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迷宮遊戯  作者: ヘロー天気
インフラダンジョン編

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 ゼイラーロフ領の全域と、オーテイア領の一部地域の異界化による領地改革の影響で活気づくテラコーヤ王国。


 王都カンソンに異界化の恩恵を受けられる区画は無いが、比較的近い場所にダンジョンの恩恵全開で急発展しているゼイラーロフ領があるので、王都の住民は気軽に出掛けて街を訪れていた。


 そのお隣オーテイア領は普通の街並みだが、そこかしこに迷宮自販機が設置されていて、通常の街の安心感と異界化した街の利便性をちょうどいい感じに体験できる。


 王都の周辺ではこの二つの領地が、異界化の魅力を知らしめる良い宣伝となっていた。

 一方で、辺境方面など王都から距離のある領地にも、ハイスーク領と同盟契約を結んでいる領地があるので、迷宮自販機の恩恵と利便性は、テラコーヤ王国中に広まっていった。



 街角に設置されている迷宮自販機のラインナップは、一般平民向けの食料や薬、衣類など生活用品が中心になっていて、冒険者が活動する地域ではそこに魔法薬や野営用品などが交じる。


 基本的に武具の類はラインナップに並んでいない。ただし、一部の高ランク冒険者や一定層までの攻略情報が記されたクリアメダルを所持している人物にだけ、特別に販売される。

 市井に置かれた迷宮自販機は、そんな感じで庶民から時には貴族にまで幅広く利用されていた。


 そうした街角の大衆向け自販機とは別に、限られた人間にしか使われない、高級品しか取り扱われない特別な自販機もあった。



 領主の屋敷や宮殿などの、屋内に設置された高級迷宮自販機。

 同じ屋内の自販機でも使用人向けの物は街角にある大衆向け自販機と変わらないが、華美な装飾が施されたエレガントな高級品志向の自販機は、そのラインナップも一線を画する。


「あら、あなた見て。私たちの魔素にあと金貨20枚と宝石数個でアレが買えるわ」

「おお、やっとか。我が領地一年分の収穫と試算された時は気が遠くなる思いだったが……」


 地方の中堅領地を治める伯爵家。愛妻家で知られる初老の伯爵は、妻が嬉しそうに指し示した自販機の、見本窓に並ぶ商品に目を細める。


 高級迷宮自販機では、魔法効果のある宝石や魔道具など、かなり高価な嗜好品が販売される。

 病気や怪我を治す魔法薬なども並んでいるが、中でも特に高価だが絶大な人気を誇る商品に『若返りの秘薬』があった。


 王国功労賞でハイスーク領から寄与された物品に、しれっと交じっていた奇跡の秘薬。


 その効果が本物である事は、大舞踏会の映像演出でアップになった王妃様の肌が、推定五歳分ほど若返っていた事から明らかだと、貴婦人達の間でもちきりであった。


 ちなみに、男性陣で王妃様の肌の変化に気付けた者は、ごく僅かだったらしい。



 王妃様の若返りは、寄与された三本全て使ったのか、一本だけであの効果だったのかは、王家が秘薬の利用情報を秘匿したので不明とされた。


 秘薬の独り占め。これに関しては流石に看過できないと、一部上流貴族層の貴婦人達から王家に対して批判が噴き出していたのだが――


「これでようやく試せますわね」


 ハイスーク領と同盟契約を結んだ領地で、異界化地帯に設置され始めた迷宮自販機の、高級版で販売されていると分かるや、批判していた貴婦人達の関心はそちらに向いた。


 地方とはいえ伯爵領の年間予算並みの価格とあって、簡単には手が出せない『若返りの秘薬』だが、迷宮自販機の決済には現金払いのほか、宝石など現物のレート交換や魔素払いもある。

 そして魔素払いには、高額商品を購入する為の貯め払い制度が用意されていた。


 人間が一日に捧げられる魔素量はそう多くない。なので、数日に分けて捧げ貯めていく方式だ。家族や仲間と共同出資で買う事もできる。


 迷宮自販機の利用時は常にダンジョンの意思が監視しているので、高額商品購入の為に人を集めて無理やり魔素を捧げさせるというような不正は行えないよう、対策も取られている。


