第78話〜「ぽよん保育所奇譚」〜ぼくの手で歩く日まで〜
ことのは堂の高道は、柔らかな春の陽光に包まれながら、保育所へと足を進めていた。庭の小道にはチューリップや菜の花が色とりどりに咲き誇り、そよ風に揺れる花びらが軽やかに足元に舞い落ちる。鳥のさえずりが木々の間を渡り、遠くの水音がかすかに響く中、扉をそっと押すと――どん、と視界に飛び込んできたのは、ふんわりと揺れる“胸山”。まんまるで柔らかく、光を受けて艶やかに輝く巨乳が、ヤヨイの小さな肩幅から堂々とせり出している。微笑む童顔と愛嬌たっぷりの声が、室内の空気をさらに温かくし、木の床や窓から差し込む夕陽までもが、その豊かさに祝福されているかのようだった。
「高道さーん! ちょうどいい時に!」
満面の笑みで迎えられ、柔らかな空気が室内に満ちる。子どもたちの声、木の床を踏む足音、砂場の砂が揺れる音。すべてがあたたかく混ざり合っていた。
「高道さん、今日も相談があります!」
ヤヨイが抱えるのは、雪男の子・ハクロ。普段は元気で活発だが、最近やたらと高道やヤヨイの手を借りたがるらしい。着替えもおもちゃの片付けも、何でも「手伝って!」と言うのだという。
高道は頷いた。
「なるほど……これは“独立心”を育てるいい機会ですね」
「独立心……ですか?」
ヤヨイは首をかしげる。
「ええ。心理学では、子どもが自分でやってみようとする気持ちを“自律性”や“独立心”と呼びます。二歳前後になると、自分でできることは自分でやりたいと思い始めるんです。それを無理に助けてしまうと、学ぶ機会を奪ってしまいます」
ヤヨイは腕を組み、胸をどっしり揺らしながら考え込む。
「なるほど……手を出さずに見守る、ですか」
ーーーーーーー
午後、保育所の中庭では、子どもたちが遊ぶ声が賑やかに響く。ハクロは滑り台の上で足をぶらぶらさせていた。下から見上げるヤヨイが「滑れるかな?」と心配そうに声をかけるが、高道は静かに言った。
「見守るだけでいいです。失敗も成功も、経験が子どもの力になります」
ハクロは勇気を振り絞り、ゆっくり滑り始めた。途中で足が滑り、雪で作ったふかふかの砂場にドスン!と落ちる。泣き声が上がるかと思いきや、彼は起き上がって両手を高く上げ、笑顔で叫んだ。
「できた!」
ヤヨイは目を丸くし、胸が揺れた。
「先生……本当に、自分でできると、こんなに嬉しそうなんですね」
「ええ。独立心は小さな成功体験から育ちます。手を貸さずに見守ること、そして失敗しても受け止めてあげることが大切です」
その日の夕方。保育所には静かな平穏が訪れた。子どもたちはおやつを食べ、砂場で遊んだあと、庭の木陰で眠そうに目をこすっている。
高道はふと、先日のプリン騒動を思い出した。あのときも子どもたちは、自己中心的にプリンを奪い合ったが、体験を通して“他者を意識する”ことを学んだ。今回の滑り台も同じだ――小さな体験が、大きな成長につながる。
「先生、今日はハクロ、最後まで自分でやり遂げました!」
ヤヨイは胸を揺らしながら報告する。高道は微笑む。
「そうですね。これで少しずつ、自分の力でできることが増えていきます」
夜。保育所の灯りがぽつりぽつりと消え、庭の花々も月明かりに照らされて揺れている。ヤヨイはふと、あの日を思い出した。あのプリン騒動の後、子どもたちは順番を守ること、他者の気持ちを考えることを学んでいた。そして今、ハクロは自分で挑戦する勇気を手に入れた。
「なるほど……こうして、日々の小さな体験が、子どもの独立心を育てていくんですね」
ヤヨイは子どもたちの笑顔を思い出しながら、胸を揺らして静かに微笑む。
「明日は子供達のどんな成長を感じられるのかな」
高道はくすりと笑い、夕闇に染まる保育所の庭を後にした。茜色の空が屋根を照らし、木々の影がゆらりと揺れる中、扉を静かに閉める。その瞬間、目に焼き付いた“胸山”の迫力…もとい、砂場や滑り台で遊ぶ子どもたちの小さな手の成長が、心の中で一つの物語としてまとまり、柔らかな余韻を残した。夜風に混ざる花の香りも、今日の出来事をそっと祝福しているかのようだった。




