3
村を半周分ほど水堀で囲んだ辺りで、急激に魔素の吸収量が増えた。どうやら村人達が水堀や小川の近くに集まって来ているようだった。
「いいぞ、一気に魔素が貯まった。そろそろオブジェクトの設置いけるかな?」
ここまでほぼ僅かな地形の操作のみでダンジョンの領域を広げて来た街づくり好きな迷宮核は、森の一画に開けた空き地を作ると、そこにオブジェクトのサンプルを組み始めた。
壁や床、屋根の一部など、オリジナルデザインの建物を立てる時に予め型を作っておき、それらをコピペして効率よく組み上げるという、ゲームでは定番のやり方だ。
「まずは水場回りの施設から充実させていこうか」
石材を組み合わせて正方形の床石ブロックを作ると、幾つか並べて具合を見る。現在の総魔素量と床石ブロックを一つ作り出すのに必要な魔素量を確認した。
「結構余裕あるな。後は柱と屋根と……、壁はどうするかな。排水の問題は――リサイクルか」
水堀周辺を埋めて開発していく構想を練りながら、ダンジョンの領域内に作った街で、人々にどんな生活をさせようか。
想像を膨らませて楽しむ街づくり好きな迷宮核。
そんな彼の隣で、魔核は相変わらず理解不能な思いを抱きながら沈黙していた。
ダンジョンの一端が多くの人間に見つかってしまったので、魔核を狙う冒険者なる存在が押し寄せてくるのも時間の問題だ。
不安に苛まれながらも、迷宮核が何かを起こそうとする度に必要な知識を与え、見守る。
オブジェクトのサンプルがあらかた仕上がり、水堀の周りも広い範囲でダンジョンの領域に取り込めたので、迷宮核はさっそく水場施設の建設に取り掛かった。
水堀の周囲を床石で固めて整え、堀の内側も土を固めた状態から石の壁に変更して縁を作り、底まで続く階段も生成する。
生活用の水汲み場と洗い場を作り、沐浴用の水場も離れた位置に作る。この頃には村を囲う柵の近くまでダンジョンの領域に取り込めていた。
「もうちょっと魔素が貯まったら、村の中まで一気に進出しようかな」
水堀を作るところまでは僅かな地形操作と迷宮産の水を流しての侵食で領域を拡げて来たが、オブジェクトを建てられるようになった事で、地形の高低差を一気に越えられる手段を得た。
村を含めた付近一帯を呑み込むようにダンジョンの領域化を進める一方で、魔素の吸収エリアを拡げる事を優先して表面を覆うように、薄く広く取り込んだ最初の森の侵食も進んでいる。
地面の地下深くまで浸透してダンジョン化してしまえば、大規模な地形操作で森全域を一気に造り変える事もできるだろう。
当然、それほどの地形操作ともなれば相応の魔素が必要になる。
「準備が調うまではこの村で魔素稼ぎだな」
※ ※
村人達は混乱していた。突然水堀の周囲が整地されたように平らに均されると、足元の地面が立派な石畳で覆われた。
石の柱が生えて屋根が象られ、水堀の中までいつの間にか石材で固められている。
「な、なんだっ なにが起きている!」
「直ぐにここを離れよう! 皆を村まで避難させるんだ!」
謎の水堀を調べに来ていた村人達は慌てて村に引き返そうとするが、小川の周りで遊んでいた子供達は怖いもの知らずで好奇心の塊だ。
小川に流した葉っぱ船を追い掛けていた子供達は、水堀の周りに出現した石造りの建物に興味津々で飛びついた。
石の柱をよじ登ったり、屋根の縁にぶら下がったり、石の長椅子に寝そべったりと、やりたい放題である。
最初は気が気じゃ無かった村人達だったが、きゃっきゃっとはしゃいでいる子供達の様子を見て、恐る恐る石造りの建物と水堀に近付いていく。
「危険は、無いのか……?」
「ほんとに大丈夫か? これ」
今のところ、地面が突然変異するような現象は治まっている。石畳をとんとんと叩いて何も変化が起きない事を確かめ、改めて建物を観察した。
石畳と水堀を覆う石材は艶のある濃い灰色で、石柱や屋根、長椅子は白っぽい石でできている。
「これは……昔、大きな街で見た事がある水汲み場のようだ」
村長がポツリとそんな事を呟いた。




