閑話10.潜む反抗心(桜庭視点)
ちょっぴりぐろ描写あり?
「ああ、クソッ!何だあの汚らわしい部屋は!燃えてせいせいしたぜ!」
「魔物を生み出すなんて正気じゃねえよ!ここは人間族の国だぞ!」
「転移が出来るなら召喚も出来るだろ。何でそっちに頭使わねえんだ?」
―――うるさい。
うるさい、うるさい、うるさい。
喚くなら余所でやれ。わざわざこんな廊下で、しかも人の部屋の前なんかで愚痴を垂れ流すな。
そもそも勤務中に文句言うってどうなってんだ、この城の兵士ってのは。
騒がしくして休ませないつもりなのか、単に休憩室と勘違いしてるのか、配慮も何もいらないと思ってるのか。
どうしてこうなった。そう自問したのは何回だ。ただ、いつも通りに学校に行ってただけなのに。
何だよ、異世界召喚って。何だよ、勇者って。知らねえよ、そんなの。
勇気ある者?すべてを救う救世主?クソくらえだ。
意見をしたところで聞きゃしねえのに、何しろってんだよ。
『別に、魔族がこっちを侵略しようとしてる証拠も根拠もないじゃないですか!どうして魔族と戦うんですか!』
その意見を聞いて、くだらないことを言ってないで黙って従えと言ったらしい奴らに、どうして寄り添えると思うのか。
ああ、わかった。そんな気はしてた。ただ、こいつらが魔族を気に入らないだけなんだと。
人間族至上主義、そんなことを言っていた。魔族だけじゃなくて、多分他にも色んな種族があるんだろう。
その全てが、気に入らないのだ、この城の連中…いや、この国の王族は。
「菫、大丈夫か?」
「…要、くん?うん…大丈夫…」
魔族が人間族を侵略しようとしてるわけじゃなく、人間族が攻撃するから防衛してるだけ。
どこかからそんな情報を持ち帰って意見したのは、ボクの彼女でもある菫だ。
付き合い始めたのはつい最近。
今年の初詣で、行きたい高校を見つけたボクは、学業成就が有名な神社にお参りすることにした。
来年が受験だからというのもある。気分転換という意味もある。
そうして詣でた神社に、クラスメイトの彼女もいた。聞けばボクと同じ理由で、少しでも神社の効能にあやかりたいとか言ってた。
照れくさそうに言う彼女に同意して、一緒にお参りして、健康祈願のお守りを買った。
来年一緒に来て、合格祈願のお守りを買おうね。
そんな小さな約束に嬉しくなった。
偶然なのか、受験したい高校は一緒で、よければ一緒に勉強しよう、なんて約束をして連絡先を交換した。
そうして話すことが多くなって、新学期が始まって一緒に図書室に行ったりして。
うっかり話した趣味を馬鹿にせずに凄いと褒めてくれたことで、ボクはあっさり彼女に恋をした。我ながら思う。チョロいと。
でも嬉しかったのは、彼女も同じ想いだったこと。
初詣から始まったこの恋物語は、半月もせずに恋人成立という結果を迎えて終了した。
たまに図書室で、週末に図書館で勉強なんていう色気なんてないデートだったけど、楽しかった。
受験が終わったら、合格したら普通の恋人みたいなデートをしようだなんて、そんな約束をしていた。
未来が輝いて見えていた、そんな日々を過ごしていたのに、全部壊れたのだ。異世界への転移によって。
彼女の、菫のスキルは『看破』だった。城の連中には『発見』っていうスキルだと思われてたけど。
発見は、何かがある場所が光って見えるだとか、そんなスキルだそうだ。
罠とか、埋まってしまったアイテムだとか。スキルレベルが上がると、隠されてるものによって光の色が変わるそうだ。
罠だと黄色、アイテムだと緑、敵だと赤、みたいに。あとは光が強くなる、だったかな?
