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06.王城脱出


十日目。

今夜は脱出予定…とはいえ、日付変わってからの脱出なので厳密には明日なのかもしれない。

ええ、夜中にね、巡回がありますものでね…部屋チラっと見てすぐ去るけど、ここで部屋にいないと絶対騒ぎになるからね。

これをやり過ごしてから脱出する予定です。

ともかく、今日一日無難に過ごさなきゃいけない。

そういう日に限って何か起きたりするんだよなと思いつつ。


幸い、今日は何も起きなかった。もっとも、明日あたり何かが起きてた可能性はある。

何しろ連日資料室に籠ってる私達に何か仕掛けようとしてたみたいですからね。

気に入らなかったのか、そんなことをしても無駄だとマウントをとりたかったのか、それはわからないけど。

城の連中が企んだならともかく、これ、同郷の奴らが企んでるんだから救えない。

どうやら「役立たず」の私達に立場をわからせるのが目的だそうですよ。余計なお世話ですね。クソが。

それにしても危ねえな。タッチの差じゃねえか。今日決行に決めててよかったわ。


あとは最終調整として、他にも勧誘はしてみたけど、残ると返事された。

今日逃げるから、最終確認として聞きに行ったけど、答えはノーだった。


これは仕方ないね。とりあえず、逃亡計画は黙っててくれるとのこと。

元より大した情報を渡してないのでもし明日以降行方を知らないかと尋問されたとしても答えられる情報はない。

どこに逃げるかも、私達…厳密には、三人のスキルの「本当の効果」も話してない。一緒に逃げるとは伝えたけど。

こっちから伝えたことと言えば、彼ら彼女らのスキルの「本当の効果」だ。資料室のスキル大全に載ってたことも伝えた。


めちゃくちゃ感謝されたけど、どうやら城の人にも攻撃系スキルの友人にも伝えてないらしい。

自分だけの秘密として、公開するつもりはないらしい。私達とは別の何かを考えてるのかも。

それか、私達とは別ルートで逃亡を考えてるのかもしれない。私達は所謂試金石。私達が逃げ切れるのか、本当に逃亡可能なのか、城はどういう対応をするのか。

もしかしたら、それを見極めてから行動するのかも。利用されてるとも思うけど、好きにすればいい。欲しい情報があるなら奪ってみればいい。

こっちとしては敵対してないし、私達が逃げ切れたと知ったなら、彼らも逃げ出すかもしれないからだ。

こんな場所に、同郷の人が居残るより、自分達でどうにかして逃亡してくれる方が遥かにいい。


持ってるスキルが違えば、出来ることも違う。彼ら彼女らの中には、逃亡する算段が立ってるのかもしれない。

うまく行くかはわからないけど成功すればいいと思う。

逃げ出す勇気がなくて行動できないってオチかもしれないけどね。まあそれはそれで。

行動に移せない子が一緒じゃこっちも動きが鈍るかもしれないし。こっちも博打だからね。少しでも不安要素は排除したい。

成功する可能性が高いとはいえ、失敗する可能性もある。



『逃げれるといいね』

『うん。あ、そうだ、ハイテンションバーサーカーズが私達に何かしようとしてるらしい。いなくなったら、そっちに行く可能性があるかも』

『マジで?本当にどうしようもないわね、あいつら。教えてくれてありがと。こっちは何とかする。心配しないで脱出のことだけ考えて』

『うん、ありがとう。無事を祈ってる』

『私の台詞よ。成功を祈ってるわ。…本当に』



それだけ伝えて、背を向けた。彼女とはここでもうお別れだ。

決行の人数は、四人。追加はなし。三人とも、やっぱりかという反応だった。



『様子見もひとつの手だもんね。無理強いは出来ないし』

『私達が成功したら後に続くかもしれない。敵対してるわけじゃないんだ。予定通り行こう』

『せやなー』

『訛り聞くと気ィ抜けるなーシズっちらしいっちゃらしいけど』

『お、ずっと訛っとった方がええ?』

『シズっちの自由でいいよー』

『はーい。じゃあ今夜、巡回が終わったら例の場所に集合。涼、ほんとに迎えに行かなくて大丈夫?』

『うん、ちーちゃんの隠密、あった方がよくない?』

『私は一人だから何とでもなるよ。それにあの物置の周り人少ないし』

