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59.宿屋「スパイダーの糸」


宿屋「スパイダーの糸」から聞き取った情報によると。

ここは割と高級宿と言っていい宿で、一階に食堂がある。この食堂は宿泊客以外も利用可能。

泊まる金はなくとも、ここの食堂は美味しいと評判なので食べにくるだけの客もそこそこいるそうだ。

なので高級宿の割に、出入りしやすい宿になっている。


昨日の夕方、10人の客が宿泊目的で来た。うち二人は寝ていて背負われていた。

部屋の空き状況を見て、グレード高めの四人部屋を二つ、安い二人部屋を一つ借りた。

二人部屋の方は食事なしの宿泊のみの部屋で、四人部屋は食事つきというか食堂を利用する際は無料になる部屋らしい。宿泊代に含まれているためだ。

この場合、二人部屋の利用者は食事は外で取るか、食堂利用の際は別途料金を払う必要がある。

食事を与える気がないってことだな。つまり昏睡させたままにするってことか。状態異常、弱められるはずなのにな。クソかよ。



「…追手、12人じゃなかったっけ?8人しかいなくない?」

「厳密には13人、一人は指揮者で捕縛には参加してなかったらしい。で、5人はもっといい宿に泊まってる」

「あー、なるほど。階級とかあるんだろうな。で、スパイダーの糸に8人の追手と鈴城くんと砂場くん、計10人か宿泊か」

「そう」



四人部屋は四階で、二人部屋は二階にある。しかも日当たりが悪いため一番安い角部屋だそうだ。

どこまでも適当な扱いしやがるな、と思いつつ、こっちとしてはありがたい状況なので怒りを抑える。

そんな風に部屋を別にしていることと、昏睡状態のままにしていること。

おかげで見張りもザルだそうだ。昨日と今日で三回くらいしか部屋に来てないらしい。

つまりそれ以外は放置だと。救出を狙ってるこちらとしてはありがたい。そう思わないとキレそうだ。


ちなみに、僕らの予想通り、大半は森に行くと言って今は不在にしている。鈴城さんを探しに行ったんだろう。見つかんねえよ、ハッ。

残っているのは、指揮者と思しき一人。昨日も不参加だったようだし、これは不思議じゃない。しかもスパイダーの糸じゃない宿屋にいる。

そして、宿屋に残っているのは二人だ。こいつらは一応見張り目的なのだろう。

四人部屋の方に籠ってカードで遊んでるらしいけどな。

しかも昼食は何にするかなんて話してるらしい。逃げられるわけがないと思ってるためか、サボってるも同然だ。いや、実際逃げられないんだろうけどさ。



「…つまり?」

「今、二階の二人部屋に乗り込めば邪魔が入らず救出できそう、ということです」

「さすがラージフール、馬鹿しかいない」

「宿に入るのは食堂利用を装えば問題ない。注意点は、高級宿ってだけあって、部屋は専用の鍵以外で開けようとすると警報が鳴ることか」

「え、それまずくない?」

『監視系はないです?』

「ないらしい。広いから迷子もそこそこ出るから、廊下をうろつくのは怪しまれない。入っちゃいけない場所は注意書きがある」



ここは高級宿でもあるので、基本文字を読める人しか宿泊しないのだろう。

というか、文字を読めないような人は宿代より別のことに金を使うから、勉強できる余裕のある人しか利用しない。

そのため、注意書きを読めずに立ち入り禁止の場所へ入り込むということはほぼないらしい。たまに子供がはしゃいで入るくらいだそうだ。



『宿側が入っちゃいけないって言ってる場所以外をうろつくのは寛容ってことです?』

「そうそう。部屋に入れなきゃ泥棒も何もできないってことで、監視系のものは置いてないって。その代わり全室扉と窓の鍵が魔導具だと」

『そ、それだと入れないのだ。空間魔法を使うのだ?』

「馬鹿だなあ、スー。外から入れなくても中から招く形なら警報鳴らないから大丈夫なんだよ」

『え?』

「…宿さんに開けてもらうのか」

「ふ、扉全部が魔導具なら駄目だったけど、鍵だけが魔導具なら、扉もドアノブも木枠もこっちの味方だからな」

『めっちゃ力づくなのだ』



お黙り、スー。

使えるもんは使ってこそだろ!