看破も同じようなスキルだけど、詳細が見えたりするらしい。
あと、隠形スキルみたいなので姿を隠してたりするのも見つけられる。
偽装関係を全て丸裸にするスキルらしい。これを教えてくれたのは、クラスメイトの村雨だった。
多分、菫はそのスキルを使って、魔族の動向を知ったんじゃないかと思う。
具体的にどうやったのかはわからないけど。
―――そして、それを暴いて、城の奴らは菫に暴行した。
殴る蹴るだけじゃない、あいつらは、菫に暴かれたことに激怒して、目を潰したのだ。
利用価値があると思ったのか、片目だけで済んだのはいいのか悪いのか。
あとは逃げられないように足の骨を折って、左手も砕いた。
ボクがそれを知ったのは、菫が進言したと思われる日の夜だった。
血塗れの恋人の姿を見て、絶望した。
こいつらにとってボクたちが子供に見えていたのが不幸中の幸いか。
殴る蹴る潰す以外のことはされなかった、らしい。もしもっと菫が大人に見えていたら、なんて考えたくもない。
勇者だと言って、自分たちから招いておいて、不都合な事実を言い当てられたらこうして報復するのか。
死なせたくはないと思ったのか、ギリギリ命はあったけど、回復も適当で、砕けた骨もまともに修復されないまま。
そしてそれを見て嘲笑っていたのは城の連中だけじゃなくて、攻撃スキルを得たクラスメイトたちもだった。
『はー、ガリ勉野郎なんぞと付き合ってっからこうなるんだよ』
見下した顔で、声で、そう言ったのは芝だったか。
外面だけはいいけど中身はクズだ。そんな気はしてたけど、確信がなくてクラスメイトだけど遠巻きにしていた。
あまり付き合いたい奴じゃないなと思ってはいたけど、想像以上のゲスだった。
ここに来たことで何かが増長したせいかもしれない。
あいつに惚れてる女子も何人かいたはずだ。でもこの台詞を聞いて、失望した女子がいたのも確かだ。
冷遇組にいた女子の中にも、芝が好きな女子はいたけど、憧れ程度かもしれないけど、そいつらも完全に敵と見做したらしい。
あんなのを好きだと思ってたなんて信じられないと吐き捨てていた。
ここから逃げた女子…あの五人だと、芝に好意持ってたのは村雨くらいか。
あと、狭山が友達感覚で仲良くはしてたと思う。
クラス委員の鈴城は、色々雑でルーズな芝のことはあまり好きじゃなかったはず。
他のクラスの波川と林はわからないけど、そこまで親し気じゃなかった。
村雨はベタ惚れっぽかったけど、これ聞いてたらさすがに嫌うだろうか。いや、わからない。
何にせよ、菫がこんな状態になったことは勇者全員が知るところになった。晒し者とも言う。
もしくは、余計なことをすればこうなるぞという牽制か。
血塗れの恋人を抱えて部屋に戻って手当をした。
ボクは専門じゃないから、本当に包帯でぐるぐる巻きとかそんな程度だけど。
ボクらの中に、回復系のスキルを持ってる子なんていないから、こうするしかなかった。
運動部のマネージャーが多少の傷の手当の心得があったくらいか。すごく助かった。
「…要くん、部屋、もどって、いいよ」
「今日からここがボクの部屋だから」
「…で、も…」
今、城に残っている冷遇組は12人だ。男女6人ずつ。
ただ、ボク以外の男子は、3人が菫と同じようにボロボロにされている。
少し前、脱出をしようとして失敗したのだ。
男3人で抜け出そうとして、見つかって、菫のように暴行された。
こちらは傷の治療はされたけど、体調が悪くて寝込んでる、らしい。
そのため医務室に運ばれたのだと医者が言っていた。果たして本当のことなのか。
だから今、ここに無事な男はボクと逃亡しなかった2人の、合計3人しかいない。攻撃スキル組は除く。
元々宛がわれていた部屋は4つあって、4人部屋だった。もっとも、ベッドなんかがあるわけでもなし。
勝手に4人くらいがちょうどいいと思ってるだけだったけど。
残った女5人は、分かれて2人と3人で部屋をひとつずつ使っている。
菫を運んだのはボクが宛がわれていた男部屋のひとつ。残った男2人は、もうひとつで寝ると言っていた。
だからここは、ボクと菫の二人部屋だ。菫専用の医務室でもある。
