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 魔素の吸収範囲を優先して薄く広く、表層を取り込んだ森の中で、『迷宮の泉』の拡張をしていた街づくり好きな迷宮核は、魔素の吸収エリアに新たな生命体の侵入を感知した。


「お、人間だ。魔素の増え方ハンパないな」


 魔素の吸収率が泉の周囲に集まった動物達の比ではなく、ぐんと伸びる。ノンビリ水を飲んでいた鹿が狩られたりしているが、その瞬間も魔素が大きく吸収された。


 街づくり好きな迷宮核の魂は『これで次のステージに行ける』などと喜んでいるが、隣で不貞寝するように沈黙していた魔核は、もう人間に見つかってしまったのかと絶望している。



「森の近くに人が住んでるのなら、まずはそこまでダンジョンを伸ばそうかな」


 隣で魔核が何言ってんの迷宮核(この子)!? というような反応を見せるが、街づくり好きな迷宮核は気にせず迷宮拡張の作業を進めていく。


 地形を操作して溝を作り、泉から水を流して小川を形成する。森の表層はほぼ全域をダンジョンの領域として取り込んでいるので、これらの作業は殆ど一瞬で終わった。


 一晩で森の外まで伸ばした溝の終点に、森の奥から流れて来た迷宮産の水が溜まっていく。やがて溢れた水が周囲の地面を侵食して、そこをまたダンジョンの領域に取り込んでいく。


 森の外の様子を見られるようになった迷宮核は、人の姿を探した。


「ふーむ? 向こうに建物が見えるな」


 木と石で組まれた小さな家々と、広い範囲に渡って設けられた木の柵。畑らしき場所も見える。

 規模としては小さな村くらいだろうかと当たりをつけた迷宮核は、その村に向かってダンジョンの領域を広げていった。


「むむ、これ以上は厳しいか」


 しかし、村まであと少しというところでダンジョンの侵食速度が鈍った。

 森の奥からここまでは緩い傾斜がついていたので、溝を作って水を流すだけでダンジョンの領域を伸ばして来られたが、村のある土地は周囲よりやや高くなっているのだ。

 村の外に、大きな水たまりができ始めた。


「村を水没させるわけにはいかないからな。ここは池にして少しずつ広げていくか」


 迷宮産の水が染み込んだ地面をダンジョンの領域に取り込む事で、その表面を固めて水を溜め易くすると、村を囲む堀のような貯水池を形作っていく。

 ここまで一気に伸ばしてきた小川も、ダンジョンの領域を広げる侵食の起点にしている。


 『迷宮の泉』の底に鎮座する魔核は、この迷宮核が何をしたいのか理解できず、ただただ彼の隣で成り行きを見守っていた。




 ※ ※



「村長! 村長! 大変だぁー!」


 その日、村長宅に血相変えて駆け込む村人達の姿があった。何事かと聞いてみれば、村の周りに水堀ができているとか。


「水堀?」

「とにかく来てくれ! ありゃあただ事じゃないっ」


 そう急かされて村の出入り口までやって来て見れば確かに、村を囲う防護柵からそう離れていない場所に広い水堀ができていた。

 自然に沸いた泉や水たまりではなく、明らかに人の手が入っている貯水池のような水堀だった。


「これは……」


「昨日の夕方までこんなのは無かった。一晩で現れたとしか思えねぇ」

「でも、夜に作業してる奴なんか誰も見てねぇんだ」

「あと、ここの水って西の森から流れて来てるみたいです」


「森から?」


 水堀の周辺を調べていた村人達に案内されて村の西側に回ってみると、森の方から真っ直ぐ伸びた不自然な小川が、謎の水堀に繋がっていた。

 小川の周りでは、子供達が葉っぱの船を流して遊んでいる。


「おいっ、お前達危ないぞ!」

「そこから離れなさい! 水堀に近付いても駄目だ!」


 村長を案内して来た村人達は、無邪気に遊ぶ子供達の姿を見て慌てながら叫ぶ。得体のしれない現象が起きているのに危機感が無さ過ぎると頭を抱えていた。


 この村で最も頼りになる老いた猟師は、教会のある近場の街に出掛けて留守にしている。

 村長は、今村に居る若い衆と自分達だけでこの異変に対処しなければならないと、村人全員に緊急召集を掛けるのだった。






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やばい、面白い。 期待してます。
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