「明らかに犯罪なら宿も嫌がっただろうけど、事情話したら連れてってあげて欲しいって意見だったからさ」

「ああ、ラージフールの連中の扱いとか見てただろうしな…同情的になるかあ」

「うん、部屋の中でもかなり横柄な態度だし、何か宿の人にも高圧的な態度だったらしくて、宿もあいつら嫌いらしい。自分の中で犯罪まがいのこと企まれるのも嫌だって」

「なるほどー…それで宿さんが味方についたのか」

『やってること、子供の誘拐も同然ですからね』

「そういうこと。てことで、昼時も近いし入ろう。食堂利用ってことでメニュー見つつ、宿のスペースに移動する感じ」

「宿のスペースまで行ったら宿泊客ですけど何か?みたいな態度でいればいいんだな?」

「そうそう」

「オッケー、行こう」

『だ、大丈夫なのだ?』

『案外、堂々としてたら怪しまれないらしいです』



そう、こういう時はしれっとしてた方がいい。

間違った意見も自信たっぷりに言われると信じてしまいそうになるものだし。

…また職業が詐欺師になったらどうしよう。何か前にも思ったなこれ。あれ?もしかせんでも詐欺師に向いてる?やだなあ…


作戦とも言えない作戦の元、宿に突撃した。

食堂のメニューを見てアキ兄さんがあれもこれも美味しそうとテンション上げてたけど。

まあその様子を見た人からは食堂利用の客に見えてただろうから結果的によかったんだと思う。

うん、怪しさは感じなかっただろう。アキ兄さん、本気で食べたそうにしてたからな。メニュー端から端まで見てたし。

字の読めない人用に、絵で描かれたものもあってその絵も美味しそうに描かれてるものだから見てるだけでも楽しかったしお腹空いた。

それが壁にざーっと張り巡らされていたのである。ついうっかり全部見ちゃったよ。二人であれもいいこれもいいって言い合ったりで。


おかげで宿スペースに近づいた時にやっと本来の目的を思い出したくらいだ。ごめん、今ガチで忘れてたわ。

アキ兄さんに宿の階段付近まで来た時に二階行こうと言ったら「ご飯は?」とか言われたけど。目的それじゃないでしょうよ。

あとラム、お前も残念そうな声出してたの聞いたからな。念話だけど。



「…やべーわ、一瞬忘れてた」

「ここからは宿泊客のフリだな」



小声で話して、階段を上って二階へ。一番端っこの部屋だ。

ここは日当たりも悪いというか、路地に面してるので薄暗く感じるらしい。逃げ出すのにおあつらえ向きじゃん。大歓迎だわ。

宿の廊下や床から、誰もいないからまっすぐ部屋に向かっていいと言われたので、そのまま向かう。誰にも会わないに越したことはない。

角部屋。廊下は一応ランプがあるので暗くはないが、窓の外を見ると確かにちょっと薄暗い。まだ昼なのに。

この部屋には路地側にも窓があるそうだ。端っこだからな。脱出するとしたら、そこからがいいか。



「…ここか」

「うん、変わらずいるって。…開けてくれるか?」

(…待ってたよ。すぐ開けるね)



音もなく扉が開く。中からは何も音がしなかった。

人間が二人いるはずなのに、息遣いすらほぼしない。それだけ症状が酷いのだろう。

アキ兄さんと一緒に部屋に入るとすぐに扉が閉じ、鍵もかかった状態になる。これで元通りだ。

ベッドが二つ。それぞれに鈴城くんと砂場くんが寝かせられていた。



名前:鈴城 巧

年齢:14

性別:男

LV:1(あと90)

