表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/142

第31話「傘は濡れるために、晴れるために」〜雨傘と日傘が出会った日〜

ある日、ことのは堂の玄関先に、見慣れぬ傘がちょこんと立っていた。

「おや、高道殿。この堂に“日影の心得ある者”がいると聞いて参じました」

傘の持ち主は橙の色の髪を結い上げた少年の姿。

すらりとした面立ちに、肩には白地の布張り日傘──名をヒカサくんという。

「日影の心得ってなんですか……?」

高道が茶を出しながら戸惑っていると、そこへガラリと襖が開いた。

「ぬおぉぉ!? まさか貴様、“日傘”かぁああ!!」

突撃してきたのは、例の番傘・カサくんである。

「うむ、拙者は晴天専用、日除けの誇り──ヒカサと申す!」

「わしは雨とともに生きる傘妖怪、カサくんじゃ!!」

「えっ、名字みたいに名乗るの?」

座敷童が縁側で団子を食べながらぽつりと突っ込んだ。


二本の傘妖怪は、ことのは堂の庭でにらみ合う。

「日傘とは……うつくしき空を遮る不届き者よ!」

「雨傘とは……清らかな雨粒を邪魔する無粋者にて候!」

「だまらっしゃい!! わしは濡れ鼠を救う存在ぞ!」

「こちらは熱中の民を陰に導くものなり!!」

「2人ともかっこいい決め台詞ですね、まあまあ、お二人とも、お団子でもどうぞ。ね?」

高道が慌てて両者の間に茶菓子を差し出す。


「ふむ……」

ヒカサくんが一口かじると、ほんのり顔をほころばせた。

「……涼やかな甘さ。まるで木漏れ日じゃ」

「くっ……なんとお上品!!」

カサくんは団子を3個一気に食いちぎった。

「わしは濡れてもこの団子だけは守る!!」

「意味がわかりませんよ!?」


やがて、座敷童がぽそっと呟いた。

「でも、二人とも、必要とされる場面が違うだけだよね」

「む……?」

「カサくんは、ぬれる時にいてくれて助かる。ヒカサくんは、日向で一緒にいると涼しくなるし」

「……なんじゃ、それ……」

カサくんがちょっと照れたように呟き、ヒカサくんも眉を下げる。

「そのように言っていただけるとは……恐縮にて候」

「座敷童殿は、時に人の心を見抜く。いや、妖の心もか……」

「えへへ、じゃあ今日から私、“傘まとめ役”ね!」


ことのは堂の軒先に二本の傘が並ぶ。

雨の日はカサくんが、人々の頭上にそっと差し出される。

晴れの日にはヒカサくんが、木漏れ日のような陰をつくる。

そのどちらにも、いつも近くに座敷童の姿がある。

「ほら、カサくんは団子にしずくついてる〜」

「ぬおっ!? どこだ、どこが濡れたんじゃ!」

「ヒカサくんは、なんかお香の匂いするね。香炉入ってる?」

「拙者、清涼感を大切にしておりますので……」

「くそう、格が違う……!」

そしてその日も、高道は縁側で、微笑みながらお茶をすする。

(晴れも、雨も。人の暮らしには、どちらも必要なんですよ)


そんな彼の頭上、そっと開かれる二本の傘。

一方は雨を払い、一方は光を和らげる。

真逆なのに、どこか似ている。

「……ま、仲良くやってくれればそれでいいか」

そう呟いた高道の声に、傘たちがぴしりと張り直したのは、言うまでもない。


おまけエピソード


ことのは堂の玄関に、新たな傘妖怪が立っていた。

「名をケンヨウと申します。雨にも晴れにも対応できます」

「おおっ、なんと便利そうな!」

高道が感心する横で、カサくんが腕を組む。

「ほう……それで貴様、どっち派なんじゃ?」

「どっちでも……ですね」

「どっちかに決めんかい!!」

「臨機応変が信条でして」

「おぬし、信条がグラついとるぞ!?」

ヒカサくんもまくしたてる。

「我々の誇り、分かたれてこその陰陽……」

「すみません……どちらにも合わせたくて……」

座敷童がぽつり。

「ケンヨウくんって、なんか“お母さんに怒られない子”って感じ、万能だね。」

「ぐはっ、それ一番重宝されるやつ!!」

カサくんとヒカサくんはうなだれている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