09.そして現在へ
ひとまず、振り返りは終わった。
四人の認識は今ほぼ同じなので共有は終わったとみていい。
「うわ、もうこんな時間」
「3時過ぎてる!?えええもう夕方やん!今日何もできてないんだけど!もったいな!」
「どうどうシズっち。起きたのが12時半とかだったし仕方ない気もするなあ」
「ねえ涼、これからどうする?」
「私は運転する。暗くなるまでは走ろうかな。それだけでもかなり距離稼げるはずだし」
「ああ、車だもんね。確かにお願いしたいかも」
「あたしは晩御飯の用意しよかな。運転中でも問題なく作れるって証明したいし」
「ガタンって揺れて包丁で切るとかマジでありませんように」
「静それフラグ?」
「安全運転で参ります」
「お、おう…」
「あたしもスキルの経験稼ぎかな。人目のある所で出来なかった作業やりたい」
「え、そんなんあるの?」
「あたし裁縫スキルって誤魔化してたからな。被服スキルでしか出来ない作業は全部封印してた」
「ああ、なるほどな」
そんな感じで、全員席を立ってそれぞれの作業に入ることにした。
林さんもスキルの経験値稼ぎがしたいらしく、隠密で見えなくなったりしても困らないものを探していた。
そこで私の召喚で出した木の板を進呈したら超喜ばれたのである。
長時間かけ続けて経験値を稼ぎたいらしく、本気でいらない・使わないものを探していたらしい。
確かに今は必要なものを持って逃げてきたばかりなので、なくなると困るものしかないもんな。
やることがなくて暇を持て余す、ということがなく、むしろ忙しくしている状態で車を走らせ、しばらく。
狭山さんの声で作業が中断した。
「もう少しで晩御飯できるよー」
「待ってました!!!」
「和食!?和食!?」
「あったかいご飯!」
「リオくんが切ない!」
「いっぱいお食べ…」
悲し気な眼差しを3対くらった。解せぬ。
近くに適度な障害物がある場所を選んで停車する。
何となくね、車って道のど真ん中より端っこに寄せた方がいいかなってイメージあるからね。
停車していそいそと居住部に向かうと、ほかほかの白米とみそ汁と野菜炒めらしきものがテーブルに並べられた。
もうこれだけでテンション上がるんだから、自分が日本人だなあと実感する。
「ごめんな、野菜の種類少ないし肉もないからこんなんで…」
「いやいやいや上等では?」
「私、究極、米とみそ汁だけでいい」
「朝ごはんかな?」
「人参と玉ねぎかな。いいじゃん。でもあったっけ?」
「今日召喚したばっかのやつです。明日はジャガイモか茶葉出そうと思ってます」
「素敵!肉があったら肉じゃができるな!」
「そういや今って水しか飲み物ないんだっけ。…水あるだけで充分だけど」
「あっリオくん、蛇口とかシャワーとか、水出るけどそのまま飲んで大丈夫なやつ?」
「うん、飲める。でも飲むなら狭山さんの召喚した水の方が美味しいと思う。単純に質がいいから」
「へえ、そうなの?まあ茜は料理スキルだからわからんでもないけど」
「うん、鑑定してみた。車から出る水は『品質(普通)。飲用可』で、狭山さんのは『品質(上質)。飲用可。料理や栽培の効果微上昇』って」
「マジで?すごいな?自分のなのに知らなかった…」
「料理に使うと美味しく作れて、植物にあげると成長に補正入る感じかな?まああたし達に栽培系のスキルとかないけど」
「切ないこと言わないの千晴。でも家庭菜園とか農園とか超欲しがるやつでは」
ちなみに、キャンピングカーの動力は私の魔力を主動力にして、あとは周りに漂ってるマナらしい。
水や電気にあたるものは、周囲のマナを変換してるので実質無料の使い放題だ。なお、台所やシャワー、トイレで使った水は排水された後マナに変換される。
そうしてそのマナはキャンピングカーの動力として循環される仕組みになってるらしい。
他にゴミ箱代わりのダストシュートがあるが、この中に入れると入れたものはマナに変換され、これも動力とされる。
ちなみに溢れた分は大気に漂うマナと混ざっていく。環境にいいね。リサイクルかな?
