閑話6.繋がる縁(譲視点)
狭山茜=アキ(料理)
波川静=ナズ(被服)
林千晴=ハル(隠密)
―――姉ちゃんが、消えた。
意味わかんなかった。何で?いつもみたいに学校行ってただけじゃん。
行ってきますって挨拶したじゃんか。なんで、ただいまがないんだよ、そんなわけないだろ。
「母ちゃん、姉ちゃんは…?」
「…手掛かりはないって。いなくなった30人ちょっと、誰も見つかってないって」
「学校が隠してんのかもじゃん!」
「学校側も、警察の立ち入りで全部見てもらったって。それでも見つからないって…」
「そんな…」
母ちゃんは悪くない。でも、母ちゃんに聞くしか出来なくて。
嘘かほんとかわかんないけど、光ったと思ったら教室に誰もいなくなってたって証言がある、らしい。
それは隣のクラスの人が言ったことで。姉ちゃんは、光った教室のクラスじゃない。多分遊びに行ってて巻き込まれた、らしい。
何でだよ、遊びに行かなきゃよかったのに。自分のクラスにいれば、ちゃんと帰ってこれたのに。
そんな、どうにもならない「もしも」ばっかり考えちまう。
「しず姉…」
「こんなことなら、スマホ買って持たせておけばよかった…!」
「母ちゃん…」
でも、スマホ持ってるやつもいなくなってる。
わかってたけど、母ちゃんもわかってたはずだけど、言葉にはしなかった。
出来ることがあったのにやってなかった、そんなことを考えてる。自分を責めてる。
「母ちゃんは悪くないって」
「でも…、ゆず、あんたに今からスマホ持たせるわ。いい?」
「…うん、ゲームできなくてもいいから、居場所わかるやつ、欲しい」
「ゲームも、出来る機種にするから」
「…ううん、いらね。姉ちゃんが帰ってこないと、ゲーム楽しくねえもん」
前は毎日のように携帯ゲームしたさでスマホねだってたのになあ…
クラスでもスマホ持ってるやつなんてほとんどいなくて、いても子供用ケータイってやつで。
小学生だから当たり前なんだろうけどさ。でも俺がやりたいゲーム、通信要素あるし。姉ちゃんがいないと相手いねえんだもん。同級生は持ってないし。
だから、いらない。電話と、居場所わかるやつ、それだけの機能でいい。
母ちゃんは不安なのか、俺の手をつないでケータイショップに連れてった。
もう小5なのに母親と手ぇ繋ぐのなんかかっこ悪いけど、母ちゃんの気持ち考えたら振り払えなかった。
つないでないとどこかに行く。そんな風に思ったのかもしれない。
俺も、母ちゃんと離れ離れになったらやだなって思ったから、そのままにした。
この、中学生が突然30人以上いなくなった事件ってのは結構ニュースになったらしい。
そのせいかわかんないけど、ケータイショップの店員さんも俺たちを見て察したっぽかった。
多分、同じような客いたんじゃねえかな。家族がいなくならないように、スマホ買い与えるっての。
近くの席に座ってる家族っぽいのもそうなのかも。もしかしたら姉ちゃんの友達だったりするかな。
俺たちみたいに家族が被害に遭ってるのか、子供が同じ中学にいるだけなのか、それはわかんないけど。
大人たちが機種とか機能とかのことを真剣に話してるのに飽きてきた。それは近くの席のやつも同じだったらしい。
「ねえねえ、きみいくつ?僕は小4の10歳」
「俺は小5の11歳だよ。同じ学校かもな」
「そうかもねえ」
「あき、離れたらお母さん怒るよ」
「えー、だって僕らいなくてもよさそうじゃん」
そっくりな男女だ。もしかして双子か?声をかけてきたのは男の方だ。
1コ下かあ…なら退屈だろうな。俺も退屈だ。でも母ちゃんの気持ちもわかるから大人しくしてた。
いつもならとっくに離れて店の中とか見回ってる。
こいつらもそうなんだろう。でも店見回るんじゃなくて俺に声かけてきただけだし、だいぶ大人しい性格っぽい。
「母ちゃん、俺、あっち行ってるよ」
「ゆず!?…え、あ、そうね、絶対あそこから離れないでね」
「わかってる」
離れるってことに母ちゃんがびっくりしてたけど、俺の近くにいる2人を見て察したっぽい。
俺より小さい子だから、遊びたがってるって。
