第19話「白沢の記憶は、想像以上にうるさかった件」〜知識の暴風、静寂を求める妖怪には致命的〜
俺の名は朧丸。
記憶を喰う妖怪だ。別に好き好んでやってるわけじゃない。体質だ。
この日も、なんとなく飯のあてを探して山をうろついていた。狩るとか、捕まえるとか、そういうんじゃない。ただ、なんとなく「知りたい」と思った記憶にふれるだけだ。
そんな折、いた。白沢だ。
白くふわふわの毛皮。美しい六本の角。しなやかな尾。——見るからに、上物の妖怪。
霊獣とか賢者とか言われてるが、
(正直、ちょっとだけ……美味そうなんだよな)
ただし俺が欲しいのは肉じゃない。記憶だ。
ちょっと舐めるくらいなら、相手にダメージはない。たぶん。いや、まあ、今まで文句言われたことはない。多分。きっと。
(少し、喰うか……。あいつの“知識”は珍味だろ)
近づくと、白沢はすぐこっちに気づいた。目をきらりと輝かせ、すっ飛んでくる。
「ややっ、朧丸殿ではありませんか!やっと会えた〜っ!」
(……なんで“やっと”だよ)
「実は私、ずっとあなたに会ってみたかったんですよ!記憶を喰らうという伝説の妖怪!いや〜憧れちゃって!」
(め、面倒くさ……)
「記憶を喰らうってことは、私の“人間の知識”も喰えるってことですか?人間って面白いですよねぇ!特に最近の異世界転生モノ!私は“とあるスライム”の話が大好きで……」
「……」
(な、長い……。喋りが長い……)
「しかもですね、スライムって一見弱いけど、実は“最終的に宇宙作っちゃう系”のやつ多いじゃないですか!もう、あれ見たとき『人間の妄想力、底なしすぎない?』って感動しちゃって!」
(感動の押し売りやめて)
俺はしれっと距離を詰め、後ろにまわる。
(よし、ほんの一かじりだけ)
「——いただきます」
瞬間、脳内に怒涛の情報が雪崩れ込んだ。
「私が人間観察を始めたのは平安の終わりごろでして、その頃の恋文文化も面白くてですね、こう、句読点の使い方に……」
(うるさい!頭の中でうるさい!!)
「ちなみに“しのぶれど色に出にけりわが恋は”っていう句があるじゃないですか!あれ、マジで一周回って天才的なんですけどね、それを最近の若者に翻訳すると〜」
(誰か翻訳止めろォ!!)
「それとですね、最近の人間って“バズ”を求めるじゃないですか?あれって江戸時代の瓦版文化と似てるんですよ〜。私、それに気づいたとき“ふふふ、またひとつ真理にたどり着いたぞ”って」
(俺の中で勝手に真理にたどり着くな!!)
混乱。カオス。知識と感想と感情とハイテンションが入り混じった、地獄のデータストーム。
しかも全部、白沢の語り口調付き。
(うっ……記憶酔いする……!)
ざらざらと脳の奥にまで響くような勢いで、“喋り”が流れ込んでくる。
(やべえ……!これ、たぶん消化できない系の知識……!)
「……ぐぅっ……! やべえ……こりゃ想像の五倍はしんどい……!」
その場に膝をつき、ぜえぜえと肩で息をする俺を、白沢はキラキラした目で見ていた。
「どうでした!?私の記憶、美味しかったですか!?」
「……ああ、美味かったよ……」
「本当ですか!?やった〜〜〜!」
(“味が濃すぎて胃もたれした”って意味だよバカヤロー……)
あまりに濃厚、というかカロリー爆弾すぎて、しばらく耳から煙が出た。マジで。
「では、次回は“現代の婚活市場と平安貴族の縁談事情の比較”をテーマに、また喋りまくりますね!」
(待て、俺にそんな回復力はない)
それ以来、俺は白沢に「また私の知識を喰ってください!」という手紙を送られるようになった。
毎週。
しかも巻物で届く。巻物なのにフルカラー。イラスト付き。
(お前はなに?記憶のサブスクか?)
ふと気づけば、俺の脳内に「白沢チャンネル」というカテゴリができていた。新着通知つき。
ちょっと記憶かじっただけで、この仕打ち。人間で言うところの「お試し版見たら一生広告に追われる」ってやつだろこれ。
ちなみに、そのあと白沢の知り合いだという男の記憶も少し喰った。バレないように。
……人間のくせに、妙に芯がある“高道”とかいうやつ。
(……あいつ、妙な声してたな。芯をつくときだけ、声が変わるんだ)
そいつの記憶には、妙に“重み”があった。濃いわけじゃない。だが、なぜか忘れられない。
その時は、特に気にも留めなかった。
ただの人間。ちょっと変わった奴。それだけだと思っていた。
——まさか数ヶ月後、自分がその“妙な声”に助けられるとは、夢にも思っていなかった。
この2人の知識は化け物級ということで、異世界の外国の知識もあるのでバズとかサブスクとか通じちゃう、という設定でいかせてください。




