表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロツオン記  作者: オルデン・ハルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/53

第10話 ゼレニカにて――道を拓く者たち(後篇)

 一方、〈転移〉を終えたシグルドとタマシュは、初夏の陽が白く照り返す中、ゼレニカの官僚庁へと向かっていた。

 官僚長ベネデク・シャーンドルを訪ねる。


「ゼレニカとロツオンを結ぶ街道の敷設計画でございますか?」

「そうだ。粗くても構わない。試算をお願いしたい」


 シグルドの依頼に、ベネデクは一瞬だけ視線を伏せた。


 やがて、穏やかな笑みを浮かべると、机の上から一束の羊皮紙を差し出した。


 そこには、詳細な街道敷設計画が記されていた。

 予想工期は三年。総費用は――金貨十五万枚。


「これは……?」

「実は、公爵閣下のご下命により、あらかじめ試算を整えておりました」

 イムレ・アルマーディ公爵――。

 なるほど、あの御方はすでに先んじてそこまで考えていたということか。


「……となると、この計画はもう動き出していると?」


「恐縮ですが、まだ動き出しているとは言えませぬ。なにぶん、費用も期間も桁外れでございますから」


 自分が動かずとも、既に街道敷設が動き出しているかもしれないという淡い期待は、あっけなく否定された。

 献じた黒竜の財宝――金貨十万枚。その重さをもってすれば街道敷設も手が届くはずだとも、どこかで信じていた。だが、十五万枚という数字が、その思いを無惨に押し潰した。

 それでも、ロツオンに街道は必要なものだという考えに、揺らぎはなかった。


「ベネデク殿。閣下にお会いする機会をいただけるだろうか。正式に、街道敷設のお願いを申し上げたい」

「承知いたしました。明日の昼過ぎに謁見できるよう、こちらで取り計らいましょう」



 ――公爵は、自分の出方を待っているのかもしれない。

 そんな思いを抱えながら、シグルドはベネデクのもとを辞去した。


 ◇◇◇


 官僚庁での打ち合わせを終えた二人は、次の手を打つべく、ゼレニカでもっとも賑わう場所――商人街へと足を向けた。


 交易商の並ぶ一角。訪ねたのは、旧知の商人、マルトン・バラシャだった。


「おお、これはこれは……!いや、いまやロツオン様ですな」

 マルトンは、恰幅の良い体を揺すり、朗らかな笑みを浮かべて迎えた。

 シグルドもまた笑顔で挨拶を返す。


「マルトン殿、入植者をロツオンへ運ぶ船を用意して欲しい。人数は未定だが、三、四百名は集めたいと考えている」

「承知しました。物資の搬送と合わせて調整いたしましょう」

「食料、建材、衣類、農具、工具、家畜……必要な物資を洗い出して、費用を算出して欲しい」


 マルトンの眉がわずかに跳ねた。数百人分の生活必需品と建設資材――自分の商会だけでは手に負えぬ規模だった。

「街の設計については、こちらのタマシュに聞いてくれ。建材の調達も含めて任せたい」


 マルトンは、しばしシグルドの言葉を無言のまま咀嚼した。商人としての本能が目の前の巨大な商機と、それに伴う労力とを秤にかけていた。

 やがて、いつもの朗らかな笑みは消え、商人の顔がのぞいた。


 マルトンは部下を呼び、手際よく帳簿と書類を広げさせた。


「いやはや、これほどの大事業ともなれば、我が商会の力のみでは賄いきれませぬ。信を置ける商会へ声をかけてもよろしいですかな?」

「マルトン殿の目利きと繋がりを信じる。よろしく頼む」

 タマシュが持ち込んだ書付をもとに、マルトンは帳簿へ必要な建材を書き入れていった。シグルドも身を乗り出し、共に算段を確かめた。明日の謁見に備え、その裏付けを持たねばならなかった。



 店を出るころには、長い初夏の日もすっかり落ちていた。

 夜風が海の匂いを運び、その中に笛の音と笑い声が混じっていた。


「もう数字が頭からこぼれ落ちそうじゃわい。早く酒を飲まんとやってられん」

 タマシュが愚痴をこぼす。酒を口にするためなら、タマシュはいくらでも理由をひねり出す――シグルドはいつも苦笑させられる。


「明日は、公爵閣下への陳情だ。悪いが、あまり飲みすぎないでくれよ」

「ふん」と鼻を鳴らし、大股で歩き出すタマシュに、シグルドは肩をすくめて苦笑した。


 やがて、タマシュがふと立ち止まり、真剣な眼差しで口を開いた。

「……全部がうまくいくとは思うなよ、坊主」

「わかっている。できないことはできない。だから、できることを全うするだけだ」

「たまには教会の坊主みたいなことを言うんじゃな」

「こう見えて、本物の教会の坊主でもあるんだよ」



 笑い混じりの言葉を交わしながら、二人の影は、夜のざわめきの中へと溶け込んでいった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