『あ、それもそうか。じゃあリオくん、気を付けて』

『うん、ありがと。ところで、ちゃんと荷物の用意できてる?』

『オッケー完璧』

『食料も着替えもいらんから荷物めっちゃ少ないよね…』

『涼に任せた分も問題ない?結構かさばりそうだけど』

『問題ないない。それより金のが重いと思うけど』

『シズっちの鞄、重さ軽減されるから大丈夫』

『そうだった』

『見た目しょぼい白ナップザックなのに…』

『かっこいい見た目のは、もうちょいレベル上がるまで待って…多分そのうちリュックとか出ると思うから…』

『気にしなくていい気にしなくていい。実用性が大事』



波川さんは、あれから何種類かレパートリーが増えてる。

とはいえ、表示されてるものはまだまだあるので、全部選べるのはいつになるやら、という感じだ。

とりあえずハンカチとタオル、Tシャツ、ズボン、靴下、ナップザックが選べるようになっている。

1日2個選べたーと喜んでいたのでこれから選べるものはどんどん増えるだろう。


ちなみに全種類、レベリングのために何枚か出してストックしてあるらしい。

ナップザックは4つ出して、それぞれに1つずつ渡されている。

こんなの堂々と持ってたらいらん因縁つけられそうなので(どこから盗んだ、とか)服の下に仕込んでたり、三人は波川さんに預けっぱなしにしている。

今日一日で必要なのを詰め込んで、部屋の隅っこに隠す。どうせ今夜脱出だ。見つからないだろう。


ちなみに私の担当備品はテントや筆記用具、コンパス、空の器などだ。

狭山さんは料理スキルで食材を出せるけど、それを盛る器や加工する器具などは出せない。

りんごなどの果物ならそのままかぶりつけばいいけど、小麦粉や野菜はそうもいかない。どうしても何かしら道具は必要になる。

かさばるから1つか2つでいいとは言われたけど、私のスキルを使えばどうにかなるものもあるので、そういうのはスルーでいい。


と考えたところで思い出した。…私、自分のスキルのこと、まだ伝えてなかった。やばい。

そのうち言う機会あるだろと思ってたらなくって今まで放置しちゃってたよ!やべ!必要なものの詰め込みを四人で分担した時に言えばよかった!

あの時は、私のスキルで何とかなりそうなのを私の担当にして、用意したのに意味なかった!っていう展開を潰すことに意識が行って、わ、忘れ…


私の馬鹿野郎。ああ、空腹のせいで本当に思考が残念になってるのかもしれない。機会はあったのにスルーしてた可能性大である。

果物もらえてるからマシだけど、何も食べてないはずの私が元気だったら城の連中が「つまみ食いしてるだろ!」って因縁つけてきそうなので、ギリギリの量しか食べてないんだよな。

逃げたら…おなかいっぱい食べたいです。やつれてるように見えてればいいけど。

あ、でも元からガリだから何もしなくてもやつれて見えるよ!って言われたから大丈夫か。

絶対褒められてないけどな、これ。


待ちに待った夜。

消灯時間も過ぎて寝静まった時間。いつも通り巡回の騎士が扉を開けて、ガンっという音。

慌てたような雰囲気とともに、今起きましたよとばかりに「う~ん…?」と声を出せば、複数の足音が去って行った。

暴行でもしようとしたかな?騎士ぶん殴られ未遂事件があったので、警戒してドアの前に物置に放置されてたアレコレを積み立てておいたのである。

ギリギリ中の様子見れるくらいの隙間が空くように、人が入れるほどじゃない隙間が出来るように配置した。ホラ一応私がいるかどうかの確認は必要だろうしね?

寝ぼけ声(嘘)もあったし、在室の確認は取れたでしょ。


去って行った足音から察するに、奴らは騎士だな。ちょっとガシャガシャって音がしたから鎧だろう。

同郷のアホ共でなくて良かったと思うべきか。奴らは明日…もう今日か。今日仕掛けるつもりなのかもしれない。頑張れ、私いないけど。

多分気まずく思って今夜は来ないだろう。周りに誰かいる気配もないようだし、行くか。

ドアの前に配置したアレコレを寄せて、出られるようにする。

10日ほどしか使わなかったけど、この部屋には色々助けられたのだ。



『…今までありがとう。行くね』

(うん、じゃあね)

(楽しかったよ)