女子の一人は菫ともボクとも仲が良かったので、菫の面倒も積極的に見てくれると言っていた。
具体的には包帯の替えとかだ。さすがに恋人とはいえ男のボクがやるわけにもいかない。
それでも、一応二人だけの空間というのは都合が良かった。
「…菫、試したいことがある。付き合ってくれる?」
「今の、私に、できること…?」
「そう。ボクと菫、二人だけの秘密」
「…うん」
本当なら、こんなにボロボロにされた相手、見捨てても仕方ないかもしれない。
でもボクは、そんな気にならなかった。初めての彼女というのも理由かもしれないし、同じ高校を目指す同志と思ってたのも理由かもしれない。
何であれ、ボクの中に菫を見捨てるという選択肢はなかった。
ボロボロの、砕かれた骨。複雑骨折だ。果たして回復魔法とかいうやつでも治るか定かじゃない。
あっちの現代医療でも匙を投げるレベルの重傷かもしれない。少なくとも後遺症は残るだろう。
初期治療が肝心、という言葉を思い出す。何であれ、すぐに取り掛かった方が良いと。
「あいつらは、ある意味安心してるかもしれない。菫が動けなくなったって」
「…でも、実際に、動けないよ…」
「…骨だけなら、何とかなるかも」
「え…?」
あまり好きじゃないクラスメイトから聞いた内容だ。どこまで信用できるかわからない。
でも、賭けるしかない。ボクのスキルが本当に彼女の、村雨の言う通りなら…
『桜庭くんのスキルは『屍魔法』じゃなくて『死霊術』だ。ネクロマンサーの方がわかりやすいかな?』
『屍魔法』は、死骸を動かすスキルだ。強さは屍の強さに依存する。ボロボロなら脆く、死んだばかりならそれなりに強い。
元の死体によって、出来ることは変わる。鳥なら飛べるし犬なら走れる。でも、鳥の羽がなくなってたら飛べない。
『死霊術』は屍魔法の上位スキルで、屍魔法と同じことが出来る上に、死体の修復なんてことも出来るそうだ。
または、死体を強くすることも。本来の死体の能力の底上げなんてことも出来る。屍魔法は死体そのまま、死霊術は加工が可能。
骸骨なんかを操った場合、骨が砕かれたらそこで終わり。でも死霊術で砕けた骨を繋ぎ合わせてまた完品に戻すなんて真似も出来る。
もちろんそれだけ魔力は使うだろうけど。
当然、死霊術なので効果範囲は死体…死んだもの、生きてはいないものだ。
「…う…っ!」
「痛い?」
「う、ん…」
「でも、腕は生きてるけど、砕けた骨は…死んでるも同然じゃないかな。自己治癒力なんて、ないだろうし」
「…え…?」
「菫の左腕の、砕けた骨なら…ボクのスキルの範囲じゃないかな?」
「………!」
菫の左腕に触れると、ボクの魔力が流れそうな気がする。スキルが、及ぶような気が。
治癒じゃない、治せない。でも、修復は出来るかもしれない。
元より、こんな力使いたくないと喚いたボクだ。城の連中も、嫌なスキルということもあり、ボクのことは放置気味だった。
菫にスキルを使ってMPを消費したところで、誰も気づかない。
菫も、そのことに思い当たったらしい。
「砕けて、死んでる骨…指先とかから、修復をしてみようと思う」
「…うん、やって。そうだね、今の私の左手、死んでるようなものだもん。繋がってるだけで、動かないし」
「何日もかかるかもしれない。動かせるようになる保証もない」
「うん、大丈夫」
「砕けて、本体、肩から繋がってる部分から離れた骨でも…本体としばらくくっついてれば、繋がるかも…」
「それこそ私の自己治癒力の仕事ね」
「潰された、目も…」
「まずは、骨から考えよう。片目はあるし、多分スキルも使えるはず、だから…」
うまくいく保証なんてない。
でも、何もしないなんて選択肢もない。
腕に触れて、スキルを使った。
嫌だ嫌だと喚いて一切使いたくないと思ったスキルも、恋人のためなら喜んで使ってやるさ。
桜庭 要
中学二年。男子。二組の生徒。スキル『死霊術』。趣味はプラモの組み立て。
坂下 菫
中学二年。女子。二組の生徒。スキル『看破』。実はボトルシップが趣味。
冒頭の文句は、黒い魔物のこと。トランタ近くの森で戦ったアレ。




