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ハイスーク城の執務室にて、イレギュラーダンジョンから『お知らせボード』でゼイラーロフ領とオーテイア領のトラブルに関する一報を受けたハイスークの領主は、即座に騎士団を召集した。
「チャンスだ! 旧武闘派貴族共の牙城に斬り込む良い口実ができたぞ」
「カンヤーツ子爵領ですか……確かに旧武闘派貴族家との結び付きは強いですが――」
あの元王弟殿下は傀儡候補筆頭ですよと、叩いても旧武闘派貴族が絡んでくる可能性は、あまり高くないと側近は告げる。
「構わんさ。とりあえず王都の近くに我が領の飛び地があれば、奴らも静観はできまい」
「え、オーテイアを削り取るつもりですか?」
それは流石に対立派閥ではない諸侯も黙ってはいないだろうし、国王陛下も許可を出さないでしょうと、側近はオーテイア領の削り取りに難色を示す。
「挑発になればいい。祖父をこの地に追いやった奴らが担ぐ神輿を、現ハイスーク領主の俺が叩いて見せれば、心中穏やかじゃいられないだろう」
テラコーヤ国が拡大路線をとっていた前国王時代。
この西端の地で武威を示した祖父を陰で蛮族と嘲り、荒れた辺境の地であるハイスークを褒美と称して与えるよう王に進言したのが、当時王の周りを固めていた武闘派貴族達だ。
祖父に辺境の開拓を押し付け、自分達は王都周辺の肥沃な土地に引き籠もり、裏から軍部を操っていたと聞く。
祖父は、平民上がりな自分が遠征軍の中で最も腕の立つ戦士だった事で、由緒ある貴族家の令息達からは疎まれたと言っていた。
晩年もあまり当時の事を語らなかったが、お酒が入って少し口が軽くなった祖父から聞いた話の中では、度々手柄を横取りされたり、危険な妨害工作を仕掛けられた事も少なくなかったようだ。
「前領主様の屈辱を晴らしたいお気持ちは分かりますが……旧武闘派貴族の勢力は強大ですよ。イレギュラーダンジョンの恩恵に、いささか気が大きくなっているのではないですか?」
少々判断が大胆になっているきらいがある領主に、側近は諫言を以て窘めようとするも――
「当然だ。俺は攻め時を見誤らない」
「そこは否定してくださいよ……」
小揺るぎもせず開き直られて、溜め息を吐くいつもの苦労人な側近であった。
※ ※
準備が整い次第、ハイスークの領主が率いる騎士団は城の訓練場敷地内からゼイラーロフ領の一角に転移。
テモメヤ男爵一家の警護に少数の部隊を割いたハイスークの領主は、挨拶もそこそこに本隊を引き連れてそのままオーテイア領へと進軍した。
これに伴い、街づくり好きな迷宮核はゼイラーロフ領からオーテイア領まで、ハイスーク騎士団の進軍を追うように地下と地上から領域化地帯を伸ばしていく。
地上に領域化街道を敷きつつ、地下にはシールドマシン型ゴーレムで配管ダンジョンを敷設。
領域化街道はオーテイア領の街の入り口前まで繋いで一段落させるが、地下の配管ダンジョンは領主の宮殿まで伸ばして建物と敷地一帯を取り込む予定で展開していた。
やがてオーテイア領の首都となる街の門前で一度部隊を整えたハイスークの領主は、攻め込む前に今回の攻撃の理由を口上として述べる。
ハイスーク領が改革支援の一環でゼイラーロフ領に貸し与えた魔導船を、オーテイアの領主が強奪した事。今もゼイラーロフの善良な領民が不当に拘束されている事などを並べ立てた。
一通り口上を述べた後、一応最後通告としてゼイラーロフの領民の解放と奪った魔導船の返却、ゼイラーロフ領とハイスーク領に対する謝罪と賠償を請求する。
そうしている間も、街門前にはオーテイアの私兵軍が続々と集まり、防備を固めていた。
オーテイア側の少数部隊がハイスーク騎士団の背後に回り込もうとする動きもあったが、領域化街道に入った瞬間即死トラップに掛かって、ダンジョンに美味しく頂かれた。
それから半刻と経たないうちに戦闘が開始された。
ただし、両軍がぶつかり合うという事はなく、ハイスークの領主と彼の両脇を固める騎士の最初の騎馬突撃で防衛陣に穴が開いた。
「これはあんまり参考にならないかな」
街づくり好きな迷宮核は、軍部隊同士の戦いから戦術を学ぶつもりで観察していたのだが、ハイスーク騎士団がオーテイア私兵軍を一方的に蹴散らしただけで終わった。
少し前に吸収した暗部の記憶情報によると、オーテイア領の私兵軍はかつて武闘派貴族と呼ばれていた古い家々から出向してきている雇われ兵で、結構な手練れという事だったが、ダンジョン式訓練場で鍛えられているハイスークの騎士とは実力差があり過ぎたようだ。
現在、ハイスーク騎士団がカンヤーツ子爵の宮殿を包囲しており、ハイスークの領主が自ら宮殿に乗り込もうとしている。
街づくり好きな迷宮核は、ここまでの一連の様子をハイスーク領と同盟契約を結んでいる各領地に『お知らせボード』を使ってライブ配信していた。
ハイスークの領主がカンヤーツ子爵の宮殿に乗り込むに当たり、宮殿の地下まで伸ばしていた配管ダンジョンを上に伸ばして宮殿に接続、ダンジョンの領域に取り込みにかかる。
建物を完全に掌握してしまえば、宮殿内の様子を自由に覗けるようになる。今のところ基礎の柱から壁沿いに侵食を進めているが、全体を領域化するにはかなりの時間が必要だ。
なので、ハイスークの領主と彼の騎士達の装備の一部に埋め込まれている霊体系の魔物の視点から宮殿内部の様子を観察している。
ここからはハイスークの領主とカンヤーツ子爵の直接対決の様子を配信する予定であった。
「みんな釘付けになってるな」
当然、街づくり好きな迷宮核からは『お知らせボード』前に集まっている各同盟領地の領主一家の様子を覗き見る事もできるので、この一件がテラコーヤ国にどれほどの影響を与えるか、ここから得られる情報で推察する事も可能だ。
大舞踏会の舞台づくりが切っ掛けで構築したこの迷宮通信網だが、手紙の投函によるやり取りよりも遥かに迅速かつ正確に住民の要望や反応を知る事ができる。
街づくり好きな迷宮核としては、これから手掛ける街をどのように発展させるか、新たに作る街の方向性を定めるのに非常に重宝するシステムとなった。
『お前は、そこは本当にブレないな』
西の森の魔核は、街づくり好きな迷宮核が作る様々な仕掛けや新しい道具、いつの間にか超巨大ダンジョン並に拡大して、常にプラス収支な魔素を誇る地上型ダンジョンを安定させるなど、ダンジョンマスターとして破格の働きをしながらも、それらは全て街づくりの一環でしかない事に、称えれば良いのか呆れれば良いのか分からないと、苦笑の感情を浮かべた。




