第64話 『異世界げーせん七人ミサキ』〜奇妙な遊戯〜
春の夕暮れ、町外れの小路に妙な違和感が立ちこめていた。
石畳の向こうに、突如として木造の建物が現れたのだ。看板には朱色で「げーむせんたー」と書かれている。町人も猫もいない、まるで時空の隙間にぽつんと浮かぶ小屋のようだった。
「……なんですかね、あれ。」
高道が首をかしげる。
「おや、面白そうなものですねえ」
マキビは目を輝かせ、手をすり合わせる。
「入ると出られなくなるとかじゃないだろうな……」
朧丸が眉間に皺を寄せて警戒する。
「でも……何か匂うな、この場所……ワクワクする匂いが、わたし……入ってみたいです!」
猫又が耳をピンと立て、尾をくねらせながら言う。
「ちょっと待まってよ、油断すると何かあるかも」
座敷童も小さく肩をすくめて、でも目を輝かせている。
マキビがにっこり笑う。「まあ、俺たち七人で行ってみましょう。こういうの、悪くないよね。」
タヌさんも頷いた。「面白がるのは得意だからねえ。」
「わたしもついていくよ、楽しそう!」
猫又が右前足で火をお洗いながら応える。
「ワタシも猫又さんと一緒に冒険したい!」
座敷童が跳ねながら手を上げる。
猫又も笑みを返して、軽く尾を振る。
ことのは堂の面々七人は、意を決してその「げーむせんたー」に足を踏み入れた。扉を押すと、背後の町角はすっかり消えており、代わりに薄暗い廊下が奥へと続いていた。窓も外の景色もなく、ひんやりとした空気だけが漂う。
「……あれ、出られなくなってますね」
高道が立ち止まると、目の前に七人の少女たちが現れた。七人ミサキと名乗る彼女たちは、にこやかに手を振る。だがその笑顔はどこか妖しい。
「やあ、ようこそ。ここではゲームで勝たないと、出られないんだよ」
一人のミサキが指を鳴らすと、廊下の壁が光り、さまざまなゲーム盤が浮かび上がった。すごろく、絵合わせ、羽付き、そして見たこともない不思議な盤や色とりどりの札。
「……ゲームで勝てば出られる、と。」
高道は腕を組む。「心理学的に言えば、君たち七人の計画は我々の楽観バイアスを刺激する仕組みですね。」
「らっかん……ばいあす?」
座敷童が首を傾げる。
「簡単に言うと、人は『自分ならうまくやれる』と楽観しすぎて、リスクや失敗の可能性を低く見積もる傾向があるんです。ここに入る我々も、無意識に『すぐ勝てるだろう』と思い込んでいる。それが狙いでしょうね」
ミサキたちは笑いながらゲーム盤に手を伸ばす。「さあ、最初は簡単なやつだよ」
しかし、朧丸が手を出すや否や、盤が光り、手足が勝手に動き出す。まるでゲームの中に体ごと吸い込まれるような感覚。
「うわあ、動かない!?」
猫又が驚きの声を上げる。だがマキビは落ち着いている。「ふふ、ここは君たちの遊び場、でも我々だって負けないさ」
最初のゲームは見た目より難しい。謎解きパズルなのだが、盤面は毎ターン変化する。
「なるほど、これも楽観バイアスの罠ですね……」
高道が呟く。普段なら簡単に解ける計算も、盤面が少しずつ変わるだけで「すぐ終わるだろう」という油断が積み重なり、何度もやり直す羽目になる。
一方、朧丸は理不尽な状況を楽しんでいる。「これは…意外と燃えるな。」
タヌさんも笑いをこらえきれず、「やっぱり冒険はこうでなくちゃ!」
ゲームを進めるうちに、七人ミサキたちの狡猾さも見えてきた。どうやら我々の心理的バイアスを逆手に取る設計らしい。
「楽観しすぎると、簡単なはずの勝負も苦戦する、か……」
高道は冷静に分析しながらも、内心は少しわくわくしていた。
廊下の奥から、座敷童がひょっこり顔を出す。「ねえねえ、高道、次のゲームは何かな?」
「さて……次はカードゲームらしい。油断せず行こう」
だが、笑顔の七人ミサキはまだ余裕そうだ。彼女たちはこの空間の主である、高道たちは空間から出るためには必ず勝たねばならない。
高道は深呼吸を一つして、仲間たちを見渡す。「みんな、いくぞ……」
その瞬間、廊下の壁が光を放ち、次のゲーム盤が姿を現した。
「次は……本当に手強そうだな」
朧丸の目が輝く。猫又が耳をピンと立てる。タヌさんは尾を振り、マキビは軽く肩を叩く。
ことのは堂の七人は、異世界の奇妙なゲーセンで、運命のゲームに挑もうとしていた。