(明日の朝まで、絶対ドア開けないようにするから)



小さく小さく呟いた声に返答があった。

さようなら、こんな誰もが嫌がるような部屋で、嫌な気分にならなかったのは『彼ら』のおかげだ。

隙間風が吹き込まないように壁が風を入れず、今にも崩れそうな積まれた荷は微動だにせず。歩くたび大きく鳴るはずの音も聞こえず。

色々、助けてくれた。私は『彼ら』を見捨てていくようなものだけど、『彼ら』にとってはごく当たり前のこと。

既に用無しと打ち捨てられ、朽ちていくのを待つはずだったのに、私という『彼ら』を必要とする者が現れた。

もう一度役に立てるかもしれない、自分達が力になれるかもしれないと、張り切ってくれた。

無理をしたようなものなので、もしかしたら明日にでも『彼ら』は形を保てなくなるかもしれない。けれど『彼ら』はそれでいいと言った。

自分達は使われるために存在するのだと。使われないまま長く在るより、使われて朽ちたいと、そう言った。


無機物干渉スキル。


無機物に干渉するという、そのままのスキル。

道具の、持っている力を引き出す。魔力を送り込めば、本来の用途以上のことが出来ることもある。

長く存在していたものは意思というほどでもない何かが宿っていることもある。そしてそれの声を聞くことも出来る。これも干渉の一種なのだろう。

きっと、もっと長く存在して力をつけたりすれば付喪神なんてものになるのかもしれない。

でも、この物置にあるものはそんな力はない。本当に、わずかなわずかな力の欠片。この世界には魔法があって、マナがある。そのためこういうことも起きるのだろう。

『城の壁』に干渉して、尋ねる。この付近に誰かいるか。この辺りにはいないと返答がある。

安心して、集合場所へ向かう。隠密スキルが無くても何とかなると言ったのはこれが理由だ。

城の壁に、聞けばいい。そちらに誰かが向かってるなんて言われれば影に潜んでやり過ごす。そうして無事に集合場所に着いた。



『こっちに向かってる三人の人間はいる?』

(いる。見えないけどいる。もう少しでそっちに着く)



さすがに『隠密』スキルでも壁や床は誤魔化せないらしい。自分の周りという範囲なら、完全に隠せず強い認識阻害レベルになると言っていた。

自分自身の隠密だったら、多分感じ取れない。踏みしめる足も、歩行によって舞う埃も、全部透過するという話だったから。

壁と床の言った通り、5分もせずに三人が現れる。すぐさま近寄ってきて、隠密の範囲に私を含めた。



『よかった、涼、合流できた…!』

『ごめんな、巡回ちょっと遅くて、茜が寝かけて…』

『ごめん、起きた、起きてるから』

『ぶふっ、…オーケー、向かおう』



三人の方には大きなトラブルもなく、部屋を出れたそうだ。

情報共有は後だ。小声とはいえ、隠密スキルが発動してるとはいえ、音は極力出すべきじゃない。

私という人間が一人増えたことで、精度も下がったはず。慎重に歩いて、目的地へ向かう。



『…え、リオくん、ここ?』

『そう』

『ここは初めて来たけど、開くの?この扉…閉まってるし多分向こう側も…』

『大丈夫』



三人が不安そうになるのも無理はない。ここは城の裏手になる非常口のひとつ。昔は業者あたりが出入りしてたのかもしれない。

でも見るからに扉は古く腐ってるようにも見える。両開きの、木製の扉。鍵は閂だ。こちら側、そして向こう側にもはめ込まれてるだろう。

だから出られる場所じゃない。そういう理由で、こんな所誰も巡回しない、確認しない。

空けられたとしても、ギィイとかデカい音がしそうだしな。いかにも古い古城の扉!って感じのザ・扉である。

当然困惑の三人。普通なら開けられないもんな。でも私なら開けられるんだ。だって、これは『扉』なんだから。



『なあ、リオくん、別の…』

『ううん、ここから出る。大丈夫、すぐ開けるから』

『え、リオくん?開け…?』

『―――開けてくれる?通りたいんだ、四人で。その後、また扉は閉じて。今と同じ状態に戻してほしい』

(わかった。いいよ)