状態:昏睡 衰弱・弱 隷属 呪印

HP:4/24

MP:4/20


スキル:錬金調合LV2(あと101)



名前:砂場 透

年齢:14

性別:男

LV:1(あと90)

状態:昏睡 衰弱・弱 隷属 呪印

HP:4/27

MP:4/18


スキル:遮断LV2(あと51)



「衰弱が弱、あとは隷属と呪印。鈴城さんと同じ状態異常だな。ああ、守護がないか。そんな二人ともHPとMP残り4だ」

「やばいな。てか一応弱められてはいるのか。いやでも充分クソだな」

『すぐに解除するです?多分解除されたら見張り連中にバレると思うです』

『特に呪印なのだ。これ、範囲が決まってるけど、その範囲内なら常に反応を感知できるはずなのだ』

「え、マジか」



鈴城さんの場合は、守護の効果でそもそも呪印の目印効果が打ち消されていた。

だから解除しても気づかれなかった。元々感知出来ていない状態だったからだ。

でも今は違う。リアルタイムでここにいると感知されている、はず。

浄化魔術で消した瞬間、この部屋に向かってくる可能性がある。見張りは四階の部屋にいるままで、別の宿にいる奴も宿に滞在中。

向かってきたとして、辿り着くまでに数分はかかるだろう。ここは端だし、見張りの部屋も階段から遠い。



「まず、荷物を確保しよう。鈴城くんと砂場くんが持ってた荷物…これか」

「鈴城さんもだけど、二人の荷物も少ないな…」

「まあ今は有利と思って………ん?」

「どうしたリオくん?」

「…さいってー…」

『ど、どうしたのだ主?』

「今、宿に聞いたんだけど、ラージフールのやつら、金だけ盗んでったらしい。他の荷物は全部置いてってるけど」

「うっっっわ」



それ以外に手を付けてないのは不幸中の幸いか。

さて、金は諦めるとしてこの鞄も持ってくか。これもボロいなあ。



『ご主人様、リオくん、ラムにひとつ考えがあるです』

「どうしたラム?」

「なになに?聞かせて。今ちょっと怒りで冷静になれない。別のこと考えたい」

「落ち着いてリオくん」

『ぷ…リオくんが危険です。えっと、この二人の状態異常のマナ何となく覚えたので、劣化複製できそうです』

「は?」

「え?」

『まーたぶっ飛んだことしてるのだこの魔法特化…』



ラムが鈴城くんの近くに行って何かじーっと見てると思ったら、訳わからん事言われた。

この時の僕の気持ちを答えよ。答え「日本語でおk」。そういや今話してるのって日本語なのか?あ、今どうでもよかったそんなこと。


呪印がある以上、ここで解除しないと、救出しても居場所がバレる。でも解除したら異常を察知してラージフールが来る。

でも解除してすぐ二人を担いで逃げられるかと言えば…意識を取り戻したら説得のターンに入る。出来れば二人に納得した状態で着いてきてもらいたい。

けど数分で説得できるかと言われれば無理だろう。鈴城さんがいれば大丈夫だったかもしれないけど、その手段はとれなかったから考えても仕方ない。

そこでラムは、状態異常のコピーを考えたらしい。毒もそうだけど、この世界の状態異常はマナによって引き起こされている。

マナで、それらしい効果のあるものを引き起こす。なので、マナをいじれば疑似的な状態異常を付与することも出来ると。マジで?すごいな?

さすがに付与対象が受け入れてないと無理らしいけど、そんな制限あっても凄い技術だろ。



『そんなの、マナに詳しすぎるやつしか真似出来ないのだ。ラムが異常なのだ』

『異常なんて失礼です。ラムはエレメンタルスライムなので、マナ関連のことには大きな補正がかかるです』

「とりあえず、ラムが超すごいってことはわかった」

「むしろそれしかわからん。えーと、呪印の目印を誤魔化すとかそんな感じ?」

『言ってしまえばそんな感じです』

「ごめん俺まだわからん。具体的にどうするか聞いていい?」

『はいです』



まずラムが分裂します。ラムスリーとラムフォーが生まれましたね。

お、二匹が鈴城くんと砂場くんの胸に乗ってプルプルしてます。

ラムが、ラムスリーとラムフォーに、鈴城くんと砂場くんにかかってる状態異常に酷似したマナを付与するとします。…は?

