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ダンジョン最深部の中枢を部屋ごと落とし穴に落とすという、冗談みたいな攻略法を以て『穢れ山の魔核』を『西の森の魔核』に摂り込ませた『街づくり好きな迷宮核』は、さっそく次の作業に取り掛かる。
穢れ山ダンジョンの支配権が全て西の森の魔核に移った事で、街づくり好きな迷宮核が自由に弄れるようになった。
そしてもう一つ。摂り込んだ穢れ山の魔核は、元麓ダンジョンの魔核と元中腹ダンジョンの魔核の二つが手に入った。
中腹ダンジョンの魔核は、麓ダンジョンの魔核に摂り込まれてから迷宮核に堕とされ、扱き使われていたようだ。
麓ダンジョンの迷宮核は、中腹ダンジョンを疲弊させる為に麓のダンジョン自体が長らく隠され、封鎖されていたせいか、迷宮核としての経験が蓄積されておらず、成長もできていなかった。
故に、中腹ダンジョンとの喰い合いの際に吸収されて消滅していた。
麓ダンジョンの魔核が中腹ダンジョンの魔核を迷宮核に堕としたのは、本来の迷宮核を失った穢れ山ダンジョンを運営していく為の非常処置でもあったのだ。
それはさておき、穢れ山ダンジョンの情報を参照する街づくり好きな迷宮核は、ひとまず穢れ山の魔核二つを西の森の魔核の近くに並べて置いた。
ダンジョンの領域が繋がってさえいれば、どれだけ距離があっても遅延無しで領域内を操作して作業できる事が分かっているので、離れた場所よりも近くに置くことにしたのだ。
西の森の奥にある、そこそこ広くなった『迷宮の泉』の底に三つの魔核と一つの迷宮核が並んで鎮座する。
『……』
『――』
『……おい』
こうなるであろう事を察していた『西の森の魔核』。
無口な『穢れ山の中腹の魔核』。
何かガラの悪い『穢れ山の麓の魔核』。
穢れ山の麓の魔核は、自分が設置された場所の情報を得て唖然としていた。
『なんだここは。お前の地下迷宮は? 魔核部屋は?』
『そんなものはない』
西の森のダンジョン領域内である事は分かるが、どう感知してもここは地上だ。『無いとはどういう事か』と、西の森の魔核に詰め寄る勢いで問い質す穢れ山の麓の魔核。
『ないのだ。迷宮核が作らなかった』
『作らなかった? 何故だ。迷宮核の役割を教導しなかったのか』
したけど無視されたんだと、西の森の魔核は投げやりに答えている。
『――』
穢れ山の中腹の魔核は、揺蕩う水面から射し込む太陽の光に和んでいた。
そんな姦しい魔核達のコミュニケーションをBGMに、街づくり好きな迷宮核は穢れ山ダンジョンの構造を把握すると、中腹のダンジョンに魔素を通して穢れ山全体から瘴気を除去していく。
「これ、山は丸ごと弄れそうだな。魔素量も底が見えないほど増えてるし、これならいけるか」
山頂に生やした視点用の石柱から山の周囲全域を見渡せば、穢れ山ダンジョンの出入り口がある正面に、街づくり好きな迷宮核が造った『冒険者の街』が広がっている。
麓ダンジョンの下層で活動していた高ランク冒険者達が、迷宮の異変を感じ取ったらしく、地上を目指し始めた。
出入り口前には、未だ警戒態勢の冒険者が多数集まっている。
彼らには、もう危険はなくなった事と、これから大規模な地形操作をするので山から離れるよう、警告の看板付き石柱を麓の一帯に生やして周知してもらう。
「お、このダンジョンは階層ポータルとかあるのか。これは使えるな」
取得した情報量が多過ぎてまだまだ全容を把握しきれていないが、下層の冒険者が階層移動用の転移陣を通って一気に地上に出て来た事で、転移トラップカテゴリの仕掛けを確認できた。
設置コストと維持にも相当な魔素を使うが、今の魔素量なら気軽に設置できる。
「さて、それじゃあ始めるか」
穢れ山の中腹ダンジョンは封鎖されていたので元より無人。麓ダンジョンには特に大きな影響は出ない予定だが、一応脱出する冒険者達を待ってほぼ無人になったところで作業開始。
山の上半分を地形操作で大きく変化させていった。