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67.ネーミングセンスが普通の場合


鈴城くんがやんちゃした後は雑談になって、昼食になった。

男二人はまたおじやだけど、それでも美味しそうに食べていた。夕食はもう肉食べても大丈夫じゃないかな、とはアキ兄さんの言。

ほぼ丸一日飲み食いしてなかった上疲労困憊だったというのにもう肉食えるのか。若さか性別かわからんが、凄いな。

昼食後まったりした後、砂場くんがこう言った。



「俺らも偽名、考えた方がいいよな」

「そうよね」



さすがに本名のまま旅するのは無茶だと思ったらしい。

というか、今まではそこまで考え至るだけの余裕がなかったのだろう。逃げることを最優先していて視野が狭まっていたとも言う。



「と同時に、この四人のことも偽名で呼べるように慣れよう。どこで露見するかわからないし」

「そうね。狭山さんがアキさん、村雨さんがリオさん、波川さんがナズさん、林さんがハルさん、よね」

「そうそう」

「この世界で名乗るなら西洋系の名前の方がいいのか?王子の名前って何だっけ」

「あー、あの城でマトモに名乗ったのってアイツくらいだもんな。…覚えてねえ」

「重要情報を覚えるためにいらない記憶追い出したから僕は忘れた」

「あたしもー。元から覚える気もなかったけどさ」

「ところてんか?」



失敬な。

でもまあラージフールなんだからバカタレーとかそんな名前じゃね?



「私、一応考えてたのよね。偽名、アイにするつもりなんだけど」

「アイ?…ああ、瞳だから目ってことか?」

「そう。一人くらい元の名前とまったく違う響きでもいいかなって」

「そういえばあたし達、元の名前もじってるとこあるもんね」

「俺、全然違う名前だと反応できない気がしたからなあ」

「確かに、それはあるかも。タクと透くんはどうする?私に合わせなくていいからね」

「え、ええー…どうしよう」

「なあ、林…じゃなかった、ハルか。ハルちゃん達も一緒に考えてくれねえ?俺名づけの自信とかなくて」

「私たち、ですか?」

「オッケーオッケー、ならば俺らの希望・ハルをお貸ししましょう」

「一家に一台、今ならお得、単品売りの大特価セール!ただしレンタルのみ!」

「リオ兄、悪徳商人みたい。まあ、ハルを相談役にするのは大正解だと思う!」



『鈴城瞳』が『アイ』か。

まあ、異世界的にもありえそうな名前だと思うし、いいと思う。和名にも聞こえるけど、ハルもそうだし案外何とかなってるから大丈夫だろう。

ハルを大プッシュする僕たちに男二人は胡散臭そうな顔をしてこっちを見てた。

わかるぞ、今の心境「ハルだけに押し付けないで協力しろよ」ってとこだろ?

でもな、お前らは知らないだろうが、僕たちが協力しないことこそがお前らのためなんだよ。



「俺らのネーミングセンスは地獄だからな。戦力としてアテにするなよ」

「絶望を知りたいのか?比喩でも誇張でもなく、僕らのネーミングセンスは死んでるぞ?」

「もうこの戦いには参加しないって誓ったんや…!!!」

「「お、おう…何かごめん…」」

「…ハルさん、実のところどうなの?」

「死んでます。蘇生の見込みはありません」

「そこまで!?」



ハルはそのまま、従魔たちの方へ視線をやった。

三人はつられて従魔を見る。



『あるじさま、確かにいっぱい候補出してたですのー』

『タルタルソースが気になってるです』

『わたしは肉と名付けられるところだったのだ』

「すげえ、その光景がまったく想像つかねえ。どっからタルタルソース出たよ」

「何でだっけ?」

「エレメンタルの部分から名付けようとして大失敗してたやつですよ」

「本人が覚えてないってどういうことなの…」

「てか肉って何だ村…じゃなくて、男装だから…リオくん?」

「僕そんな名前つけようとした?…したような気がするな?」

「候補にとりにくがありましたからね。…フェニックスからつけようとして迷走した結果です」

「フェニ…!?フェニクス、のニク?どうして?どうしてそこを抜粋したの?」

「さあ改めて聞くぞ。僕らに、協力してほしいか?」

「あ、結構です」

「今求めてるのは大喜利じゃなくて真面目なやつなんで…」

「…ちゃんと自覚してるだけありがたいわね。これで自覚なしだったら面倒だったかも」



何でそうなるって聞かれるけど、そんなの僕たちが知りたい。

でもあれだろ?絵とかもそうだろ?絵が上手いだとかそういうの判断出来ても、自分が上手い絵を描けるかって別問題だろ?