で、俺があっちって言ったのはキッズコーナーだ。こういう大きめの店には大抵こういうのがある。
小5にもなって行くのはちょっとなあと思ったけど、あっちの方が広々して座れそうだし、誰もいないし見晴らしがいい。
母ちゃんが見えなくても店員からはよく見える場所だ。
そんで、2人を連れてキッズコーナーに移動した。何かふわふわした椅子っぽいのに座る。
こいつらも小4だろうから、積み木とか絵本には興味示してなかった。
ただ、大人から離れた場所でおしゃべりしたかったとか、そういうのだろう。
俺の隣に男が、その隣に女が座った。
「僕、林千明。こっちはふたごの妹」
「あたし、林千歳。あきはふたごの兄」
「俺は、波川譲。小5だ」
まずは自己紹介から。予想通り双子だったらしい。
聞けば違う小学校だった。でも多分中学は一緒になる。姉ちゃんが通ってる中学だ。
姉ちゃんも、半分くらい違う小学校の子がいたから新鮮ーとか言ってた。こいつらはその小学校なんだろう。
小玉利中学には、小玉利東小学校と小玉利西小学校の生徒が通うようになる。俺は西小学校だけど、こいつらは東小学校だった。
まあ学年違うから、中学になっても一緒に勉強とかにはなんないけどさ。同じ部活に入ったら先輩後輩になるかもだけど。
…でも、林?
「お前ら、中学に姉ちゃんいる?」
「いるよ」
「いるよ」
「ちはるって名前だったりする?」
「そうだよ」
「そうよ。どうして知ってるの?」
「…俺の姉ちゃんの友達かも」
「そうなの?」
「そうなの?」
「えっと、俺の姉ちゃん、波川静っていうんだけど」
「しずか」
「しずっち」
「聞いたことある」
「あかねちゃんがしずっちって呼んでた」
「…!あかね!茜姉ちゃん知ってんのか?」
「姉さんが言ってた」
「お姉ちゃんが友達って言ってた」
「そ、そうなのか、まさかの…あ、お前らの姉ちゃんって…」
「…いなくなった」
「…かえってきてない」
「…お前らも、か」
被害者の名前は、俺はちゃんと見てない。
姉ちゃんがいなくなったってことで頭がいっぱいで、他に誰がいなくなったかは知らなかった。
そっか、ちはる姉ちゃんもいなくなってる被害者だったのか。会ったことはない。何か塾とかで忙しくて遊べないからって。
茜姉ちゃんは家に遊びにきたことあるから知ってるけど。で、女のおしゃべりって声でかいし別の部屋にいても聞こえるんだよ。
それで、ちはるって名前の友達がいることも知ってた。話によく出てくる名前だったし。
じゃあ、この2人も俺と同じ目的でここに来てるのかもしれない。
姉がいなくなったから不安になって、弟とか妹にスマホ与えて居場所を知れるようにしようって。
同じ立場のやつがいる、そんなことに安心した俺はひどい奴なんだろうか。
「…あき、とせ、迷惑かけてない?」
「お母さん。かけてないよ」
「おしゃべりしてただけ」
少し話してたら、双子の母親らしき人が来た。契約が終わったっぽくて、2人にスマホ渡してた。
首にかけるやつをつけてたから、こうして持ってろってことなんだろう。
そのまま連れて帰ろうとしてたけど、双子は何か嫌がった。
「どうしたの?帰りましょう?」
「もうちょっと」
「もう少しゆずくんとお話する」
「ええ…?」
「姉さんの友達の弟だって」
「ゆずくんのお姉さんもいなくなっちゃったんだって」
「…!そ、そうだったの…ごめんなさい」
「あ、いえ、そんな…」
「姉さんとしずかさん、仲良しだったから」
「しずかちゃん、お裁縫得意って言ってた」
「…しず、か?その子が、はるの友達?」
「そうだよ」
「そうよ」
少し違和感があったけど、娘の友達の弟ってことで、少し待ってくれるらしい。
娘の友達の名前、知らないんだろうか…?話してない?その割には双子は知ってるっぽいけど。
そんな話をしてたら、母ちゃんが来た。こっちも契約が終わったらしい。
「ゆず、お待たせ。これがあんたのね」
「ありがと母ちゃん」
「ゆずるくん、スマホ使えるようになった?」
「ゆずくん、番号おしえて」
「えっ」
「え、なに?仲良くなったの?こんにちは?」
「こんにちは」
「こんにちは」