そうすることで、呪印の座標をラムスリーとラムフォーから発してると錯覚させると…ええ…?



『てことで、召喚者二人の状態異常を解除してもバレないのではと思ったです。やっていいなら分裂体に付与するです』

「えええ…?うまくいくか?いったら確かにいい手かもしれないけど」

「それ、ラムスリーとラムフォーが苦しむってことか?それはちょっと…」

『あ、それらしいマナに近づけるだけで実際はHP減少とかしないですし苦しくもないです』

「…そうなのか?じゃあ、いいかな…?」

「現状、それが一番いい手かも。僕は賛成かな」

「うん、じゃあ俺も賛成」

『わたしも賛成なのだ』

『じゃあ、スー、浄化魔術の準備するです。浄化終わったと同時に付与するですから』

『わかったのだ』



魔力隠で覆って、スーが鈴城くんに浄化魔術を放った。と同時に、ラムも付与魔法でラムスリーに何かを付与していた。

これがマナを状態異常に似せた何かなのだろう。



『うまくいったですかね?リオくん、鑑定して欲しいです』

「よしきた」



名前:鈴城 巧

年齢:14

性別:男

LV:1(あと90)

状態:睡眠 疲労・大

HP:3/24

MP:3/20


スキル:錬金調合LV2(あと101)