声が聞こえるのは私だけだろう。けど、何か起きたのは察したらしい。

音もなく閂がずれて、扉が開く。閂が完全に落ちないのは、再度扉を閉じるからだ。

人が一人通れる隙間が開いた。大きく開けると、目立つのかもしれない。



『出よう、急いで』

『え、あ、え…?う、うんっ』

『げ、ゲームであったなあ、ドア開ける呪文…』

『何その限定的すぎる呪文。茜のやってるゲームって謎なの多くない?』

『いや鍵かかったドア開けて先に進めるようになるっていうやつ』

『ああ、そういう。その話後で聞かせて。気になるけど今はいいや』



四人で扉を潜り抜け、外に出る。振り返れば、さっき見た光景を逆再生するような光景だった。

扉が閉じて、閂がかけられた。今開いていたのが嘘のように、ずっとそのまま閉じていたと思わせる光景。

信じ難い光景に、三人はポカンとしていた。



『急いで、次こっち』

『…あっ、せやった、ごめん』

『でも城からは出られたけど、周りに堀が…』

『このボートを使います。四人だとギリだろうけど、川に抜けるまで我慢して』

『ぅえっ、これ沈まない?あたしシズっちみたいに泳ぎ得意じゃないけど』

『平気平気、私達そこまで大きくないし、荷物だって波川さん鞄のおかげであんま重くないから』

『でも、どうやって漕ぐの?オールもないけど…』

『大丈夫、さっきみたいに私のスキル使うから』

『………えっ?』

『スキル?…涼の?え?』

『スキル無しなんじゃ…』

『説明は後です。今は逃げるの最優先で』

『…あ、そうだったね。隠密、小舟にもいる?』

『や、いい、いらない。夜だし見えないだろうから』

『あ、そっか、わかった』

『ていうかあたしらもよく見えないけど』

『あー、私は見えるから信じて着いてきて欲しいとしか…』

『まあこの計画乗った時点で涼を信じるって決めたから、あたしはオッケー』

『それもそうか』

『うん、信じる』

『…ありがとう』



階段を下りて、船着き場というには粗末な場所に降り立つ。ここには申し訳程度の小舟がひとつ停められていた。

この小舟も使い古されたものであることが一見しただけでわかる。三人は光源が月明りのみでよく見えてないから、このボロ具合がわからなかったんだろう。

見えてたら嫌がったかもしれないので、夜でよかったかもしれない。

うん、普通に乗ったら一人でも沈みかねないからねこれ。多分、本来の用途で使うつもりでここにあるわけじゃない。

使えなくなったけど、新しいのが補充されずに放置され、あの扉も使えなくなったのでこの場所が忘れ去られたという可能性がある。

多分そんなところだろうと、城の壁やらから聞いた。そういえばあそこに小舟が~なんて雑談から脱出に使える経路を発見できたのでマジで城さんには感謝である。

そこに住んでるやつらはクソだけどな!



(ひとを乗せるの、久しぶりだ。嬉しいなあ)

『下流の流れに乗って、川と合流してる地点まで、お願いできる?』

(いいよ、任せて!)



そのままひとりでに走りだす小舟。よく考えなくてもホラーである。夜中に勝手に動く船って…いや、やらせてるの私だけども。

この子は元の場所に戻るだけの余力はあるだろうか。長年忘れ去られていたんだ。戻れなくてもいいのかもしれない。でも船だから船着き場にいたいかもしれない。

私が乗ってる間はスキルのおかげで問題なく走れるし劣化も止まる。でも離れればさすがにスキルは届かない。



(一応戻るよ。そんなに離れてないし。途中で沈むかもしれないけど、それならそこが僕の寿命だ)

『うん、無理させてごめ…いや、乗せてくれてありがとう』

(ふふ、うん、謝罪より感謝の方が嬉しいね。もう一度ひとを乗せて走れてよかった。嬉しいなあ)



目的地に着いて、四人とも降りたらまっすぐ戻って行った。あの子は戻れるだろうか。

でもどうなったとしても、船としての役割を果たしたと満足そうだったから、それでいいのかもしれない。

着いた場所は平野だ。三人には見えてないだろうけど、ここは実地訓練で森に向かった道の近くである。

ともあれ、ここは開けた場所で隠れる場所は皆無。森も遠いが、万が一魔物や盗賊にでも襲われたらそこで四人揃って死ぬしかない。

よし、ここで私が選び抜いたアレが火を噴くとき!…いやほんとに噴いたらとんでもねえ不良品だけども!



