア! 貴様の聖魔法で、こいつらを焼き払え!」

 カイルは聖女アリアに命令した。

 アリアは冷ややかな目でカイル(剣に拒絶された無能)を一瞥したが、すぐに気を取り直して前に進み出た。

「ええ、見ていられませんわ。やはり、この地は呪われているのです」

 聖女アリアが杖を掲げる。

「わたくしの神聖なる光で、その不遜な農夫ごと浄化して差し上げますわ!」

 農場包囲戦、第二ラウンド。

 次は「魔法対決」である。

 だが、彼女の相手もまた、最悪の相性だった。

 畑の方角から、肥料袋を持った農業顧問補佐(災害エルフ)が、興味深そうにこちらを見ていたのだ。

「あら? 魔法でお掃除ですか? それなら私、得意ですわ!」

 聖女の「浄化」と、ルナの「神域浄化」。

 格の違いが、農場の空を真っ白に染め上げようとしていた。

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