頭の中では綺麗で素敵な光景がはっきり形になってるのに、自分の手を介して表現しようとしたら毒の沼みたいな光景が出来上がったの、僕だけじゃないと信じたい。



「自分の名前から遠いと反応出来ないって意見もわかるし、ひと…アイの言い分もわかるんだよな」

「でもあの城の奴ら、俺らの名前とか覚えてないだろうから、最低限この世界で違和感のない名前…とも思うよな」

「攻撃スキル組が私たちの捜索に協力とかしない限りは大丈夫だと思うけど…」

「何でそんな考えてもいなかったことを言うんですか…!え、これ、私たちの名前大丈夫ですかね?」

「えっ、あ、ごめん!?」

「ラージフールは多分、勇者は対魔族戦に備えて呼んでるっぽいから、勇者を捜索隊にはさせないんじゃないかな?楽観的な意見かもしれないけど」

「…確かに?まあ、一旦考えても仕方ないし保留にしましょうか」

「むら…いや、リオって結構怖い考え言うじゃん…まあいいや、名前考えないと…瞳がアイだろ?巧…って英語で何て言うんだ?」

「別に関連づけなくていいわよ?」

「や、参考にしたかっただけ。英語に変換できたら簡単かなーって」

「あー、俺、透だもんな。…スルー?うーん、それよりはルートの方がいいかな。ルートってどう思う?」

「いいんじゃないでしょうか?トールの逆読みですね」

「うん、私もいいと思う。じゃあ透くんは『ルート』ね。…あとはタクだけよ」

「うええええ」

「案外伸ばすのっていいかもしれませんね」

「そう?じゃあ、俺タークにしよっかな。タクミだから」

「お?いいんじゃね?俺とちょっと似るけど」



確かに。これじゃ鈴城さんもといアイさんとじゃなくて、砂場くん改めルートくんと双子みたいだ。

でも響き自体はいいんじゃないだろうか。音はほぼ同じなのに、巧とタークは全く別の名前に聞こえる気がする。



「いっそ鈴城さんもアイじゃなくてアーイとかにすれば」

「イ・ヤ・よ?」

「アッハイ」

「ナズ…なんちゅー提案してるんだ」

「よ、よーし、決定!鈴城さんは『アイ』さんに、鈴城くんは『ターク』くんに、砂場くんは『ルート』くんに決まり!僕らも今からそう呼ぼう!」

「せ、せやな!」

「最初は間違えそうだな」

「俺はタクとか呼んでたりしたからタークは多分大丈夫。でも瞳をアイは慣れないと難しいかも」

「そうね、あと呼ばれて反応できるかも怪しいわね。これは繰り返さないと駄目ね」

「しかし、ネーミングセンス普通の人が考えるとこうも普通に終わるのか。俺らのあの大量のクソ候補何だったんだろうな」

「これが凡人と持たざる者の壁か…ッ!」

「凡人の方が格上なんだ…つか、逆にお前らの名づけ見て見たかったな、俺」

「恥でしかないのでやめたって。もう二度と戦わんって決めたんや…!」



うん、なのに何回か名づけイベント発生してるんだよな。もうないと思いたい。

むしろ、あってたまるか。



「ドラゴンさんにも言っておかないとね、偽名これよって」

「あ、そうだな」



そういえば、オリジンドラゴンは従魔になっているわけじゃないそうだ。

それでも同行って出来るんだな。…まあ、従魔という立場になっていた方が都合はいいが、必須じゃないとの返答だった。

どうやらドラゴンは何度か召喚者に同行しているようだが、一度従魔になったことで、自分に従魔は向いてないと判断したらしい。

種族的なものかは不明だけど、閉鎖空間があまり好きじゃないそうだ。

なので、人間の村や町、特に部屋の中は圧迫感があって落ち着かないのだと。でも従魔になってしまうと、主と離れているのも落ち着かない。

そういう理由で、従魔となって召喚者に着いて行くことは諦めたと。



「…スーは大丈夫なのか?カーくんの中じゃ飛べないだろ」

『わたしは別に狭い場所が苦手なわけじゃないのだ。巣箱の中大好きなのだ』

「そういえばそうか」

『ドラゴンは空が好きみたいです。空に向かって羽を広げるのが好きだと言ってたです』

『あと速く飛ぶのも好きとか言ってたのだ。単純にあいつの好みの問題なのだ』