『リオくん、ここからどこに…』

『その前に、私のスキルを使います』

『えっ』

『あ、そう言えば、どんなスキル…』

『その説明も一緒にするので、ちょっと待って』



三人に背を向けて、パネルを表示させる。目の前には平野が広がってて、川は後ろにあるので足場も問題ない。

スキルの召喚はパネルに表示された品物を召喚すること、そして召喚したものを専用のアイテムボックスにしまうことが出来る。

パネルを見て、今日召喚した後にしまったものがきっちり収納されてることを確認する。

そして、これをここに出す。慣れるとパネル無しでも出せるらしいけど、私スキルレベルまだ2だからパネル使わないと出せないのです。

アイテムボックスにひとつだけ入ってるそれをタップして、目の前に出す。重量の割に静かに現れたそれ。

初期設定では、私以外に認識できないので、三人に「許可」を出す。途端に三人の目に「これ」が写る。

暗くても、多少は見えるだろう。何せ部分的に光っているのだから。



『さ、これの中で話そうか』

『…っ、は、…ッいや、叫ぶな、叫ぶな茜…!あたしは出来る子…!』

『ムグッ、ぅ、ええええ…?』

『な、なに、なにこれ、え…ワゴン、や、キャンピングカー…?』

『林さん正解。さ、乗って乗って』



驚いて叫びそうになったらしく、自分で自分の口を押さえた三人。うん、王都から出たとはいえまだまだ近い。

女の叫び声なんて聞こえたら騒ぎになるかもしれない。隠密がどれだけ効果あるかまだよくわかってないしね。

半ば諦めたのか、肩を落としながら三人とも乗車した。こっちの扉は運転席とは違うが広いし席もある。ひとまずは落ち着けるだろう。

三人を席に案内すると、大人しく座ってくれた。ずっと緊張状態だったのもあって、脱力したらしい。



『…そんで、リオくん、説明、してくれる…?』

『うん。あ、でもその前に…林さん、このキャンピングカーに『隠密』かけれる?一応ここ密閉空間になるけど』

『…!あ、確かに…!?』

『そっか、車だから…あ、やばい!ライトで光ってるやん!超目立ってない!?』

『や、これ指定した人しか見れないから、車体もライトも見えないはず』

『え、そうなん!?…ん?じゃあ隠密いらなくない?』

『精度は隠密スキルには及ばないし、その辺の獣とかが突進してきたら普通にぶつかる』

『あ、なるほど…隠密スキルって、全部通過するってやつだもんな』

『そう、だからスキル使ってほしいなって』

『オッケー!…使った!これで獣が突進してきてもコウモリが突っ込んできても全部スルーするよ!』

『やったね!ちなみに運転してタイヤ動いてもノーコストで隠密されたままだよね?』

『うん、レベル2に上がったから…あ、もしかして、これ想定してた?』

『厳密には、隠密の効果を聞いてこれに決めた』

『あー…あの質問、そういうことかあ』

『うん、てことで運転するからちょっと座ってて。シートベルトしめてね』

『は!?いや待ってリオくん!説明放置プレイ!?』

『さすがにここは王都に近すぎる。車だから20分か30分走らせたら王都からだいぶ離れるだろうし、そこまで移動したい』

『…あ、なるほど』

『これ、逃亡だもんね…』

『移動したら、今度こそ話すから』

『…わかった、お願いな』

『ていうかリオくん、運転できるの?免許は?』

『これ、言ってみたら私のスキルだから、問題ないよ。無免許運転なんてこの世界で罰すること出来るの?』

『そ…れもそうか。うん、わかった。よろしく』

『はーい、ちょっと待っててねー』



一度外に出たら隠密スキルが解除されるかもしれないので、そのまま運転席に滑り込んだ。

あ、オートマに近いな。仕組みはあっちの世界、地球仕様の車だった。

シートベルトをしめて、ハンドルに手をかけて、アクセルを踏み込む。本来の車とは違うけど、私の思い通りのスピードで動いてくれた。

久々の運転だしペーパードライバーだから不安だったけど、これなら問題なさそう。何ならブレーキ踏まなくても私が思うだけで止まるんじゃなかろうか。

ともあれ、ゆっくり進む車体が、ほぼ揺れもせずに走り出した。


グッバイ王都!二度と来ないぜ!


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