その仕組みは既に三人に話してるので、水や電気(実質マナ)は遠慮せずに使えと伝えている。でないとシャワーとか遠慮しかねないし。
何か「神仕様!」って拝まれたけど。我ながらすごいキャンピングカー召喚しちゃったぜとか思ってるけど、拝まれるほど…?
「ごちそうさま!美味しかった!茜ありがとう!」
「お米…美味しかった…」
「おなかいっぱい。久々の満腹感」
「リオくん、小食だな…まだ果物生活の影響あるかな?」
「ご飯おかわりしたのに?」
「いやあたしなんて三杯おかわりしたからな。茜も千晴ももっと食っとるぞ」
「ご飯とみそ汁もうないの?あるならまだ食べたい」
「ちーちゃん結構食うな?でも作った分は全部放出したかな。次からもうちょい作る?今回、全員胃が縮んでる可能性あったから控えめにしたからなー」
「久々の和食にテンション上がったからね。でも確かに、あの食生活はね…」
「食欲、あんまりそそらんかったよな…美味しくないわけじゃないけど。味気ない、っていうの…?」
「あ、それだ。静に同意。何かある程度食べたら何かもういいやって思っちゃうの」
「だよねー。もうさ、これ食べられるようになって、マジであそこから逃げてよかったって思う」
「ほんとそれ」
「いやー、おそまつさま。明日はもうちょっと何とかしたいな、材料も量も」
「私、ご飯もっと食べたい。何ならおにぎり食べたい」
「いいね、おにぎり。そういや茜、お米どうやって炊いたの?」
「キッチンに炊飯器がありました。一升炊きの」
「そういやあったな」
「キャンピングカーにデフォルトで設置されてたってこと?神か?」
「絶対涼仕様っていうか日本人仕様だよね」
「スキル使ってるのが私だから、何か空気読んでるのかもなー」
「リオくん最高」
腹休めにちょっと雑談して、それぞれ行動することにした。
私は再度運転。今日話し合いで距離あんまり稼げてないからね。目的地の町にさっさと着きたいし。
暗いし無理はしないようにとは注意されたけど、行動は止められなかった。彼女達も、出来れば早く町に着きたいんだろう。
今日は一人ずつ順番にシャワー浴びることにした。昨日は二人ずつでちょっと窮屈だったし、出来るだけ急いでたからな。今日はまったりしたいらしい。
ごめんな、シャワーしかなくて。湯舟なくて。多分キャンピングカー、設備進化とか出来るだろうし、いつか湯舟つけるから…
順番ってことで、波川さんがシャワーに行った。ちなみにタオルや着替えは彼女が出してくれている。
狭山さんは後片付けや皿洗いだ。林さんも手伝いをするとのこと。終わったら、順番にシャワーするらしい。私は運転の件もあって、順番は最後にしてもらった。
なお、洗濯機は設置されてないので一日着た服はダストシュート行きである。そして波川さんの出した服を着ると。
もっとも、一度も外に出てないし車内は気温も快適に保たれてるので、寝間着代わりの白Tシャツと白ズボンで全員過ごしていた。
女子力どうしたとか言われそうだけど、女しかいないし、気にしてられない。清潔な服着れてるだけでありがたいのだ。
シャワー後に着るのも同じ白いシャツとズボンである。毎日同じ服でも私は気にしないので別にいい。
夜も更けて10時近くになった。もう寝てもいいかもと言いつつテーブルに座って明日の予定などを確認していると。
《スキルがレベルアップしました》
《無機物干渉スキルレベルが3になりました》
《召喚マナ消費量が減少します》
《召喚内容が増えました》
《干渉範囲が増えました》
《対象に自動修復・微が適応されます》
「お、レベルアップだ」
「え、おめでとう!涼は確か3やんな?召喚増えた?」
「増えたっぽい。あと対象に自動修復が適応って、何事…?」
「え…なにそれ?ちーちゃん、シズっち、知ってる?」