「カーくんの中で大人しく出来るのかしら…短期間とはいえ」

「…短期間?って、何で?」

「そりゃ私たちの準備が整ったら、この四人とは別れてまた三人と一匹旅になるでしょ?」

「は!?」

「ああ、そうなのか。まあ、そうだよなー。準備って情報とかか」

「え!?そうなのか!?え!?」

「ターク、驚きすぎよ」



そういえば男二人には、いつまでここにいるか話してなかったか。

どうやら鈴城くん…タークくんは、ずっと一緒にいるものだと思っていたらしい。

逆にルートくんは、一時保護で別れを想定してたみたいだ。アイさんと同じような考え…いや、結論は同じでもそう思うに至った理由は違うかもしれないけど。

…あ、違うか。同行すると思ってたわけでも別れを想定してたわけでもなくて、まだそこまで考えられなかったみたいだ。

混乱気味で話すタークくんの言い分を聞くと、だけど。

それもそうか。まだ助け出されて、やっと安全な場所で静養できて、これから体調を戻す。そう考えていたところだ。

『この先』を考える余裕が、まだ彼にはなかったのだろう。今の現状を把握するだけで精一杯だった、というより、今でも把握しきれていない。

ゲームで言うと、辿り着いたばかりの町の探索もせず買い物もせずイベントも起こしてない段階で、その次の町の話をされたようなものか。

まだ今着いたばかりの町でさえ歩き回ってねえのに次の町の話されても寝耳に水だわ!みたいな心境なんだろう。

ルートくんも似たり寄ったりだけど、何となくここは一時的な滞在地だろうと思っていたのだろう。



「そりゃ、ずっとここにいたいって気持ちはあるけどさ、うん、でも俺らはタダメシ食らいみたいなもんだし、駄目だよな…」

「つか、普通に考えて女四人のとこに転がり込むの、どうかって思うじゃん…今だって俺らの部屋とか、ナズちゃんの作業部屋貸してもらってるわけだし」

「…そうだな、ずっといるなら部屋くれって言うみたいなもんだもんな。厚かましいにも程があるか」

「いや、もうひとつ部屋作るくらいなら出来るけど」

「リオ兄、めっ。それ使ったらあと200しか残らないんでしょ!」

「いや、500くらい…」

「溜めるの早いなーリオくん。まあでも一時滞在のために部屋作っても後で困るかもだし、一旦保留しよ」

「…三人とも、ここを出るのを想定して、大きな反対意見もなさそうですし、これはやっぱりお別れ決定ですかね?」



若干の迷いは見えるけど、別れることに対して割と前向きっぽく思えるし、それでいいんじゃないかと思う。

そもそも最初に彼らは『三人旅』を想定して城を出てるわけで、ドラゴンの加入は想定外だったかもしれないけど、それは受け入れてるようだ。

けど、僕たち四人と一緒に旅をする、というのは考えてもいなかったこと。

想定外の出来事があって合流はしたものの、彼らの中で『仲間』という認識ではないのかもしれない。

あえて言うなら『同志』になるのかもしれないけど。



「…別れたら、もう会えなくなんのかな。携帯とかないもんな、こっち」

「どうかしら。お互いにオリジンが同行者になってるから、オリジン繋がりで連絡を取り合うくらいは出来るかもしれない、けど…」

「あー、確かに、せっかくだし連絡取り合いたいかもなー」

「でもナズ姉の『伝達』くらいしか、現状手段がないですよね」

「私たちの権能ってのに、それらしいのが発現すれば別だけど、期待しない方がいいでしょうね」

「いやあ、あたしの伝達も距離がありすぎると届かんからあんま期待しないで」



どの道、この三人の服はナズが作成する。これは確定している。なので伝達の条件は満たすけど…範囲内にいないと届かないよな。

しかも、出来たとしてもこちらが発信。アイさん達側からこっちに連絡を取る手段がない。

もしかしたらオリジンドラゴンに何かそういうスキルでもあれば別だけど…ラムやスーに聞いてみても、それはないということだった。

強いて言うなら、マーフォークとサンのような関係、ドラゴンの眷属がこっちにいればあるいは…?