「大領地派閥の方々の財力なら、私達より早く手に入れられたかもしれんが……」

「ふふっ あの方達、ハイスークの領主様と折り合いが良くありませんものね」


 迷宮自販機はハイスーク領と同盟契約を結んでいる領地にしか設置されていないし、高級版は領主の屋敷や宮殿の中にしか置かれていない。


 大領地派閥の御仁達が、わざわざハイスーク寄りの領地まで出掛けて、高級迷宮自販機を使わせて欲しい等と頭を下げる筈もなし。



 コトトンと軽い音を立てて、高級迷宮自販機の取り出し口に商品が出て来る。それを手に取った伯爵は、天井照明の光にかざすように見上げると、徐に妻に差し出した。


「ようやく渡せるね。さあ、君へのプレゼントだ」


 若返りの秘薬に対する注目度は高く、実物を試した情報を持っていれば、社交界でも一躍話題の中心になれるだろう。


「嬉しい! 貴重な秘薬ですもの、色々してみましょうね。楽しみだわぁ」

(高い買い物だったが、後悔はせぬぞっ)


 一回りほど若い妻の為に秘薬をゲットした初老の伯爵は、悔いなき選択であったと自賛した。



 その後、伯爵と妻は参加した社交界にて若返りの秘薬を手に入れた事を明かし、秘薬の効果について知りたい紳士淑女達から大層注目される事となった。


 そしてこの時、特に注目を浴びたのは、初老の伯爵の方だった。元々まだ若く、美貌の衰えない夫人の肌艶の具合も勿論注目はされていた。

 が、もう十年来は不毛の岩山だった伯爵の頭頂部が、豊かに生い茂るふさふさに変貌していた姿は、同じ悩みを抱える諸侯達にかなりの衝撃を与えた。


「いやあ、妻と色々試しましてな。一滴、二滴ほど薄めて塗ってみたら、翌朝には産毛が――」

「「「ほう」」」


 真剣に聞き入る熟年紳士達が伯爵の周囲に集まっている。一方で婦人の周りでも、開いた扇子で口元を隠しながら歓談する淑女達が、少々センシティブな話題に声を潜め合っていた。


「えっ、そんな効果もありましたの?」

「そうなの。私もその時はちょっと驚きましたけど、考えてみれば当然の効果だったと言えますわ」

「確かに、若返りの秘薬ですものね~」


 夫人は伯爵と、手に入れた秘薬を毎日少しずつ消費して、色々な使い方を試していたのだが、ある夜、いつも通り就寝しようとしていた夫人が、ふと思い至った。


『この秘薬、ここにも効くのかしら?』

『ええ? ど、どうかなぁ……』


 せっかくなので試してみようと、伯爵の股間に秘薬を垂らしてみた。結果、伯爵の伯爵が蘇って夫人も大満足。


 この話は、お世嗣ぎの問題を抱えている家々に強い関心をもたらしたのだった。




 ※ ※



「なんか若返りの秘薬がすごい売れてるな」

『いつの時代も、人間は不老や若さに焦がれるものだからな』


 高級迷宮自販機のラインナップに若返りの秘薬を加えてから、かなりの高コストとなるのにもかかわらず結構な数が売れている事を、少し予想外に思う街づくり好きな迷宮核。

 そんな彼の呟きに対して、多くの人々の記憶を吸収保持している麓の魔核が「それが人の性だ」などと得意げに説く。


 購入者の傾向や思考ログを調べた限り、大半は美容目的で女性が買っているようだった。

 それならば美容品のラインナップを増やした方が良いだろうかと街づくり好きな迷宮核が考えていると、お知らせボードに届く伝言を管理している西の森の魔核から通告があがる。


『カイメサーカ領とナリーソ領から要望が来ている。街道を敷いてほしいそうだ』

「お、遂に道を繋ぐ決心がついたか。多分すぐに追加の注文が来るぞ」


 隣接している同盟領地同士が、流通量の底上げを図るために領域化街道を望むパターンがこのところ増えている。


 国境に近い辺境寄りの領地では、いつ敵対する隣国に攻め込まれるか分からないという懸念から、道が整備される事を不安視する考えが根付いている。


 だが、お知らせボードを通じて各地の発展状況を知るにつけ、リスクを差し引いてもダンジョンの恩恵に与った方が得だという考えが広まっているようだ。


「この辺りは国境を跨いで来る野盗とか多いみたいだし、自販機も設置して治安を上げとくか」


 迷宮自販機の利用者には、テラコーヤ国外の人間もぼちぼちと増えてきている。そろそろ他国のダンジョンの情報など集めても良いかもしれない。


「でもまあ、まずはこの国のインフラを整備して充実させるところからだな」





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― 新着の感想 ―
ちょっと若返りの薬数滴貰えませんか!?(頭を撫でつつ)
§^▽^§♪ 伯爵夫人「色々してみましょうね。楽しみだわぁ」 (ノ;Д;)ノ 初老伯爵「我が選択に一片の悔い無し!!」 夫人がワクワクしながら、伯爵の『不毛の岩山』や『伯爵の伯爵』に、若返り薬をスポ…
試行錯誤して効果の検証するの良いなぁ そのうちとんでもない悪用方法思いついたりして…
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