「鈴城くん、睡眠と疲労・大になってる。成功だ。で、ラムスリーだけど…衰弱・偽、隷属・偽、呪印・偽だって」

「偽物スキルだからってことか」

『まあ似せただけの別物ですし』

『でも成功なのだ。こっちの子もやるのだ』

『ですね。やるです』



そして同じことを砂場くんにもやっていた。ラムフォーも同じく。

これで時間が稼げる、はずだ。



『で、この二人を連れだして、分裂体の二匹はここに置いていくです』

「え?」

『まあ目印代わりならそうなるのだ』

「置いてったラムスリーとラムフォーはどうなるんだ?」

『ラムたちが町を出たあたりで消そうと思うです。分裂体は消えるとマナに還元されるです』

「あ、そっか、置いてくけど、ちゃんとラムの支配下にあるから、ラムの意思か命令で自由に消せるんだ」

『です。でもそうすると付与したものも消えるので、バレると思うです』

「町から脱出した後なら大丈夫だろ。何ならカーくんのとこへ転移する直前に消しちゃってもいい。ラムの負担にならないなら」

『距離が近い方がやりやすいですかね』

「じゃ、町から出た直後にしようか」



負担が少ない方がいいに決まってるし、町から出たならもう森に行くだけだ。誤差だろ。

さて、じゃあ鞄からマントを出して、空いたスペースに鈴城くん達の鞄を入れるか。



『あ、分裂体に『形状変化LV10』を譲渡してるので、召喚者二人の姿に似せられるです。喋ったりは出来ないけど、寝てるだけなら誤魔化せるです』

「おっと?…ってことは万が一見張りが覗きに来ても見た目じゃわからんってことだな?となると…」

「うわあ、リオくん悪い顔ー」

「お黙り。…よし、鞄は置いておこう。中身だけ持っていこう。少しは誤魔化せるかも」

「鞄…ガワだけ置いてくってこと?」

「そう、ちょっと膨らませる感じで置いとけば中身がなくなっててもパっと見わからない。荷物も…携帯食とか制服とかだけだし」



鈴城くんたちがいなくなっても鞄が残ってたら、取り戻しにくるかもと錯覚するかもしれない。

または鞄を持ち出す余裕もなく逃げたと勘違いするか。そうでなくても鞄を確認するっていう作業が挟まれば数秒は稼げる。

たった数秒でも稼げるなら、逃げるこっちとしては有利になる。ただでさえ逃げるはずのない相手が逃げたという事実に混乱してるのだ。

余分な情報与えれば、それだけ余裕をなくすだろうし、色んなことに頭使って混乱するかもしれない。

まあ逃げたという事実だけしか見ずにすぐ追う可能性もあるけど、保険はあるに越したことはないだろ。

僕らの鞄、これを見越してたのかは不明だけどマントの他に小さいナップザックも入ってる。懐かしい。城で盗み働いてこれに詰めたな。多分ナズの仕業だろう。

これに鈴城くんたちの荷物の中身だけ移して、ナップザックを鞄にしまう。僕の鞄に鈴城くん、アキ兄さんの鞄に砂場くんの荷物を入れた。



「よし、これでいい。後は、二人を起こして説得だ」

「気絶した今のまま連れてっちゃえば?」

「逃げてる途中に起きたら面倒だから、ここできちんと説明した方がいいと思う」

「あ、それもそっか」

「うん、連中は…まだ四階の部屋にいるっぽいし、指揮者は宿から出てない。大丈夫のはず」

「よっしゃ、説得のターンに入るか」



僕が鈴城くん、アキ兄さんが砂場くんのベッドに近づき、そのまま肩を揺さぶって覚醒を促す。

苦しそうな呻きの直後、薄っすら目を開き…叫ぼうとしたので、口を塞いだ。思いっきり手で覆って。

同じことになってたのか、アキ兄さんも砂場くんの口を手で塞いでた。

何だこいつら反応同じかよ。双子か?双子なのは鈴城さんと鈴城くんだろうよ。



「静かに。助けに来たから逃げるぞ。起き上がれる?」

「…、っ、…!?」

「何だ、双子なのに鈴城さんより聞き分け悪いな。鈴城さんはすぐわかってくれたぞ」

「………ッ!?」



鈴城さんは混乱してるとこを畳みかけた感じだけど、適当に言っておく。

まあこっちより落ち着いてたのは事実だけど。

鈴城さんの名前と双子というワードを出したことで、知り合いである可能性に思い至ったらしい。



「砂場くん、鈴城くん、落ち着いて、声出さないで、話を聞いて欲しい」

「あまり時間はないから簡潔に言うぞ」



アキ兄さんと二人で説得にかかることにした。二人とも混乱は落ち着いていないが、話を聞く気にはなったらしい。

