第44話「鬼と甘味と天下統一計画(仮)」〜戦なき国、甘味にて築かん〜
「……オレ、ちょっと考えたんだ」
朝のことのは堂、湯気が立ちのぼる茶の香りの中で、茨木童子がぼそっと言った。
「お茶目な評判も広まってきただろ? それでさ、もっと“民の心”をつかむ方法、思いついちゃったんだよな……!」
「はいはい、また妙案ですね」
高道が湯呑を片手に、やさしく相づちを打つ。
茨木は、どや顔で仁王立ち。
「――甘味屋、開く!!」
「……えっ?」
「その名も《鬼福堂》!! 主力商品は“ふわもち大福”!! 副将の名を冠して、売りに売る!!」
「副将、自分の名に頼りすぎじゃないですか?」
「だが待て、これは始まりにすぎん!」
どん!と卓に広げたのは、雑すぎる手描きの店舗設計図。
「ほらここが厨房な、でここに“酒呑様の特等席”があって――」
「オレも働かされるのか!?」
障子を突き破る勢いで現れたのは、例のごとく長身赤髪の鬼――酒呑童子。
「だって酒呑様、甘党ってもうバレてるし……!」
「それはお前らが流したんだろうが!!」
数日後。ヨイノ城下の目抜き通り。
突如として現れた和菓子屋――《鬼福堂》。
看板には、筆文字で「鬼も笑う旨さ!」の文字。そして、その隣には……
「……なんで、オレの顔が大福の横に描かれてんだよ」
「茨木様がモデルの“ふわもち副将セット”です♪」
と、嬉々として看板を描いた張本人・マキビ。
店内には、絶妙な甘さの大福、うっすら鬼牙の形を模した“おに饅頭”、甘酒ゼリー(監修・酒呑)など、魅惑の品がずらり。
しかも――
「いらっしゃい! 接客担当の副将・茨木童子だ!」
「猫耳エプロン、似合ってんじゃん」
「それは言うなッ!!」
店は、初日から長蛇の列。
「鬼ってもっと怖いと思ってたけど、意外と……かわいくね?」
「ね! 甘味好きなんて人間味ある〜!」
いつの間にか、鬼たちは“恐怖の象徴”から“愛され看板キャラ”に転じていた。
甘い評判は、瞬く間にヨイノ全土へと広がっていく。
「高道! 売り上げ見たか!? 一日で三十両!」
「この規模で、その数字は軽く暴利ですね」
「ふははは! この調子でいけば、ヨイノの胃袋、いや心まで掌握できる!」
「まさか……甘味で天下を?」
「そうだッ! 人の心は腹に宿る! だったら、うまい菓子で征服すればいい!」
その宣言に、酒呑童子もぐびりと甘酒をあおって頷いた。
「戦より楽だしな……このままいけば、戦争なんか要らねえ国が作れそうだ」
「平和的野望ですね……」
高道がつぶやいたその時。
マキビが、どこからともなく紙束を手に現れる。
「はい、支店候補リスト。隣国“ヒナノ”と“カラクリ村”から出店要請きてます〜」
「え、早すぎない!?」
「甘味の伝播力を、なめないことですね〜」
高道が、やれやれと肩をすくめた。
「……恐ろしいな。菓子が、ここまで国を動かすなんて」
「恐ろしいか?」
と、茨木童子。
「むしろ甘いだろ?」
「うまいこと言ったつもりかもしれませんが、評価は甘くありませんよ」
こうして、鬼たちは国中に甘味の旗を立てた。
あの鬼が、笑顔で団子を売る。
あの副将が、子どもにまんじゅうを手渡す。
笑いが、伝染する。
やさしさが、香ばしく広がっていく。
――甘味で天下を取る?
まさかと思ったその野望は、ほんの一口から始まり、
いまや、国境を越えようとしていた。
「次の支店はどこにします? 水の国とか、月の都とか……」
「いや、まずは焼き芋ブームに乗ろうぜ!」
「もう菓子じゃねぇじゃん!」
「おい高道、焼き芋の効能について語ってみろ!」
「なぜ僕が焼き芋学者みたいになってるんですか……」
その日のことのは堂も、甘くて愉快な笑いで包まれていた。
――ヨイノの国は、今や「うまいは正義」で統一されつつある。
そして、世界を甘味で征服するのは――
また別のお話……。