「あ、あたし知ってる!それ持ってる!レベル3で覚えた!召喚で出したやつ、汚れても破れても綺麗に戻るやつ!」
「は?すごいな?」
「茜は持ってないの?」
「うん、初めて聞いた。まああたしが出せるのって全部食品で消耗品だし、修復もクソもって感じだしなー」
「確かに」
「あー、それで布とか道具出せる私達にしか派生してないのか」
「でも試したけど、1cmくらいの破れの修復に1日かかってたから実用性は微妙」
「おっと…それは確かに微妙?つかシズっち試したの…?凄いな」
「まあ『微』とか付いてたしな。進化したら『弱』とかになるかも」
「あとは単純にレベル依存かもね」
「今のとこ修復が必要なことないだろうし、地道にレベルアップして強化してけばいいよ。多分キャンピングカーも対象だし、あって困らない」
「ああ、確かに。キャンピングカーも対象ってなるとめちゃめちゃ有用か。傷なんてつかないのが一番だけど」
「でも車って泥とか跳ねたり細かい石や砂利でタイヤや車体削れたりとかありえそうだから、マジであったら便利なやつ」
「ほんとだ。神スキルかな?」
「涼もレベル3かー。千晴もすぐ3に上がるといいな!あたしらまだ5には遠いかもだけど!」
「3、なりたいね…どれだけ経験値溜まってるかわかんないの地味に不便じゃない?いや、レベルアップがわかるだけでありがたいんだろうけど」
「わかる。微妙に溜まってるなーって感覚はあるけど、満タンがどこかわかんないから、あとどれだけってのはわかんない。はよ肉召喚したい」
「…あ、それ、わかるかも。経験値」
「え!?」
「涼マジで言ってる?」
「鑑定眼鏡で」
「…そういえば!?鑑定持ってたこの子!リオくんすげえ!」
普段鑑定発動とかさせてないからすっかり忘れてた。
いや、微妙な視力矯正は使いまくってるけどね?あとサングラスってほどじゃないけど、運転中眩しかった時、薄っすら光を遮ってくれたんだよな。
この眼鏡、だんだん視力落ちてるせいで視界がボヤけてきたらか替え時かなあなんて思ってたんだけど。自動で度を調整してくれてるんだよ超ありがたい。
まあ、そういう機能が目立ってて(私の中で)、鑑定の能力すっかり頭から消えてたっていう、ね。
「ごめん、ほんとごめん…大人のくせにポンコツですまぬ。とりあえず、現時点の全員の状態鑑定すればいいかな?」
「そこまで落ち込まないで…必須情報ってわけじゃないし、共有事項の優先順位低かっただろうってのはわかるから」
「うんうん、とりあえずそれで鑑定してもらえたら嬉しいかな。てか何が見えるの?身長体重見えないよね!?いっぱい食べた後なんだけど!」
「何気にしてんのシズっち…」
「えーと、じゃあまず私のステータスから」
名前:村雨 涼
年齢:14(24)
性別:女
LV:1(あと100)
職業:破壊者
HP:18/20
MP:70/100
スキル:無機物干渉LV3(あと295)
「…は?」
「クラッシャーの存在感やばい」
「なんで!?」
「何で本人が驚いてんの!てかMP余ってる!スキル使って消費しよ!レッツレベリング!」
「そこ???まあ確かにもったいないけど、静、貧乏性?」
「あれえ?今日2つも新規召喚したから枯渇寸前かと思ってたんだけど…」
「まじで?うーん、比較した方がいいかも?リオくん、あたしも鑑定してみて」
「わかった」
名前:狭山 茜
年齢:14
性別:女
LV:1(あと100)
職業:給仕係
HP:25/25
MP: 2/20
スキル:料理LV4(あと42)
「MPギリやん」
「使ってるってことだからよくない?召喚と料理でこれなら、いいペースじゃないかな」
「そうかもやけど。給仕ってまたわかるようなわからんような」
「まあ、料理作ってくれてるから、まあ…?」
「料理人とかなら納得したのに。でも私よりマシか」
