第5話 “空気キャラ令嬢”、異世界の新産業と推し男子の揺らぎ
「今日もまた、推しが推しと仲良しすぎて私は空気。だけど、空気だって動かせる。風はいつか嵐になるもの――。」
市原あやめは明け方の書斎にて、推し男子たちの噂話を耳にしながら淡々とペンを走らせていた。信用システムの試験運用は順調だが、次なる大仕事は「新産業の創出」だ。
「魔法や旧態依然の産業に縛られない異世界経済。ここで私の経営無双力が炸裂する時!」
今日は、未知の市場に挑戦するための企画説明会だ。財閥の重役や技術者が集まる中、あやめは堂々と前に立った。
「皆さま、ご覧いただきありがとうございます。今回ご提案するのは“異界資源の活用事業”です。」
ざわつく会場に向けて、彼女は新しい技術図面と市場予測表を次々提示する。
「異世界に存在する、魔力を帯びた鉱石――これを活用した新素材の開発です。前世の化学工学の知識を活かし、魔法の力と融合した超耐久・高効率素材を作り出します。」
重役の一人が眉をひそめた。
「それは本当に可能なのか?魔法術師も懐疑的だ。」
あやめは前世の研究報告も用意していた。
「私の企画は魔法師の協力と科学技術の融合が鍵です。すでにいくつかの試作品は完成済みで、市場の需要も想像以上に高い。これが成功すれば、財閥の地位は不動のものになるでしょう。」
会場は次第に静まり返り、重役たちが真剣に資料を見つめる。
--その頃、財閥の隅で推し男子たちは密談をしていた。
アーサー:「最近のあやめの動き、目に余るな。空気なんて言ってられない。」
レイム:「あの子、変わったね。推しが推しと仲良しなだけじゃ飽き足らず、世界そのものを変えようとしている。」
セフィロス:「俺は前から気付いていたけど、やはり無視できない存在だ。」
三人の視線の先に、あやめの姿があった。
夕暮れ、とある屋敷の庭でばったり会ったあやめとアーサー。
「令嬢、話がある。」
あやめは警戒しつつも、内心では期待が膨らむ。
「私の改革、正直どう見ていますか?」
アーサーは真剣な眼差しで答えた。
「正直言って、前よりずっと強い存在に見える。空気から、不動の“推し”になりつつある。何より、その覚悟が尊敬に値する。」
あやめは少し照れながら、
「そう言ってもらえると嬉しいわ。推し男子の世界に入り込めなくても、私には私の戦い方があるの。」
その夜、あやめはベッドでつぶやく。
「推し男子は推し男子同士で団結している。でも、私は経営でこの異世界を動かす。その先に、新しい関係性が生まれるはず。」
「空気キャラの卒業、その先に待つのは“推されるキャラ”かもしれないわね。」
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