胸の上にいるスライムに一瞬ビビってたけど、僕らが抱きかかえたことで危険じゃないとは察知したようだ。

背中を支えて、起き上がるのを手助けする。



「ベッドから下りて。支えるから」

「え、あ…」



ずり落ちるようにしてベッドから這い出た。予想通り、まともに歩けないなこれ。

鈴城さんがそうだったので想定内だ。そのために僕とアキ兄さんっていう、あの中で上背のある二人で来たんだから。

そして二人がベッドから出たと同時にラムスリーとラムフォーがベッドに乗る。そしてそのまま『形状変化』で鈴城くんと砂場くんの姿になった。



「………っ!?」

「…え、あ…!?」

「落ち着いて、身替わりだよ。逃げる君らの代わりにここに残る」

「で、俺らが町から出たあたりでこの子たちも撤収する」



ざっくりと状態異常の話をする。そのせいで見つかってしまったであろうことも。ラム分裂体が、その代わりに目印となっていることも。

形状変化というスキルで二人の姿形を真似ていることも説明した。寝てるだけなら誤魔化せるだろう。



「ぴぴぷー」

「…この通り、言葉とかは真似できなくて、姿だけなんだけどな」

「二人は昏睡状態だったし、寝てるフリしてるなら喋らないから見られても問題ないだろ」

「あ、ああ…」

「じゃあ鈴城くんは僕が背負うから」

「俺は砂場くんを背負えばいいんだな」

「うん、砂場くんの方がデカいしアキ兄さんに任せていい?」

「いいよー。しかしリオくん昨日は鈴城さんで今日は鈴城くん背負うのか」

「鈴城さんめっちゃ軽かったな。鈴城くんも軽いか?」

「…ひと、み…!?どこ、に…」

「カーくん…僕らのとこにいるよ。今は寝てるんじゃないかな。状態異常は解除したけど、疲労はとれてないだろうから」

「お、れらも、そこに、行く、のか…?」

「そうだよ。君たち三人の救出が目的だからな。オリジンドラゴンからの依頼だ」

「ドラ、ゴン…!」



驚きの連続でまともに状況が頭に入ってなかったんだろう。

でもそれも、鈴城さんの話になったことで、状況を把握しようと意識が切り替わったらしい。二人とも。

ここでやっとオリジンドラゴンの話ができた。ラムとスーがオリジンであるということも。神託によって三人の危機を僕らが知ったことも。

やっと腑に落ちたという顔をしていた。



「先に説明しておいた方がいいことが多くて後回しになったけど、僕、二組の村雨涼だよ。変装してるだけ」

「俺は狭山茜なー」

「…村雨…狭山…!?」

「え、あ、おと、こ…?」

「いや男装。ほら、僕らって女四人で逃げたからさ。子供の女四人って舐められるしトラブル起こしそうだから僕らが男装したんだよ」

「身長的に俺らが男装するのがいいなってことで。ほら、シズっちとちーちゃんって、身長が…」

「「ああー…」」

「それでまあ、しばらく男装してたもんだから板に着いてきた感じ?あ、頭のはこれカツラな」

「この世界、黒髪って超珍しいから隠してるんだ。だから、二人もこのマント被って頭隠して」

「…マジ、か…」



この辺りで納得して、逃亡にも協力的になってくれた。渡されたマントも素直に被ってくれたし。

女である僕らに背負われるのは躊躇してたけど、横抱きがお望みかと言ったら素直に背負われてくれた。



「重く、ない、か…?」

「いや?そりゃ鈴城さんよりは重いけど…どっちかというとでかいからバランスの方が問題かな?しっかり捕まってて」

「俺らレベル10だからそこそこステあるしな」

「レベル、10…!?」

「まあそういうわけだからいらん遠慮はすんなよー。大人しく掴まっててくれるのが一番ありがたいから」

「わあアキ兄さん男前ー」

『脱出するです?』

『主のマントの下に入るのだー』

「よっしゃ来い来い。じゃあアキ兄さんたちから出てくれるか?」

「うっし」



窓の方に近づくと、自動ドアのように窓が開いてくれた。男二人は超ビビってたけど無視だ。

声を出すのは堪えてくれたので、問題はない。

アキ兄さんは窓枠に足をかけたところで一度振り返り、ベッドにいるラムスリーとラムフォーに手を振っていた。よろしくと後で、の挨拶だろう。

ベッドの中からラム分裂体も手を振っていた。



『ラムが下でクッションになるです。ラムの上に落ちてきて欲しいです』

「え、それ大丈夫か…?」

『ラムは『打撃無効』があるので、踏まれたくらいじゃ何ともないです』

「そういやそうだったわ。よし、じゃあよろしく、ラム」