「てか、リオくんの年齢14(24)って、14歳と24歳ってことかあ。あたし14しか書いてないもんな」
「あー、なるほど。体の年齢と実年齢。どこの名探偵?」
「誰も言わないから言うけど、涼のMPすごくない?」
「うん、あたしの5倍」
「…涼って、ちょっとすごい体質っぽいし、そこら辺関係してるのかも?って思ったけどどうかな?」
「ああ!よく思いついたなちーちゃん。リアル特殊能力持ちなアレが反映された感じか」
「HPは狭山さんに負けてるけどな」
「ちょっとじゃん。気になってきた。あたしも見て」
「おっけー」
名前:波川 静
年齢:14
性別:女
LV:1(あと100)
職業:お針子
HP:22/22
MP:1/20
スキル:被服LV4(あと35)
「お針子。…あたし、お針子!?」
「これはまあ、納得かな?シズっち、ちくちくしてたし」
「そういえばだけど、職業ってレベル低い時や若い頃や環境変わった直後ってコロコロ変わるらしいよ」
「え?…あ、そういえば何かの本でそんなの読んだ覚えがある。資料室で。じゃあお針子じゃなくなる可能性もあるのか」
「あー、じゃあ今の私達ってまだ『これ!』って職業が定まってない状態か。で、行動とかでそれっぽいのが暫定的に当てはめられてると」
「なるほどな。それにしてもリオくんがクラッシャーって、何故に…?」
「…覚えがある。脱出の時の小舟もそうだけど、私、脱出する前に宛がわれた部屋にあった道具結構酷使してた。壊れたのかも」
「あ…」
「私のスキル、干渉して道具の能力100%かそれ以上引き出したりできるんだけど、当然、負担かかるんだよね。しかも部屋にあった道具どれもボロボロで」
でも『彼ら』は、朽ちるのが早まっても、人に使われたいと言った。それが道具の誉れだとも。
スキルの効果で、傷みのない全盛期の状態を疑似的に作り出して、100%以上の力を発揮する。私が譲渡した魔力で、破損部分を埋めて、能力をブースト状態にする。
特に傷んでない新品などであれば何の負担にもならなくても、破棄直前の道具であれば致命傷になる。
…そうなるだろう、とは思っていた。でも職業に表れたくらいだ。『彼ら』は、もう修復不可能な状態に、壊れてしまっている、のだろう。
私のスキルは、操作じゃなくて干渉だ。話し合いは出来ても命令は出来ない。だから、『彼ら』は自分で望んで私の頼みを聞いてくれた。
壊れてしまったとしても、それは『彼ら』も承知のこと。現状維持より、再び人間に使われることを望んだ。
ああ、でも、彼らの望みでもあったのに、罪悪感を覚えるのは私が人間だからだろうか。きっと『彼ら』の価値観では満足いく結果だったのだろう。
話し合いは出来ても完全に理解することは出来ない。私は人間で『彼ら』は道具。まったく別の存在で、別の価値観を持っている。
出来るのは、歩み寄りだけだ。私が気まずい思いをするなんて『彼ら』は望んでない。自分達の信念を汚されたとすら思うかもしれない。
このスキルを得た以上、これからも似たような思いはするんだろう。割り切れるだろうか。
それでも、壊れてしまうより残っていて欲しいと思うのは、傲慢だろうか。
まったく纏まらない心の内を、断続的に零す。大人のくせに、子供に心配をかけてどうする、とは思うけど。
「そっかー…難しいなー…」
「うーん、涼は、その部屋にいた『彼ら』に悪いって思ってるって言うけど、あたしはそうじゃなくて、ただ悲しいんじゃないかなって思ったな」
「…悲しい?」
「ちーちゃん?」
「仲良くしてた、よくしてくれた『彼ら』がいなくなって、悲しい。違う?」
「………あれ、そう、かも?」
「うん、だから涼は傲慢とか自分勝手とかじゃなくて、ただ悲しくて寂しいだけ。それで落ち込んでるだけ。『彼ら』の在り方も尊重できてる。きっと!」
「…そうだと、いいけど」