「母ちゃん、姉ちゃんの友達にちはるって子いるの知ってる?その子の弟と妹だって」
「ああ、ちはるちゃん?会ったことないけど、頭のいい子だったかしら?よく話すって言ってたわね」
「そうそう、その子っぽい。姉ちゃんと同じで、いなくなっちゃったらしいんだけど」
「あ…そうだったの…あ、初めまして、波川です」
「あ、初めまして、林です」
母ちゃん同士で挨拶始まっちゃった。
それを置いといてなのか、双子はスマホをこっちに出してきて、番号を登録しようと言ってきた。
初めての登録が親じゃなくて今日初めて会ったやつってのもちょっと不思議で面白かった。
「えーと、はやし、ちあき、はやし、ちとせ、だな」
「なみ、かわ、ゆずる、登録したー」
「ゆずくんの登録おわったー」
電話以外では初めて触るからよくわかんねえけど、メールだかラインだかメッセージだかは出来るっぽい。
何か変な顔文字送ってきやがった。m9(^Д^)プギャーじゃねえんだわ。
千明の方、軽く頭をこんって叩いたらケラケラ笑ってた。
千歳の方は普通によろしくーってだけだったのに。
グループが作れて、3人でチャットみたいに話せるっぽい。親は登録してないし、招かないと参加できないからほんとに3人しかいない。
でも、何となく、これが目当てなんじゃないかって思った。考えがあるのかないのか。
何でそう思ったかって言われたら、登録が終わったら、双子は母親に帰ろうって言ってたから。目的は果たした、みたいに思えた。
子供だけの繋がりが楽しいのかはわからないけど。何も考えてないだけかもしれないけど。
まあ、俺もちょっと楽しかったから、このグループはこのままにしておこう。
話すことがあるかどうかも今はわからないけど。
「楽しかった?」
「うん」
姉ちゃんがいなくなってから笑ってなかったような自覚はある。
同じような仲間を見つけたからか、年上だからしっかりしないと、不安にさせちゃ駄目だって思ったせいか、それはわからないけど。
久しぶりに笑った気がする。
家に帰ってすぐ母ちゃんも登録した。父ちゃんは仕事から帰ってきたら登録するつもりだ。
当たり前だけど、まっさらに近いスマホには何もデータはない。
新しいメッセージも、ケータイ会社のお買い上げありがとうございます、のやつしかない。
ゲームも、出来るかもしれないけどやるつもりはまだない。
しばらくは母ちゃんから電話受けるくらいにしか使わないだろうなって思った。
なのに。
「…また、ノイズ…?」
記録にも残らない、たまたま画面を見てたら気づいた、電話の受信画面。
通話ボタンを押しても、ノイズしか聞こえないしすぐ切れる。発信元は、非通知。
携帯会社に持って行っても不具合はない。新品だから当然だけど。何か難癖付けてんのか?みたいにも思われた。
まあ、着信履歴にも残ってないから当たり前なんだけどさ。
でも、それが妙に気になった。
どこから届いてるのかわからない着信。誰かからの、声?
何でそんなことしたかわかんないけど、その画面をスクショして、双子に送ってみた。
返信は「気になるねえ」「気になるー」くらいだったけど。
でも、馬鹿にせずに聞いてくれたのはこの双子だけだったのもあって、その謎着信を見つけたら共有していた。
母ちゃんも、俺の気が触れたのか、みたいに思ったっぽいから、ほんとにこれだけは双子しか味方がいなかった。
怖い体験のはずなのに、全然怖いと思わなかった時点で俺もどうかしてたのかもしれない。
たまに発生する、その謎着信。見逃してるのもあるけど、見つけた時には絶対通話ボタンを押してる。
ノイズしか聞こえないけど。そのノイズが大きくなったような、何かの音が、声が、聞き取れるかもしれないと思って。
それが始まって何日経ったかは覚えてない。
でも、ある日急に聞き取れる声がした。
『―――ジ、ジジ、――…』
「…もしもし?もしもし?」
『―――ジジ、ザ、ズ…』
「…もしもし…?」
『―――ザ、ズ、ル…?』
「…え?」
『……―――ユズ、ル…?』
「………姉ちゃん…?」
あの日以来、行方が知れなくなっていた、姉の声だった。
伝達:情報などを伝え、届けること




