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本日二度目の更新になります。前話を読んでない人は32話からどうぞ。
王都カンソンの王城にて。今日の執務を一段落させて寛いでいる国王のところに、火急の案件を告げる書状が届けられた。
「これは、陛下の裁定が必要かと存じます」
「うーむ」
特別な伝書鳥によって運ばれてきた、ゼイラーロフ領からの書状を側近達と確認してみれば、オーテイア領による不当な領民の拘束と収奪行為を訴える内容だった。
国王は額に手を当てると、溜め息を吐くように愚痴を零す。
「またカシナートは問題を……」
近年は治水工事など公共事業を手掛けて自領の発展に寄与する活動をしていたので、やっと落ち着いたかと思った矢先にこのやらかしだ。
ゼイラーロフ領は、領地の全面異界化を望んで大改革中らしいと聞いている。
(隣の領地の急速な発展を見て、ダンジョンの恩恵に目がくらんだか……いやまて、カシナートは確か、今回の大舞踏会には参加していなかったはず)
ハイスーク領都の、あの隔絶したダンジョン環境の世界をどこまで理解しているのか。
訴えの書状を読んだ限り、ゼイラーロフ側は魔導船の所有について、ハイスークの貸与品であると主張している。そうして他領や奔放な大貴族とのトラブルを避けようとしていたようだ。
(分かっていて手を出したのなら、ハイスークに喧嘩を売るも同然の行為だが――)
その時、王宮の伝令が飛び込んできて緊急事態を告げた。
「陛下、大変です! ハイスークがオーテイアに攻め込みました!」
「ぶほぉ!」
飲みかけていたお茶を噴き出す国王陛下。側近達も顔を見合わせ、戸惑っている。
「ど、どういう事だ」
詳しい状況を聞いてみると、ハイスークの騎士団がオーテイア領に進軍して首都を制圧。領主の屋敷を包囲して門前に陣取っているらしい。
なんでも、改革支援しているゼイラーロフ領に貸し出していた魔導船をオーテイアに強奪されたので、抗議と報復で攻め入ったとの事。
今はオーテイア領主に使者を出して、事実関係を問い質している最中なのだとか。
「し、しかし、どうやってあんな遠くから……いや、そうか――転移陣」
国王は、ここ最近の国内の情勢を思い浮かべた。ハイスークが多数の小領地と同盟契約をしている話は、割と盛んに聞いていたので把握している。
(確か、ダンジョンを繋いで生活支援をしているとか――ん?)
ハイスークのダンジョンは、今やテラコーヤ王国中に広がっているので、国内のあらゆる場所へ転移が可能なのだという事に、今更ながら気づいた。
「……あれ、これやばない?」
王宮上層の執務室で、重大な事実に気付いた国王が冷や汗を浮かべる少し前。オーテイア領の首都の中心にある領主の屋敷――カンヤーツ子爵の宮殿にて。
「カシナート様、首都の街門前に軍が現れました」
「ハッ ゼイラーロフに軍など」
つい半刻ほど前に拘束して地下牢に放り込ませたゼイラーロフ領の使者、テモメヤ男爵家の家令が持って来た問い合わせの親書を流し読みしていたカシナートは、そう言って鼻を鳴らすも――
「いえ、伝令によると、陣取っている部隊はハイスークの軍旗を掲げているとの事です」
「ハイスークだと? ……そう言えば、魔導船はハイスークからの借り物という話だったな」
この親書にも、その辺りの事が書かれている。が、カシナートにとっては些細な問題だ。今はあの魔導船を使って大商会連合からどれだけ軍資金を引き出せるか。交渉役を誰に任せるか。
自身の支持者は皆武闘派だからか、交渉事があまり上手くない。そちらの問題で頭が痛い。
「まあいい、ハイスークの軍旗など掲げていようが、中身はゼイラーロフがかき集めた民兵だろう、とっとと蹴散らせ」
そこに、甲冑を土で汚した伝令が駆け込んでくる。
「ぜ、全滅しました」
「なに? もうやり合っていたのか。しかし即全滅とは、流石ゼイラーロフ、笑わせてくれる」
「いえ、全滅したのは我が軍です! 相手はハイスークの騎士団でした!」
あんなの無理だ――そう言って伝令は崩れ落ちた。ここまで振り絞って来た気力が尽きたようだ。
「――――なんて?」
静まり返るカシナートの執務室に、彼の間の抜けたような声がよく響いた。