「あたしも今の話聞いて、涼の言い分より千晴の言い分の方がしっくりきたから、多分そうじゃないかな?」
「もし違っても、ただ悲しいだけって思ってたら、『彼ら』の在り方も否定してないし、道具が壊れて悲しいのは人間として普通のことだから、何も問題ないって!」
「うん、そう思い込んどこう?本当のところは涼の心にしか答えはないけど、そう考えた方がwin-winじゃない?」
「そっか、うん、そうかも。…そう思おう。ごめん、話ぶった切って。最後は林さんを鑑定しよう」
「あ、うん、お願い!」
名前:林 千晴
年齢:14
性別:女
LV:1(あと100)
職業:盗賊
HP:18/18
MP:5/22
スキル:隠密LV2(あと3)
「………シーフ…?シーフ!?(二度見)」
「千晴が?なぜに???」
「何で私ら半分が就いたらヤベー職業なんだ」
「あー…でもわからんでもない、かな?」
「なぜに???」
「盗賊って盗みを働く人って意味もあるけど、ラノベでは斥候役の身軽な人のジョブってパターン多くない?そっちの意味のシーフじゃない?」
「あー、そういう。手先が器用で、かけられた罠を解除したり先行して敵の数とか調べたり?茜の予想当たってそうじゃない?」
「へえ、そうなんだ。そう言われたらしっくりくるかも。『隠密』スキル持ちってのも理由かもなー」
「てかな、盗みって意味ならあたしら全員やってるからな?城にある諸々、ちょろまかしてナップザックに詰め込んで逃げ出したし?」
「あっ超納得した。茜、その過去は掘り返さないで…」
「むしろあたしら全員盗賊やん」
盗賊×4のパーティとかやばすぎるだろ。
犯罪者と裏の道待ったなし。
「多分、職業の候補にあったけど、盗賊より近い職業があったからそっち選ばれたんじゃない?林さんは隠密スキルの存在がでかかったんだと思う」
「…言われてみればあたしら全員スキルが影響してる職業が出たっぽいしな。給仕係か…」
「てか、明日になったらまた別の職業になってる可能性あるよ。狭山さんとか城じゃ料理より雑用が多かったって愚痴ってたじゃん。でも今日ガッツリ料理してるし」
「確かに、茜は明日か明後日になったら給仕係から料理人になってる可能性が微レ存」
「波川さんも裁縫士とか服職人とかになってるかもしれないし」
「リオくんも運転手とかになってるかも?」
「ちょっと嬉しい。それ」
「千晴もそれこそ斥候になってるかもだし」
「そうそう、ちーちゃんもあたしらもしばらく盗みする予定なんてないし、すぐ消えるでしょ、そんな職」
「うん、ありがと…ちょっと衝撃すぎて頭真っ白になった…」
「ぶっちゃけ、職業に逃亡者とかでなくてよかったと思った。お針子万歳」
「うっわそれ嫌ー!」
「勇者()とかも嫌だな。いや、クラッシャーがいいのかって言われたら違うけど」
「あたしらには逃げる勇気しかなかったのに。しかもリオくんに誘われて逃げただけ」
「そう言われるとある意味私たちは勇者になる?勇気ある者?」
「やめやめ、勇者とか忘れよ!あと気になったのは千晴のレベルアップが目前っぽいってこと!」
「あ、それは確かに!あと3って…どんなもんなん?」
「そもそもレベルアップに必要な経験値ってどのくらいなんだろうな。私はレベルアップしたばっかだから、多分これが最大必要経験値?」
「そっか、リオくんレベルアップ直後か。295って半端な…300だったとか?いや1でも少ない方がいいから295であってほしいな」
「てかあたしと茜もレベルアップ結構近そう?うーん、どうなんかなー」
「…てかさ、やっぱリオくんのMPおかしいよね?」
「うん…あたしが22だけど茜達は20。じゃあ平均は20だよね。なのに一人だけ100て。HPは同じくらいだから、ここは普通かな」
「やっぱ特殊体質っぽいアレがここに反映されてると思うな!それはそれとして、涼、召喚とかしてMP使お!もったいない!」