または、ラムかスーの眷属が三人の従魔にでもなれば?これはドラゴンがどう思うかも今は不明瞭だし、あえて言う事もないか。



「ドラゴンっていつ呼ぶんだ?明日?」

「あんた達の体調次第じゃない?」

「リオくん、鑑定してみて。朝は疲労・大だったよな?」

「そうだな…あれ?疲労・中になってる。回復してるな」

「マジで?」

「多分、アキ兄さんのご飯を食べたからじゃないですか?僅かなバフ効果が効いたんですよ」

「『HP自動回復・微増』もあったしな」

「すげえ…アキ、すげえ…美味しいだけじゃなくてバフ…?」



タークくんが超感動してる。わかる。

恐らく、鑑定で表示されてるバフ以外にも微々たる効果はあるんだろう。

体力強化とか状態異常回復とか耐性とか、そういうちょっとしたプラス効果。

何より美味しいご飯って力になるしな。こう考えるとマジで凄いな料理スキル。



「ってことは、夕飯も食べるし、一晩休めば…明日には完全にじゃなくても動くのに支障ないくらいには回復してるんじゃないかしら?」

「どの道スキル取得するにしても、突然魔物と戦えなんて言うつもりないし、ドラゴンさん明日呼んでも大丈夫じゃね?」

「一日でも早くスキルとか覚えた方がいいですもんね」

「賛成。今日はゆっくり休むよ。元からそのつもりだったけど。…アイは?」

「私はもう何ともないと思う。明日には完全回復してるわ」

「男子二人は明日も無理しないようにな。レベル上げは明後日からにするとして、明日からドラゴン呼んでスキル習得に入ろうか?」

「せやな。明日攻撃系スキルとか覚えられたら、明後日から戦えるかもしれんし」

「まあ最初は私たちがやってたようにトドメだけさす形でいいと思います。というか、レベル1から2ってHP半減するようなものなので疲れるでしょうし」

「あー、確かに無理させちゃ駄目か。HPなら回復魔法で回復させちゃってもいいけど…」

『実際やってみた時に判断するのだ。回復魔法かけない方がよさそうならゆっくり休んで、かけても問題なさそうならかけて続行するのだ』

「おっと、スー案外スパルタだな?」



そうして予定を立ててみたところ、明日ドラゴンを呼んで、三人のスキル習得をするという形でまとまった。

攻撃系スキルが習得できるかはわからないけど、ナズやハルも習得出来てる以上、三人も習得できる可能性が高い。

でも武器があるかどうかだよな…代替品でもいいかな…?



「今度こそ、何も出来ずにやられるなんて失態犯さないからな…っ!」

「き、気にしてたのか?ターク…俺も似たようなもんだから気にするなよ」

「知ってんだぞ、お前アイが逃げる時間稼いだだろ!俺なんかそれさえできずに気絶したんだよ情けねー!」

「あんた完全に生産系だものね…でもだからこそ、今から活躍すると思うわよ?薬草も召喚できるようになったんでしょ?」

「でも俺だって姉と友達守りたいっつーの!」



…ひとまず、やる気は充分らしい。

案外、びっくりなスキル習得するかもしれないな。




忘備録(多分すぐ忘れる)

アキ:アイちゃん、タークくん、ルートくん

リオ:アイさん、タークくん、ルートくん

ナズ:アイさん、タークくん、ルートくん

ハル:アイさん、タークさん、ルートさん


アイ :アキさん、リオさん、ナズさん、ハルさん、ターク、ルートくん

ターク:アキ、リオ、ナズ、ハル、アイ、ルート

ルート:アキくん、リオくん、ナズちゃん、ハルちゃん、アイ、ターク


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