第3話 影の空気令嬢、異世界の商業革命を狙う
「推しが推しと仲良しで、私は相変わらず空気。でも、空気って悪くない。だって、見えないところで世界を動かしているんだから。」
市原あやめは書斎の窓際に座り込み、庭で談笑する推し男子たちをぼんやり眺めていた。
アーサーとレイムが最新魔法実験の話で盛り上がる中、セフィロスが珍しく真剣な表情で何かを訴えている。
「……あの3人の世界に入れないのは事実。けど、それが私の戦いの序章。」
あやめの瞳は決意に満ちていた。
「経営戦略の第2段階は『商業革命』。農業改革で土台を固めた今、流通と市場の効率化に取り組むわ。」
翌朝、市原財閥の商業部門の責任者、カイルがあやめを迎えた。
「令嬢、おはようございます。早速ですが、新規の市場開拓案のお話を伺いたいと。」
「そう、カイル。単に商品を増やすだけじゃない。異世界の市場はまだ“場”の整備が足りない。私は市場機能そのものを刷新するわ。」
「市場機能の刷新……なるほど。具体的には?」
あやめは机の上に手持ちの資料を広げる。
「戦略1:昨今の都市商業区の混雑と非効率を解消し、物流システムの最適化。
戦略2:地元職人の優れた技術を全国に展開し、地域経済の活性化。
戦略3:新たな信用制度を導入し、商取引の安全性を高める。」
「……これは大規模ですね。」
「当然、既存の魔法依存型経済とは異なる道。それが私の強みよ。前世の市場理論とITに近い概念で『経営無双』よ!」
カイルもほんの少し笑みを覗かせた。
「令嬢の『見えない空気』扱いを一変させる日も遠くないですね。」
-- その頃、財閥邸宅のサロンでは推し男子たちがあやめの動向を話題にしていた。
「アーサー:あやめが最近、屋敷の外で動いているって噂は本当か?」
「レイム:ああ、見かけたよ。農業改革だけじゃなくて、商業にも手をつけているらしい。」
「セフィロス:(無口に頷く)俺も気になっている。あの子、いつの間にか怖いほど前に出てきたな。」
いつもの推し活トークに微妙な緊張感が混じる。
その夜、あやめは書斎で一人、次の戦略を練っていた。
「信用制度の構築には『通貨の安定』『取引記録の管理』が必須。私の前世知識が活きる。」
壁には手描きの図とメモがびっしり並ぶ。
「推しの彼らが奏でる魔法のハーモニーに、私の経営旋律を合わせて。やがて『推しが推しと仲良しすぎて空気』は私たちの関係図のひとつになるはず。」
あやめは微笑みながら、ペン先を運んだ。
「これが私の異世界転生チート、“経営無双”の真髄よ──。」