「あー、経験値稼ぎしたいしそうしようかな。何出そう…?」
「こんだけMPあったら使い放題な気がするな?とりあえず一番上に並んでるリストのから順番に召喚してったら?必要そうなのあったら優先するとして」
「…どうせなら、検証してみない?狭山さん、協力して」
「へ?あたし?いいけど何すればいいの?」
狭山さんの残りMPは2だ。波川さんは1なので遠慮してもらおう。0になったら、本によれば軽いと凄まじい吐き気がして、酷いと昏倒するらしい。
出来れば経験したくないしさせたくない。幸い本能みたいなもので前兆らしきものは感じることが出来る。次魔力使ったら、魔力尽きるな、と。
多分波川さんは今その状態だろう。あとは寝るだけだろうし、今日はもう何もせず休んでもらおう。
私が確認しようとしてるのは、召喚に使うMPがどのくらいか、である。レベルアップによって多少軽減されてるだろうが、せいぜい1程度だろう。
初めて召喚するものであれば、かなりの魔力を消費する。ただし2回目以降は少量で済む。それはわかっているが、それが具体的にはどのくらいの数値なのか。
「あー、確かに、わかってれば大体このくらい召喚しようって目安になるのか」
「新規召喚のは真面目に知りたいかも」
「うん、私MP残ってるから新規召喚使ってみる。あと2回目以降の召喚も。で、私と同じ消費量かどうかを狭山さんも試して欲しい」
「茜、召喚できそう?」
「…多分、1回なら大丈夫かな…?」
「なら茜やってみて。あたしは多分ダメだと思う」
「1しか残ってないしね。静は今日はゆっくりしなさいね」
「うぃ」
やってみた結果、新規召喚は8の消費で、2回目以降の消費は1だった。狭山さんもりんごを召喚したが同じ1の消費。これは予想通りだ。
恐らくレベル1の時は新規召喚に消費するMPは10なのだろう。私は今レベル3。召喚時のマナ消費というアナウンスは2回あったので単純に1ずつ減ったのだと思う。
明日狭山さんか波川さんに新規召喚してもらって消費量を調べようと思う。彼女達はレベル4なので、恐らく7だと思う。
1日に2種類の新規召喚で精いっぱいな気がすると感覚的に察知していたらしいが、MPが20前後なのだとしたらかなり正確に把握できている。
召喚以外にも料理や裁縫でMPは使うことを考えると、あまり回数はこなせないように思える。
それでも順調にレベルアップできてるので、多分一回使うごとにMPを1消費するわけではなく、1未満だったりするのかもしれない。
作業2~3回で1減るとか、そっちの方が彼女達の作業を見る限り可能性が高い。何せ今日1日でかなりスキルを使った作業をしてるように見えたからだ。
まあ、実際のところは詳しく確認してみないとわからないだろうが。
「千晴は明日あたりレベル3にアップしそうかな」
「寝てる間にレベルアップする可能性もあるな。隠密スキル、ずっと継続して使ってるし」
「アナウンス聞けないと困るから今日中にレベルアップしてくれないかな…」
「MP5残ってるし、ちょっと何かやってみる?」
「あの3の経験値って実際どんなもんなんだろうな…?」
「千晴、どういう経験値稼ぎしてた?涼からもらった木の板に隠密付与くらい?」
「うん、ずっと隠密かけっぱなしのと、1時間ごとにかけ直すってのやってた」
「どっちの方が経験値効率よさそうなのかわかる?」
「多分、かけっぱなしかな。今キャンピングカーと木の板3枚に隠密かけっぱなしで、2枚の木の板は隠密解除してる」
テーブルの近くに小棚があるのだが(中身は空)、その上に2枚の板が見えた。夕食を食べる時に邪魔だと思ってそっちに移したらしい。
2枚の木の板の隣に隠密をかけた木の板が3枚あるとのことだった。え、マジで見えない…ほんとにあるのこれ…?