『はいです。リオくんもラムに降りてくるです』

「わかった。ありがとう」



確かにここは二階だから降りたら音もするだろうし衝撃もあるか。僕たちは問題なくても、背負った二人にも衝撃は伝わる。

ラムの機転に感謝だな。先に下に落ちていったラムが地面を覆うくらい大きくなった。でかっ。

まあ、形状変化で小型化するくらいだから大型化も出来るのか。違う種族に変わるより簡単な変化だろうし。

アキ兄さんはすぐさまラム目掛けて降りた。衝撃は全部吸収されたのか、アキ兄さんにも砂場くんにも負担はなさそうだ。



「よし、僕らも降りるぞ。鈴城くん、舌噛まないよう口閉じて。スーは大丈夫だと思うけど」

『問題ないのだ!いつでもいいのだ』

「お、れも…」

「よし」



すぐ窓から飛び降りる。直後、窓は閉まった。これで侵入前と変わらない状態に見えるだろう。

実際は寝てる二人はラムの分裂体だし、鞄も荷物を抜き取られて空っぽだ。でも、ぱっと見わからないだろう。

やはり鈴城くんは多少は怖かったのか、腕に力が入っている。が、降りたら安心したのか脱力していた。

おお、マジで衝撃がない。全部分散させたのか。すごいなラム。



「ラム、無事?」

『大丈夫です』

「ありがとうな、ラム。助かったよ」

「よし、このまま路地を通って外壁まで行こう。ラム、マントの下に」

『はいです』



人目につかないよう路地を通って走る。負担にならないよう小走りだけど、疲労状態の二人にはつらいだろう。

ラムの闇魔術で気配を薄くしてくれてるようだ。そしてスーも千里眼を使ってるのか、人がいない通路に誘導してくれる。ラムやスーに頼りっぱなしだな。

そうして走ること20分ほど、ようやく壁まで来た。時間的に昼前か?過ぎてるかもなあ…いや、早い方か。

カーくんを出たのが9時半過ぎくらいだから、二時間は経ってるだろうけど、うん、早い方か。



『…一度、部屋に見張りが入ってきたです。でも気づかず出てったです』

「あぶねー、ラムの活躍がなきゃ既にバレてたよ」

「まあじっくり見ないだろ。ベッドにいるっての確認したくらいだろうし」

『です。数秒見て、めし行くかーって言って出てったです』

「馬鹿で助かった」

「…バレ、て、ない…」

「よか、った…」

「自分たちだけ飯食うの腹立つけど、ある意味チャンスか。一度見たってことはしばらく部屋に来ないよな?」

『です。なので分裂体、消していいです?』

「しっかり役目は果たしてるしいいんじゃないか?リオくんはどう思う?」

「僕もいいと思う。で、すぐ町を出よう。スー、準備はいい?」

『いつでもいいのだ!主、アキちゃんの近くにいて欲しいのだ。範囲狭い方がやりやすいのだ』

「オッケー」



ラムとスーの協力技ですぐ町の外に出た。

空間魔法で出ることは説明したけど、男二人は盛大にびっくりしていた。

ああでも鈴城さんみたいにマナ酔いみたいなのになってないのはよかったか。ここで吐かれたら溜まったもんじゃないからな。

そして外に出たことで、ラムも分裂体を消してマナに還元したらしい。

これで、あちら側に逃亡がバレたと思われる。が、すぐには追ってこないだろう。

あとは森に入ってるであろう捜索の連中に会わずに旧ラテの巣に行くだけだ。ラムツーの回収もあるし。



『それらしい連中は近くにいないのだ。他の場所を探してるみたいなのだ』

「よし好都合、このまま森に入ろう」



このまま問題なく逃げ切れると思っていた。

けどそれは少し、奴らを侮っていたのかもしれない。

実際、馬鹿としか言えないことをしていたために、あいつらを低く見積もりすぎていた。

状態異常の付与など、僕らの想像もつかないことをやっていたこと、それを忘れていたとは思わない。

が、こんなものを仕掛けているなんて、思いもしなかったのだ。


鈴城くんが171cm、砂場くんが173cm(今決めた)


ラム分裂体

『分裂』のスキルレベルが10を超えたので、二体作れるようになっている

一体目:ラムツー(ラテの巣待機)

二体目:ラムスリー、ラムフォー(倍化の効果)

なのでラムツーとラムスリー達に譲渡されてるスキル内容は違う

ラムスリーとラムフォーは同じスキル。形状変化と、万が一のために光魔術を譲渡されていた。見張りが何かしてたら気絶させる気マンマンだった


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