第84話「不思議な灯」〜提灯お化けの心の揺らぎ〜
ヨイノの国、薄闇に提灯の明かりが揺れる村外れ。
石畳の道沿いに佇む「ことのは堂」は、黒髪の着物姿の男、高道が営む相談屋だ。
堂の棚には狐の面や光る玉など不思議な道具が並び、訪れる者を静かに待つ。今宵もまた、奇妙な騒動が持ち込まれた。
橙色の髪を揺らし、八重歯を覗かせる陰陽師のマキビが、ことのは堂の戸を勢いよく開けた。
「高道殿! 例の護符、持ってきましたよ!」と、丁寧語ながら遊び心のある口調で告げる。
彼の手には色とりどりの護符が山のように抱えられ、自作の怪しい護符も混じっているが、マキビは得意げだ。
「これ、夜な夜な暴れる提灯お化けに効くはずです!」
高道は穏やかに微笑み、茶を淹れながら話を聞いた。近くの村では最近、提灯お化けが夜道をふらつき、通りかかる者を怯えさせている。
だが、怯えた村人たちの話を聞くと、お化けの行動はどこか滑稽だ。
叫び声を上げつつ逃げる姿は、まるで自分が怖がられていることを楽しんでいるよう。
「これは、投影効果ですね。自分の気持ちを他人も感じていると思い込む…提灯お化け、面白いやつかもしれない」
マキビは目を輝かせ、「おお、高道殿のその知識、さす! では、早速そのお化けをやっつけにいきましょ」と拳を握る。
高道は苦笑し、「やっつける前に、話してみよう。マキビ、護符を貸してくれ」と告げ、彼から一枚の護符を受け取った。それはマキビお手製の「笑顔封じの護符」——効果は不明だが、彼曰く「絶対効く」らしい。
その夜、二人は提灯お化けが現れる竹林へ向かった。
月明かりの下、ふわふわと浮かぶ提灯お化けが現れる。赤い提灯に一つ目がぎょろりと光り、「うおお、怖いぞー! 俺は恐ろしい妖怪だぞー!」と叫びながら揺れる。
だが、その動きはどこかコミカルで、近くの子供が「なんだ、かわいいじゃん」と笑い出した。
マキビは吹き出し、「高道殿! こやつ、めっちゃ可愛いじゃん!」と腹を抱える。
提灯お化けはムッとし、「可愛いだと? 俺は怖いんだ! お前もビビってるはずだろ!」と声を張り上げる。
高道は静かに近づき、ズバッと切り込んだ。
「あなたは、なんでそんなに人を怖がらせようとするんですか?自分が怖い存在だと思ってるから、みんなもそう思うはずだと信じてるんじゃないですか?」
提灯お化けはたじろぎ、「な、なんだその難しい話は!」と目をぐるぐるさせた。
マキビがすかさず護符を手に持ち、「ほらほら、提灯お化け殿! この護符で怖さパワー増幅して差し上げましょうか?」と茶化す。
お化けは「や、やめろ! 俺の怖さはこれで十分だ!」と焦り、ますますコミカルに揺れた。
高道は穏やかに続ける。「投影効果ってやつだ。あなたが自分を怖いと思ってるから、他人も怖がってるはずだと決めつけてる。でも、そこの子供たちはお前を見て笑ってますよ。本当は人気者なんじゃないですか?」
提灯お化けは目をぱちくりさせ、「人気者? 俺が?」と呟く。
マキビが護符をぺたりとお化けの提灯に貼った。
「これ、『心開きの護符』でございます! 自分を好きになれば、みんなも好きになってくれますぞ!」実はただの紙切れだが、マキビの自信満々な笑顔と八重歯に、お化けはつい信じ込んだ。
提灯の光が柔らかく変化し、青白い炎が温かな橙色に変わった。
村の子供たちが集まり、「お化けさん、かっこいい!」「また遊ぼうね!」と手を振る。
提灯お化けは照れくさそうにふわふわ浮き、「俺…怖くなくていいのか?」と呟く。
高道は頷き、「怖くなくても、人気者の妖怪になれますよ」と告げた。マキビは「次はもっとすごい護符作ります!」と拳を突き上げ、八重歯をキラリと光らせた。
翌朝、ことのは堂で高道は茶を飲みながら、マキビが持ってきた護符の山を眺めた。
「マキビ、この『爆笑護符』ってなんですか?」と尋ねると、彼は「ふふ、村中を笑顔にする秘策ですねぇ」と胸を張る。
高道は苦笑しつつ、棚に護符を並べた。
ヨイノの国では、妖怪も人間も、ちょっとした心の勘違いを笑い合える。それが、この国の不思議な魅力だった。




