第24話「白うかり、誘い上手すぎ問題」~気づいたら、あなたも巻き込まれてます~
「……え、あなた、ついてきてません?」
ことのは堂の主・高道は、振り返って眉をひそめた。
夕暮れ時。
荷車を引いて薬草市場からの帰り道。
後ろにふわふわと白装束の女がついてきている。
「えっ、あ……あの、その……」
白装束の女は、びくりと肩をすくめた。
「つい……ついてきちゃっただけで……」
「いや、“つい”じゃないんですよ。3丁目からずっとです」
「た、たまたま、方向が一緒で……」
「さっき右に曲がったら、あなたもしっかり右折してましたよね」
「……巻き込まれた感じです」
「巻き込まれたの、僕の方なんですけど」
(……誰だこの人)
女は白装束のまま、ことのは堂の縁側にちょこんと座っていた。
出された焙じ茶をちびちび飲みながら、口を開く。
「私、白うかりっていいます。
ほら……夜道で“とんとん”って人を呼ぶ妖怪……ご存じない?」
「知ってます。知ってますけど、
あなたの“とんとん”って、もはや“ずっとんとん”なんですよ」
「最近、人がついてきてくれなくて。昔は“夜道で誰かを呼ぶ”って、もっとロマンあったのに……」
「それは現代の防犯意識の高まりですね」
「おかげで暇で……つい、誰かのあと歩いちゃって……」
「完全に不審者なんですけど……」
白うかりはうなだれて、茶をすする。
その姿がなんとも哀愁漂っていて、高道はつい——
(……ちょっと、かわいそうかもしれない)
「……まあ、疲れてるなら少し休んでいかれては?」
「いいんですかっ!?(ガタッ)」
「今、“営業モード”入りましたね?」
それから白うかりは、ことのは堂にちょくちょく現れるようになった。
しかもなぜか、来客にどんどん話しかける。
「こんにちは〜、どこから来たんですか?」
「その悩み、私も聞いていいですか?」
「お団子……一緒に食べます?」
すると不思議なことに——
最初は戸惑っていた客が、なぜか彼女に悩みを打ち明けていく。
「つい話しちゃったわ……」
「なんか、この人がいると断りづらくて……」
「一緒に団子食べる流れ、あったよね?」
(……まさか、“巻き込み効果”)
高道は静かに推理を立てた。
(本人に悪気はない。でも、あまりに自然に距離を詰めるせいで、“もう断るのも面倒だから一緒に乗っかる”という心理が働いている)
(……それが、妙に心地よくてクセになる)
「どうぞ!このお茶請け、5人分あるので一緒にどうですかっ!」
「お前が人数増やしてるんだよ……!」
ある日、ことのは堂に恋愛相談の客がやってきた。
彼氏に「重い」と言われたという町娘。
高道が口を開くより先に、白うかりがスッと寄って——
「えっ、でも、好きなら“重い”くらいでちょうどよくないですか?」
「……たしかに……!」
「むしろ“軽い女”って言われるよりマシじゃないです?」
「そう……かも……!」
「じゃあ一緒に、重い女の会やりましょう! 団子食べながら!」
「やります!!」
客、解決。
茶菓子、完売。
(なんなんだこの巻き込みの強さ……)
「……で、そろそろご自分の宿に戻るとか?」
「え? ここ、私の居場所ってことじゃなかったんですか?」
「誰もそんなこと言ってないですよね?」
「でも皆さん、“またね”って言ってくれました」
「……まあ……」
「“またね”って、つまり“次も会おうね”ですよね?」
「いや、まあ……そうですけど……」
(巻き込まれてる……僕も……!笑)
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その晩、高道は縁側で一人、ぼそりとつぶやいた。
「……結局、なんだかんだで今日は一番笑ったな」
隣に座る白うかりが、そっと焙じ茶を注ぐ。
「人って、“笑ってる誰か”に巻き込まれると、つい、自分も笑っちゃいますよね」
「……うまいこと言ったつもりです?」
「もちろんです!」
(この調子で明日も誰か巻き込まれていくんだろうな……)
高道は目を閉じた。
そして思う。
(もういっそ、“巻き込み専門スタッフ”として雇った方が良いのでは……)