隠密のスキルを使った林さん自身は当然見えてるそうだ。そしてスキルを使った状態であることも見分けられると。
うん、どっちも見えてるならどっちがスキル使った板かわからなくならないかって心配したけど、さすがにそこまで鬼畜仕様ではないらしい。
「この2枚に隠密スキル使ってみるね。5残ってるならもうちょい経験値稼いどきたいし」
「でも継続的にスキル使ってるとずっと魔力消費してるようなもんだし、ギリギリまで使うのはちょっと危ない気がする」
「キャンピングカーの隠密解除されたら危険度ちょっと上がるしなーちーちゃん、無理は厳禁」
「…それもそっか。じゃあこの2回だけにしとこう。寝てる間に回復するだろうし、それなら多分大丈夫」
「大丈夫って感覚あるなら千晴を信じとこう」
「うん、問題ないはず。じゃあ隠密使って…」
「うわマジで板消えた。ちーちゃんすごい」
「………レベル、上がった…」
「は?マジでか。やったな千晴!」
「キャンピングカーと木の板3枚に使ってる分の継続経験値と、今の2回で経験値達したかな?」
「多分涼の言う通りかな?えっと、また隠密の性能ちょっと上がったっぽい」
「へえ?どんな風に?」
「もう少し大きく動いても消費量が変わらなくなったのと、完全密室じゃなくてもよくなった感じ?」
「完全密室?」
「うん、今までは密閉空間が破られたら隠密の精度かなり下がって消費魔力も大きかったけど、ちょっと窓開いてるくらいなら精度下がらず隠密継続するっぽい」
「おお、いいなそれ」
「短時間なら人ひとり通れるくらいドア開いても大丈夫だから、キャンピングカーから降りれるよ」
「そっか!いいね!でも降りる予定ないな、次の町まで!」
「降りたら危険だしね」
「…まあ、確かに今はそっか。今後はわからんけど」
「そうだな。今後使えるかもだから覚えとこう」
「だんだん隠密が強化されてるようでにっこりしちゃう。千晴最強伝説爆誕か?」
「いつかちーちゃんが自分にかけた時バク転してても何の問題もなくなる日が来るのか。胸熱」
「そうだね。バク転する日は来ないと思うけど。頭から地面にごっつんこする未来しか見えない」
「ここに運動神経に補正かかるスキル持ってる子おらんからな…」
「ソウダネ…一応、林さんもう一回鑑定してみようか?」
「あ、お願い!」
名前:林 千晴
年齢:14
性別:女
LV:1(あと100)
職業:盗賊
HP:18/18
MP:3/22
スキル:隠密LV3(あと299)
「MPが2減ってる!」
「継続隠密と新規隠密でこの数分で2使ったのか」
「経験値あと299ってことは、300説が強くなってきたな」
「私と林さんが大体同じタイミングでレベルアップしてるな。狭山さんと波川さんもほぼ同じくらいだし」
「よーし、明日からも頑張って経験値稼ぐぞー!料理いっぱいしなきゃ!次の町に着く前に5になれるかもだし!」
「うん、やれること増えてきてるしやる気出るな!ってことで全員MP残りヤバそうだし今日は大人しく寝ようか!」
「あ、涼も結構召喚したしMP使ってるもんな。今どのくらい?」
「えーっと…」
名前:村雨 涼
年齢:14(24)
性別:女
LV:1(あと100)
職業:破壊者
HP:18/20
MP:4/100
スキル:無機物干渉LV3(あと232)
「………」
「………」
「………」
「…MPの暴力!」
「さっき、あと295だったのに!数分で経験値63稼ぎよったでこの子!」
「あたしらもそのうちレベル抜かれそう!ちーちゃんだけじゃなくてリオくん最強伝説も始まります!?」
「し、新規召喚で経験値10増えてるっぽいです!2回目以降の召喚は1とか2でブレあり!現場からは以上です!」
「検証ありがとう!」