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EP 2

聖女アリアと勇者カイル、農場へ進軍す

 大陸の中央に位置する、最大の宗教国家「聖教国ルミナリス」。

 その白亜の大聖堂にて、一人の男が報告書を握りつぶしていた。

「……死者が蘇る薬草だと? 老婆が若返る泥の温泉だと?」

 男の名はボルジア枢機卿。

 聖教国の実権を握る最高権力者であり、神の教えを「集金システム」としか考えていない強欲な聖職者だ。

「馬鹿な。そんな奇跡、我が教会の聖女ですら不可能だぞ」

 彼はカイト農場の噂を聞きつけ、焦りと同時に強烈な欲望を抱いていた。

 もしその農場の「秘宝」を独占できれば、教会への寄付金は桁違いに跳ね上がるだろう。逆に、放置すれば教会の権威は地に落ちる。

「異端だ。あの農場は悪魔の力を使っているに違いない」

 ボルジアは歪んだ笑みを浮かべ、控えていた二人の男女に振り返った。

「出番だぞ。聖女アリア、勇者カイルよ」

 †

「お任せください、枢機卿猊下げいか

 優雅に礼をしたのは、金髪を縦ロールにした美女、聖女アリアだ。

 見た目は美しいが、その瞳には選民思想という名の濁りがある。

「辺境の農民ごときが奇跡を語るなど、神への冒涜ですわ。わたくしの聖魔法で、その薄汚い土地ごと浄化して差し上げます」

「フン、大げさなんだよアリア」

 尊大な態度で剣の柄に手をかけたのは、整った顔立ちの青年、勇者カイル。

 彼が腰に帯びているのは、バチバチと紫色の火花を散らす異形の剣だった。

 伝説の武具――『雷霆らいてい』。

 太古の遺跡より発掘された、意思を持つ神造兵装である。

「俺にはこの最強の武器がある。農民風情が何人いようが、俺と『雷霆』の敵じゃねえよ」

 カイルは自信満々に雷霆の柄を撫でた。

 だが、雷霆の刀身から放たれる稲妻は、どこか不規則で、主人の手にすら牙を剥くような不安定さを見せていた。

 カイルはそれを「力が溢れている証拠」だと思っているが、実際は武器の方が**『(……貴様の魂はぬるい。退屈だ)』**と拒絶反応を示していることに、彼は気づいていない。

「よかろう。聖騎士団500名を率い、直ちにその『アナステシア・ファーム』とかいうふざけた場所を制圧せよ!」

「「御意!」」

 こうして、聖教国による「異端審問」という名の略奪部隊が出発した。

 彼らはまだ知らない。

 向かう先にいるのが、自分たちが崇める「神」そのものであるという致命的な事実を。

 †

 一方、カイト農場。

 迫りくる危機など露知らず、カイトはピザ窯の前で腕組みをしていた。

「うーん……。マルゲリータは完璧だったけど、やっぱりバリエーションが欲しいよな」

「カイト様、次はどうなさいますの?」

 隣でエプロン姿のルナが、つまみ食いをしながら尋ねる。

 彼女の口元にはトマトソースがついている。

「そうだなあ。やっぱり『テリヤキチキンピザ』とか、『シーフードピザ』が食べたいな」

「テリヤキ? シーフード?」

「うん。テリヤキソースは醤油と砂糖で作れるとして……問題はシーフードだ。うちは内陸だから、新鮮な魚介類がないんだよね」

 カイトが悩んでいると、屋台の準備をしていた竜神デュークが口を挟んだ。

「魚介か。……そういえば、ここから南へ行った海岸に『リヴァイアサン(海竜)』が住み着いて漁師が困っていると聞いたぞ」

「リヴァイアサン?」

 カイトの目が輝いた。

「それって、すごく大きな魚ってことだよね? もしかして、イカとかタコもいるかな?」

「まあ、クラーケンくらいなら掃いて捨てるほどいるが……」

「よし! じゃあ、今度みんなで海へ行こう! 海水浴ついでに食材調達だ!」

 カイトは能天気に次のレジャー計画を立て始めた。

 その時、庭の警備をしていた狼王フェンリルが、ピクリと耳を動かした。

「……あ? なんか臭うな」

 フェンリルは鼻をひくつかせ、東の方角――聖教国がある方向を睨みつけた。

「魔物じゃねえ。人間だ。……それも、妙に気取った、鼻につく魔力の塊がこっちに来やがる」

「あら、お客さんかしら?」

 洗濯物を干していた不死鳥フレアが首を傾げる。

 フェンリルはニヤリと笑い、鋭い牙を剥いた。

「いや……ありゃあ『敵』の匂いだぜ。しかも、俺の鼻が正しければ……面白いオモチャ(雷霆)を持ってやがる」

 縁側で寝ていたポチも、その言葉に片目だけを開けた。

 金色の瞳が、楽しげに細められる。

「きゅぅ(ほう。……少しは退屈しのぎになるか)」

 カイトだけが、何も気づかずにピザ生地をこね続けている。

「さーて、お客さんが来るなら、たくさん焼いておかないとな!」

 聖女と勇者の進軍まで、あとわずか。

 農場(神々の巣窟)と教会(勘違い勢力)の衝突は、避けられない運命にあった。

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