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ロツオン記  作者: オルデン・ハルト


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第47話 読む者、書く者、継ぐ者(後篇)

 朝の勉強会、その輪はさらに広がっていった。


 三週間が過ぎた頃、シルヴァンが小柄な少年を伴って姿を見せた。少年の面影にはどこかシルヴァンに似たものがあった。


「この子に、文字を教えてやりたくてな。……ついでに、自分も混ぜてもらえんかと思って」

 少年の足元には漆喰が乾いてこびりついている。着込んだ服の下の顔には汗が浮き、頬が赤く染まっていた。


「……この子の将来のためにも、俺自身が変わらんといかんのだ」

 少年の肩へ置いた掌に力がこもった。


 イェンスは、顔を上げてはっきりと答えた。

「もちろんです。必要なのは、覚えたいって気持ちだけですから」

「……ありがとうよ」


 ◇◇◇


 こんなやりとりもあった。


「普段、弟子どもを怒鳴りつけてるくせに、その弟子どもに頭を下げ、子どもに混じって書き取りだと?みっともないと思わんのかね!」

 年配の職人が吐き捨てるように言った。


 シルヴァンはゆっくりと首を振って返す。

「たしかに、みっともないかもしれん。だがな、アルパド、寂しくないか?将来、誰かが技帳を開いた時、そこにお前の技がひとつも載ってなかったら?」


 アルパドと呼ばれた男は言葉を失った。


「シグルド様が俺たちに声をかけてくれた日、自分は変われると思わなかったか?今度こそって、そう思わなかったか?」

 シルヴァンは言い切った。


「俺は思った。俺は変わる。今度こそ――だ」


 シルヴァンの言葉に、アルパドはしばし視線を落としたまま、何も言わなかった。


 だが、白い吐息の立つ翌朝、彼の姿は勉強会の輪にあった。


 ◇◇◇


 やがて勉強会の参加者は延べ七十名に迫っていた。五人いるオルカスト人の子どもたちは、全員が参加していた。


 学ぶ者の理解度に応じて、勉強会は三つに分けられることになった。


 その熱気は、やがて領主シグルドの耳にも届き、彼自身やジョフィアが視察に訪れることもあった。

 二人は、彼らに勉強会の仕組みや、困っていることや、足りないものはないのかなど幾つか尋ねて帰っていった。



 そしてある朝、ペテル・ナジがジョフィアを伴って現れた。


「とても素晴らしい取り組みだ。私にも手伝わせて欲しい」

 ペテルの口から出た次の言葉に、場の空気が一瞬止まった。


「数字を教える者がいないだろう?数の扱いが身についていなければ、帳簿どころか買い物もおぼつかない」

 文字の話で盛り上がっていた若者たちが、顔を見合わせる。中には吹き出した者もいたが、その浅はかさにすぐ気づく。


「……数字、か」「そうか、帳簿もつけられないと」若者たちは目配せを交わすと、そのままペテルに向かって頭を下げた。

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」



 こうして、ヴィンダル人による学び舎に続き、ロツオンはもうひとつの集い場を得た。


 前者はヴィンダル人の子どもたちがヴィンダル語を学ぶ場所。オルカスト語を学ぶ後者は、職人見習いたちが主な生徒だ。自然、ヴィンダル人の姿が多い。

 今は少ないものの、将来的に増えていくであろうオルカスト人の子どもたちも、やがてここで学ぶようになるだろう。


 現実に根ざしながら、それぞれが必要なかたちを取った。



 教え、学び、渡し、受け取る。


 そうしてまた、名もなき者たちの名が、この地に刻まれていく。


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