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第14話「その顔で誤解されてますよ、鬼華さま」〜最初にイケメンって言われると、あとの言動が全部ズレてくるんです〜

「……お主が“ことのは堂”の相談屋か?」

開口一番、すごいのが来たなと思った。

長く艶やかな髪、鋭い金の瞳、引き結ばれた唇からは牙がちらり。

隠しようのない色気をまとった男……というよりも、もはや人間離れした圧倒的ビジュアルである。

「はい。お名前を伺っても?」

僕がいつもの通り返すと、男は自信満々に胸を張って名乗った。

「我が名は、鬼華きか。美貌の化け物として知られておる」

(自称が強いな、その自己紹介、もうちょっと謙遜という言葉を学んでからにしてもらいたい。)

だが事実、彼の美しさは目を見張るものがあった。

まつげなんか、カーテンかと思った。


「で、相談とは?」

僕が本題に入ると、鬼華は真顔で言った。

「……モテすぎて困っておる」

「帰ってください」

「ちょ、待て待て! 本気で困っておるのだ!」

彼は僕の机に突っ伏した。妖艶な美男子が額をちゃぶ台に押し当てると、木目までときめいている気がしてならない。

「誰も、わしの中身を見てくれぬ! 何を言っても“イケメンのくせに”と言われる! 相談しても“どうせモテるからいいじゃん”で片付けられるのだ!」

——これはめんどくさい案件の香りがする。

「はいはい、それは“美形アンカリング”ですね」

「なんじゃそれは!?」

彼が顔を上げて目を見開いたので、思わずこちらも身構えてしまう。

まつげが……すごい(2回目)。

「たとえば最初に“高い値札”を見せられると、そのあと安く感じる。人は最初に得た情報に強く引っ張られる。“超イケメン”という情報を先に受け取ると、あなたの行動や性格すべてが“イケメンっぽい”と解釈されてしまうんです」

「……それって、損ではないか?」

「見た目で得をすることもありますが、誤解される分、期待とのズレに苦しむこともある。つまり、イケメンゆえにギャグがスベるのも、そのせいです」

「わし、ギャグも好きなのに……!ピンクのカエルのモノマネとか得意なのに……!ただのナルシスト扱い……!」

(いやそれはそれで誤解されそうなギャグだな)

と心の中でツッコミながら、僕は少しだけ同情も覚えた。

見た目がすべてを決める世界では、中身は後回しになる。

「では、“見た目”から入らない自己紹介を試してみては?」

「む……?」

「つまり、“自分の魅力”をズラす。“顔”ではなく、“趣味”や“価値観”で自己紹介してみるんです。最初に出す情報を変えれば、受け取る印象も変わります」

心理学的にも筋は通っている。

「うむ……やってみるか……!」

彼は拳を握りしめ、まるで魔王が世界征服に出かけるかのような決意で立ち上がった。

だが、目指すは“イケメン封印”である。


⸻後日、鬼華は”顔を隠して町に出る”チャレンジを始めた。

黒い布を巻き、金の瞳は薄い黒色のレンズの眼鏡で隠し、声も低めに演出。

「どうも、焙煎珈琲と落語が好きな者です」

「まあ〜落語!? 孫と話が合うわぁ!」

近所のおばあちゃんが感動して拍手していた。

「最近、“ぶぶ漬け”にハマってまして……」

「キャ〜素敵〜!!うちの姑にも飲ませたいわ〜!」

主婦が目を輝かせていた。

「なんだこれは……! 顔を出していないのに、わし……褒められておる……!?」

鬼華が震える。

これはもはや文化の衝撃である。

「いや、顔が出てないから褒められてるんですよ」

僕が言うと、

「ふぉおおおおおお!!」

と謎の雄叫びを上げながら地面に膝をついていた。

見た目が強すぎると、言葉は霞む。

だが言葉から伝えれば、見た目すら“あとから意味づけ”されるようになる。

アンカーを、相手に渡すんじゃない。自分で置けばいいのだ。そう思っていると、鬼華がゆっくり立ち上がった。

「高道よ……わし、決めた。顔ではなく“語り”で勝負する道を選ぶ!

今日から、顔の美しさではなく、コク深い珈琲と語り口の美しさで……魅せる!」

(それができるなら最初からやってくれ)

と内心突っ込みつつ、まぁ成長はしているらしい。


⸻そして数週間後。

「“仮面の語り部・鬼華”って知ってる?」

という噂が町に広まっていた。鬼華は、顔を隠したまま”笑いとコーヒーと小話”を届ける存在として、ちゃっかり人気者になっていたのだ。

「……“焙煎の呼吸・壱ノ型”とか言ってコーヒー淹れてるらしいよ」

「“ぬるい人生に熱湯を”って書かれた暖簾があるらしい」

謎の中二センスも炸裂しているが、評価は上々。

見た目を封印することで、彼の言葉と姿勢が、ようやくまっすぐ届くようになったのだ。

「見た目じゃなく、“語り”で魅せるのも……悪くないな」

ある日、鬼華がふとつぶやいたその言葉に、思わず僕は言ってしまった。

「それが本当の“美形”ですね」

すると鬼華は、口元をにやりとゆがめた。

「くっ……今の、ちょっとカッコよかったな、わし……!」

(ダメだ、この人は治らない)

もはや習性である。


⸻それでも彼の声が、町の誰かに届いているなら、顔ではなく言葉で誰かを笑わせられるなら、美貌の化け物・鬼華は、確かに“進化”しているのかもしれない。

⸻たぶん、きっと。いや、願わくば。できれば。

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