第74話『ちーのうやヤヨイの保育所奮闘記』〜愛着が育む、子のこころ〜
ヨイノの国の外れに、小さな保育所がある。
そこは人間も妖怪も分け隔てなく迎える、不思議な場所だった。看板には大きな字で「ちーのうや・ヤヨイのところ」とある。
扉をそっと引けば、まず目に飛び込むのは、ぽよん張りのあるヤヨイの巨乳だった。思わず圧倒されるが、ふと顔を上げれば、そこには幼子のようにまんまるな童顔があり、にっこりと愛嬌たっぷりの笑みを浮かべている。声もまた鈴のように明るく、聞く者の心をやわらげる。けれど、その子守りの腕は驚くほど確かで、泣いていた子はたちまち笑い出し、笑っていた子はさらに声を弾ませる。──彼女の腕前は、まさに超一流だった。
今日も所内はにぎやかだ。河童の子がすいすいと水桶に飛び込み、化け狸の子がだんごを奪い合い、そして人間の子が「おかあさーん!」と泣いている。
「はいはい、順番ですよ。おだんごは半分こ、泣くのはお胸の中でどうぞ」
ヤヨイはてきぱきと抱き上げ、柔らかなおっぱいに顔をうずめさせる。
そこへ、すっと現れたのがことのは堂の高道だった。
「こんにちは、ヤヨイさん。今日はまた盛況ですね」
「おや、高道さん! ちょうどいいところに。今、人間の親御さんから“子どもがいつも泣きついてばかりで困る”って相談を受けてるんですよ。これって甘やかしすぎですかね?」
高道は笑みを浮かべ、子どもたちの様子を見渡した。
「いいえ、これは“アタッチメント”、つまり“愛着”というものです。子どもが親や養育者に安心して甘えられることは、むしろ健やかな発達の基礎になるんですよ」
「基礎……ですか?」
「はい。安心できる大人がそばにいることで、子どもは初めて外の世界を探検できます。心の安全基地、とも言えるでしょう」
「なるほど〜!」
ヤヨイはぱん、と手を打った。
「じゃあ、泣いても抱っこしていいんですね! じゃんじゃん抱きしめちゃおう!」
「ええ。ただし、抱きしめつつも少しずつ“自分でできたね”と促してあげるのが大切です」
その時、騒ぎの中から化け狸の子が泣き声をあげた。
「やだ! ぼくのだんご!」
河童の子がしれっと口をもぐもぐ。
「ふふん、先に食べたもん勝ち〜」
ヤヨイが止めに入ろうとしたが、狸の子は「お母さん! お母さんはどこ!」と泣きじゃくる。
ヤヨイが抱き上げると、高道が横で頷いた。
「この子も、愛着対象である大人に助けを求めているんです。大人が応えてあげることで、安心と同時に社会性も育つんですよ」
「ふむふむ。泣くのは弱さじゃなくて、つながりのサインなんですね!」
と、そこへ茶屋帰りの酔っ払いの天狗がふらりと現れた。
「なんだなんだ、ここは保育所か? 泣き声ばっかで耳が痛いわい!」
ヤヨイがむっとした瞬間、天狗は続けた。
「子どもはなぁ、泣いて育つもんだ! 泣かん子のほうが心配じゃ!」
その言葉にヤヨイも高道も目を丸くした。
「……あら、高道さん、これって意外と的を射てません?」
「ええ、確かに。泣けるというのは、大人との絆を信じている証拠ですからね」
思いがけず、酔っ払い天狗の一言が場の空気をまとめた。子どもたちも泣き声を落ち着け、だんごを分け合い始める。
ーーーーーーー
夕暮れ時。親たちが迎えに来ると、子どもたちはヤヨイにぎゅっと抱きつき、笑顔で帰っていった。
「いやぁ、今日も一日お疲れさまでした」
高道が軽く頭を下げる。
「こちらこそ! 愛着って大切なんですねぇ。よーし、これからはもっと胸を張って、思いきり抱きしめてあげます!」
ヤヨイは小さな拳をぎゅっと握りしめ、「エイエイオー!」と元気よく声を張り上げた。その瞬間、豊かな胸がぶるんぶるんと勢いよく揺れて、場の空気が一気に和んでしまう。
「ええ、それが一番です。ただし……胸を張りすぎるのは、少々注意が必要かもしれませんね……(目のやり場に困りますし)」
思わず真顔で付け足した高道に、ヤヨイは頬をぷくりとふくらませた。
「高道さん! そういう突っ込みはいりません!」
そのやり取りが余計におかしかったのか、そばで見ていた子どもたちが、口元を押さえてくすくすと笑い出した。温かな笑い声が、保育所にやさしく響き渡った。




