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第81話「星の石の正体」〜十五夜の奇跡、団子に秘められた願い〜

十五夜の月は、町を銀色のベールで包み込む。川面には月光が揺れ、屋根瓦は光沢を増して反射する。だが、町のあちこちではまだ泥と笑い声と悲鳴が入り混じり、十五夜の慌ただしさは未だ終息の気配を見せなかった。

高道は泥まみれの袴を整えつつ、井戸端で水をかき回す子どもたちを眺めていた。いまだに瓦の上に登る子ども、玉羊羹を積む子、さらには屋台の饅頭に手を伸ばす子もいる。いずれも目は宇宙服のうさぎ、ラビに釘付けだ。

「ラビ……!」子どもたちの声が群衆のざわめきの中で弾ける。

ラビは胸を張り、背中の箱を光らせながら先頭を跳ね回るが、ふと動きが止まった。耳を伏せ、丸い瞳に光るもの――涙か、月の反射か――を湛え、ぽつりとつぶやく。

「……みんな、これは……」

高道はそっとラビの隣に近づく。泥まみれの町を見渡し、子どもたちは無邪気にラビを追い、瓦や饅頭や井戸を“星の石”と信じて熱狂している。

「ラビ、どうしたんです?」高道が尋ねると、ラビは震える声で答えた。

「ぼ、僕……ずっと勘違いしてたラビ……星の石は……これラビ……」

その瞬間、街角の小さな女の子が手に持っていた月見団子を差し出す。団子は蒸気を漂わせ、香ばしい匂いが夜風に混じる。ふんわりとした生地の上に、甘いあんがきらめく。ラビの瞳がぱっと輝いた。

「……これ……これが、探していたものラビ……」

高道は目を見開く。ラビの背中の箱は光を放っているが、もう操作を必要としていない。ラビは両手で団子を抱えしばし見つめると、ふわりと笑顔になった。

「これで、月の仲間たちに、みんなの願いを届けられるラビ!」

子どもたちはざわつき、町人たちはぽかんと口を開ける。

「え、あの大騒ぎは……月見団子一つのために?」

「屋根も井戸も瓦も、ぜーんぶ無駄に……」

と、ずっこける声が町に響く。しかし次の瞬間、子どもたちは笑顔で団子を集め、ラビに向かって差し出す。町人も商人も、屋台の親も、皆が手を伸ばす。玉羊羹も餅も、雑多に積み上げられた祭りの名残も、全てラビの前に集まり、銀色の月光に照らされて一つの“願いの塔”のように見えた。

高道は泥まみれの袴を抑えながら、肩で息をしつつつぶやいた。

「……なるほど。リーダー集団効果は危うさもあるが、時に心を一つにする力にもなるものだな」

ラビは抱えた団子の山を大事そうに抱きしめ、振り返る。耳がぴんと立ち、背中の箱のライトが優しく点滅する。

「ありがとう、みんなラビ! これで星の仲間に願いを届けるラビ!」

町人たちは互いに顔を見合わせ、苦笑と達成感が入り混じる。泥だらけの屋根、ひっくり返った桶、瓦の欠片――すべてが十五夜の思い出となった。

「じゃあ、僕は……帰るラビ!」ラビはぴょんと跳ねると、背中の箱を操作して光を放ち、ちいさな宇宙船が地面からゆっくり浮かび上がる。子どもたちは手を振り、町人たちは拍手を送る。夜空には満月が冴え、静かにその光で皆を見守った。

高道も泥まみれのまま立ち上がり、夜風に揺れるススキを見やる。銀色の穂先が月光を受け、さらさらと音を立てる。風に乗って、ラビの声が遠くから響く。

「また会うラビ! 星の石、もらっていくラビ!ありがとうラビ!ささやかだけどお礼の品を置いていくラビ!」

高道は苦笑しながら、静かに呟いた。

「あの小さなうさぎがこれほど町をひとつにするなんてな……」

町には泥の匂いと、甘い月見団子の香りだけが残る。十五夜の夜は、ラビの存在と子どもたちの無邪気な力によって、ちょっと不思議で、ほんの少し温かい記憶として刻まれた。

月光に照らされ、銀色に揺れる川面。風に揺れるススキ。泥だらけの高道の袴と、満足げな子どもたちの笑顔。ラビは宇宙船で月に帰還し、町には静かな達成感だけが残った。十五夜の夜は、終わったのだが、心の中にはまだ小さな熱気が残っていた。


ーーーーーーー


ラビが宇宙船で去った翌朝、ことのは堂の縁側には、ひょっこりと不思議な輝きがあった。近づいてみると――なんと、そこにはうさぎの形をした金剛石がぽつんと置かれている。大きさは子どもの頭ほどもあり、光を受けてキラキラと虹色に輝く。

「うわっ……これが……ラビの置き土産ですか!うさぎ型の金剛石…月見団子よりよっぽどこっちの方がいろんな願いを叶えられそうですけどね」高道は目を丸くした。触ると硬い、冷たい、でもなぜかぬくもりすら感じる不思議な感覚。

そこへヤヨイが、いつものように胸を揺らしながら縁側に現れる。

「まあ……これで子どもたちがまた騒ぐわね! でも、どうやって遊ぶのかしら?」

高道は困惑する。子どもたちに渡せば、当然のように「遊ぶラビ!」と群がるに決まっている。

翌日、予想通り子どもたちは金剛石に群がり、踏んで滑って転ぶ、つかんで跳ねる、屋根に運ぼうとする。ラビの置き土産は、町全体をまたもや笑いと混乱に包んだ。

高道はため息をつきつつも、胸の奥でくすぐったい喜びを覚える。

「……ラビはいつまでも、僕たちを楽しませてくれますね……」

金剛石うさぎは、月の光を浴びてキラリ。まるでラビ自身が「また来るラビ!」と微笑んでいるようだった。

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