第39話「目が合うたび、気持ちが重なるってどういうことですか」〜恋の数、目の数、相性って案外見た目の話じゃない〜
「高道さぁ! モテるコツ、教えてくれッス!」
朝っぱらから元気に飛び込んできたのは、一つ目小僧・まるひこ。額にでっかい一つ目、心なしか潤んでいた。
高道はゆっくりと湯呑みを置き、やわらかく言った。
「おや、また振られましたか?」
「“視線が一点に集中して怖い”って……!」
「なるほど……まるひこくん、もうちょっと瞬きの練習してみましょうか」
「高道さん、茶を飲みながら圧が強いッス……」
そこへ、ぬうっと現れるもう一人。
「視線のコツなら、オレが教えてやろうか?」
そう言ってにやついたのは、三つ目小僧・さんぞう。目が三つもあるくせに、なぜか妙にキザな立ち振る舞い。
「視線はね、“分散”だよ。“照準”じゃない。恋愛だって、まなざしのバランスが大事なんだよ?」
「お前が言うと説得力がにじみ出てウザいッス!」
「……ふたりとも、目の数を恋愛の決定要素にしすぎですよ」
そう言いながら、高道はほっとひと息、茶の香を深く吸った。
「“マッチング仮説”って知ってますか?」
「また難しそうなやつ来たーッ!」
「簡単です。人はね、自分と似たくらいの“魅力レベル”を持つ相手を選ぶ傾向があるんです。派手すぎても、地味すぎても、なんとなく落ち着かない。自然と“釣り合いが取れてる”って感じる相手に惹かれるものなんですよ」
高道は、茶を注ぎながらやさしく言った。
「……つまり、俺がモテないのって、目が一個で目立ちすぎるせいってことッスか?」
「ちょっと語弊はありますけど……まるひこくんの目は確かにインパクトが強いですからね。視線も集中するし、受け取る側は“見られてる”って緊張することもあります」
「……マジか〜。ずっと“吸い込まれそうな瞳”がチャームポイントだと思ってたのに……」
「魅力は魅力ですよ。ただ、“差”があると人は無意識に構えてしまうんです。“自分と釣り合ってるか”って、けっこう大事な感覚なんですよね」
「じゃあ、俺が釣り合いとれる相手って……」
「そうですね。たとえば、同じくらい目のインパクトがある方とか」
「……え、誰ッスか?」
高道は、まるひこの隣で団子を食べていたさんぞうをちらりと見やった。
「たとえば……さんぞうくんとか(なんちゃって)」
「はあッ!?!?!?!?!?」
団子を吹き出したまるひこが、椅子ごと倒れた。
「ちょ、ちょちょ待ってください高道さん!?なんでそこでさんぞう先輩出てくるんスか!?」
「いやいやいや、冷静に考えてください。目の数は多いし、配置も独特。視線に注目が集まるという点では、さんぞうくんはまるひこくんと似たような立場ですから。見た目のインパクト、十分に釣り合ってますよ?」
「それ、“釣り合い”とかじゃなくて“目がうるさい”のペアッスよね!?なんで目と目で恋の話になってるんスか!?」
「いやいや、別に恋って決まったわけじゃありませんよ。ただ、相性のよさって、そういうところからも始まるっていう話です」
「“目”だけで相性判定しないでくださいッス~~~!!」
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昼下がりの縁側。ふたりは無言で団子を食べていた。
そのときだった。
まるひこの一つ目が、さんぞうの左目とばっちり合った。
次の瞬間、右目と合い、そして額の第三の目とも――
完全同期、視線一致。
「……なんか、落ち着くな」
「……わかるッス。視線がぶれないって、すげえ安心するッスね……」
ふたりの間に、奇妙な空気が流れた。
団子の串がぽとんと落ちる音。
「いやいやいや!これは違う!絶対違うッスよね!?」
「お、おう!オレはその……まるひこの視線が刺さってて……ちょっと好きかもとかじゃなくて……!」
「俺もっス!先輩の目が三つとも見てくるから、気がついたら“釣り合ってる”とか思っちゃって……!」
「「マッチング仮説の罠だこれぇぇ!」」
「おやおや」
気配もなく背後に現れた高道が、やさしく微笑む。
「……どうやらほんとに“目”が合っちゃったみたいですね」
「合っちゃったって、そういう意味じゃないッスよね!?ね!?」
「まあ、あまり難しく考えずに。どちらも、ちゃんと相手の“目”を見て話せるって、すごく素敵なことですよ」
「そういう言い方やめてください!うっかり納得しかけたッス!」
数日後、ふたりは以前より仲良くなっていた。
視線の練習という名目で、一緒にうどん屋に通うようになり、やたらと目が合う時間が増えた。
「先輩、今日も三つとも優しい目してるッスね」
「お前もその丸い目、見慣れてきたら愛嬌あるよな……」
「これ完全にラブコメの流れじゃないッスか?」
「やめとこう。オレたちは“目を合わせる練習”だからな」
「そっスよね、“実験”っスもんね。恋とかじゃなくて、“心理実験”ッス!」
そのわりに、うどん屋の店主に「仲いいねえ」と笑われて、
ふたりとも顔(と目)を真っ赤にしてうつむいたとか。
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「……で、結局ふたりはどうなったんですか?」
茶を注いでいる高道の側を通りがかった猫又のホシが聞いた。
高道はいつものように静かに笑って、こう言った。
「まあ、“釣り合う相手”って、思ってるより近くにいるものですよ。
目をよく見れば、ちゃんと映ってるはずですからね」
――その目に、何が映っているかは、本人たちだけが知っている。




