第四話[魔法使い]
命の国。
崩壊した街の中、私は手を繋ぎ走っていた。
ヒカリはこの手を、このときだけは絶対に離そうとはしなかった。
私は過去のことを思い出していた。
永遠の国。
私は依頼の仕事を終わらせたあと、街中を歩いていたら「貴様!」とうしろの方から女の子の声が聞こえてきた。
珍しい呼び方だな、と思いながら歩いていたら「おい!貴様だ!貴様!」と再び声が聞こえてきた。
(呼ばれてるのに気づかないなんて)と一瞬だけ笑ってしまった。
「おい!ハルカ‼」
呼ばれてるのが自分だということに気づき、驚いた。
「えっ!私⁉」
うしろを振り向くと女の子が立っていた。
申し訳ないことをしたなと思い「なんですか?」と聞いた。
女の子は全身黒い服で覆われていた。
そんな格好で周りをキョロキョロ見たあとで「ここでは話せない」と言うものだから(怪しいな・・・)と思った。
私は女の子を無視して再び歩き始めた。
「おい!待て、貴様!ハルカ‼」
女の子は追いかけてきた。
さすがに可哀想になってきて足を止めた。
「僕は怪しくないぞ」と言いながら女の子は冷や汗をかきながら目を逸らした。
怪しかった。
「大丈夫だ、僕の店の前は人がよく通るから・・・、・・・・・・ついてきてくれ」
女の子は私の手首を掴むと自店へ歩き始めた。
女の子の手の力は振り解けるほど弱かった。
私は仕方なくついて行くことにした。
「ここが僕の店だ!」
女の子の見た目に反して店の外観はまともだった。
「ふーん・・・、店は意外とまとも」
人通りも多いし怪しい印象が薄くなった。
女の子と中に入ると、いきなり全身黒い服を着た男の子が飛び出してきて、女の子に抱きついた。
「ネ〜イ〜!」
抱きつかれたネイは悲鳴を上げた。
「ぎゃああぁぁ‼タイト!やめろ‼」
タイトは私の存在に気づくと私を見て睨んだ。
「お前!まさかネイの彼女じゃないだろうな⁉」
その言葉を聞いて(何を馬鹿なこと言ってんだ・・・、この人は)と思いかけ、言葉の意味を考えた。
ある考えに至った。
「え⁉君、まさか男⁉」
私はネイの方を見た。
「違う」
簡単に否定された。
タイトは、「なぁ〜んだ」と安心していた。
「え!じゃあやっぱり男?」
私は混乱していた。
「どっちも違うといったんだ」
ネイは冷静?だった。
「タイト、プレートを閉店に変えてきてくれ」
タイトはふざけた調子で「はいはーい」と言うと、プレートを変えに行った。
店の中は派手な服が並んでいた。
「派手だね・・・」
私はそう呟くと「フッフッフッ!」とネイは嬉しそうな表情をして「ここは、この国の王様お気に入りの店だ」と誇らしげに言い放った。
たしかに王様は派手な格好をしている。「そうなんだ⁉」と私は驚いた。
タイトが戻ってきてネイは咳払いをすると「では、本題に入る」と言った。
「貴様に災いが訪れる」
真面目な顔でそういうものだから、なにかを買わされるんじゃないかと思った。
ネイはそう言うと何かを持ってきた。
小さな丸い水晶だった。
「これを持っていれば災いを回避できるだろう」
ネイの発言に私は「やっぱり・・・」と呟いた。
ネイは「何がやっぱりなんだ?」と言いながら水晶を手渡してきた。
タイトは何かを隠しているのか、隠しきれていない口調で「ん?ああ!ネイは占い師なんだよ‼」と言った。
ネイも隠しきれていない口調で「は?ああ‼そうだぞタイト!」と言った。
「怪しいんだけど・・・」
ネイは何かを思い出して「・・・ああ、ハルカには偽る必要なかったな・・・、実は占い師というのは嘘だ」と言うと、ネイは両横腹に手をやり「僕は未来を操る魔法使いだからな!みんなには内緒だぞ!」と突き立てた指を口元へやった。
喋り方は軽々しかったけど、雰囲気で言ったらだめだということがわかった。
なぜなら(タイト真顔だし・・・)。
タイトもネイに続いて、「俺様は過去を操る魔法使いだぜ」とテンション高めで言ってきた。
パッと見、胡散臭かったが、私は魔法使いの話をされて目を輝かせた。
「会ったときと違う反応を見せるな・・・」
ネイは溜め息をつくと「まぁとにかく、ただで受け取ってくれ」と言い、水晶を私にくれた。
「これでもう貴様に用はない。」と言い、私を店から追い出した。
「あとで金、請求されたらどうしよう・・・、ハァ・・・」溜め息をつきながら私は水晶をポケットに入れた。
「次会ったら返せばいいか・・・」
再び街の中を歩き出した。