第46話「嘘つきは誰じゃい!雲外鏡が見てるぞ」〜その“ごまかし”、見えてます〜
ことのは堂の朝は、いつもは静かだ。
しかし今日は違った。
「……この中に、ウソつきがいます!!」
バァン! と音を立てて戸を開けたのは、ヨモツダレ。いつも通り怪しい香りを漂わせながら、ずいっと堂内を睨み回す。
「え、何? 朝から修羅場?」「告発系御伽草子始まった?」
縁側で茶をすすっていた朧丸とマキビが、ぽりぽり煎餅をかじりながら眺めていた。
「朝の怪談タイムにはちょっと早いなあ」
と、高道がひとこと。いつも通り落ち着いた手つきで、帳面に筆を走らせながら続けた。
「それで? 何があったんですか」
「これを見てください!」
ヨモツダレがどんと置いたのは――どこか艶めかしくも不気味な鏡。縁には雲の文様。鏡面は揺れる水面のように不安定に光っている。
「これぞ、嘘を映し出す道具《雲外鏡》! 映った者の“真実の姿”を暴く、禁断の道具でございます!!」
「また怪しいもん持ってきたな〜」
マキビが鏡面を覗き込む。
すると、鏡の中のマキビが、なぜか全身筋肉ムキムキのイケメンになっていた。
「えっ、これ俺の“ほんとの姿”?」「それは“願望”ですね」
高道が即ツッコミを入れる。
「では、順番に皆さん、鏡の前に立ってください!」
「勝手に進行始まったよ」
とはいえ、なんだかんだ全員ノリがいいので、ぞろぞろと鏡の前に並ぶ。
一人ずつ覗き込んでいくと、鏡はその人の“表面では隠していること”を、映し出していった。
「この煎餅……賞味期限が切れてたけど黙って出した……すまん……」
「ホシさんの手ぬぐい、勝手に使って髪拭いたの……!」
次々と暴かれる小さな嘘。
「でもまあ、かわいい嘘ばっかだし、これはこれで……」
と思ったそのとき。
「ふふ、じゃあ最後に……高道さん、どうぞ?」
ヨモツダレが意味深に言う。みんなの視線が集中する。
高道は静かに立ち上がり、鏡の前に進んだ。
「さて、私は何が映るんでしょうね」
鏡面がゆらり、と揺れ――
映ったのは、高道がこっそり煎餅をつまみ食いしてる姿だった。
「……あのとき、僕に“これはお供えだからダメ”って言ってたのに!!」
「お供えの位置を変えただけで、気持ちとしては守られていたという理論です」
「詭弁!!」
堂内は騒然。
しかし、そこへ――
「……いや、ちょっと待て」
朧丸がぼそっと言った。
「これ、最初から“悪意がある”前提で映してないか?」
「ほえ?」
「だってよ、この鏡……“嘘を暴く”っていうけど、“たまたま言ってないこと”まで嘘扱いしてないか?」
朧丸の言葉に、高道が頷く。
「その通りです。これは、いわゆる《悪意推定バイアス》ですね」
「なにそれ?」
マキビが口をとがらせると、高道が湯呑を手に語り出した。
「簡単に言えば、“あの人、きっと悪い意図がある”って、勝手に思い込んでしまう心のクセです。何気ない言動や沈黙も、“嘘だ!”“ごまかしてる!”と決めつけてしまう」
「この鏡も、真実というより“こっちが見たいウソ”を映してるってことか……」
朧丸が顎に手をやる。
「……じゃあつまり?」
「うちの鏡が、悪意に染まっていた……!?」
ヨモツダレが青ざめる。
「まあ、道具というより、見る人の“前提”の問題ですね。最初から“疑ってかかる”と、真実はどんな形でも疑わしく見えるものですから」
「たしかに! 猫がこっち見てると“なついてる”って思うけど、犬だと“襲ってくるかも”って警戒するもんな!」
「それはたぶんマキビさんだけです」
ひとしきり反省モードの一同。
鏡は布で覆われ、今後は「お化け鑑賞用」に用途変更された。
「では最後に……」
高道がすっと立ち上がる。
「誰がいちばん、嘘をついていたか、発表します」
「えっ、そんなの決めるの?」
「堂主として気になりますから」
ざわつく堂内。全員が緊張した空気をまとう中――
高道が、まっすぐに指さした。
「……マキビさんです」
「な、なんでだよ!」
「筋肉の自画像を“真の姿”としたその自己評価の高さ、なかなかです」
「ぐうの音も出ない!」
そしてその夜、堂内の帳面にはこう記された。
《嘘には段階がある。だが“誰かの悪意”と決めつけた時点で、それは真実すら歪めてしまう――》
ことのは堂、今日も平和(?)に営業中。




