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04.勧誘


三日目。

資料室で本漁り二日目。

ちょっとお腹鳴らしつつ、調べものに精を出した。

ここから逃げるならどこがいいだろう。

人間族領から出た方がいいのか、出れるものなのか。通行税などは必要なのか。そもそもこの世界の通貨って共通なの?獣族領は別の通貨とか、ない?

そう考えると、調べることは大量だった。一人じゃとても追いつかないくらいに。

ついでに空腹で思考力も低下してる。うおお、体がもたん…


城の窓から、木に生っている果物が見えた。何だあれ、食えるんだろうか。調べてみると『食用可』だったので、誰にも見られないようにして採って食べた。

甘味より酸味が強かったです。すっぱい。いや、餓死よりマシか。



《スキルがレベルアップしました》

《無機物干渉スキルレベルが2になりました》

《召喚マナ消費量が減少します》

《召喚内容が増えました》

《干渉範囲が増えました》



『…お』



初レベルアップだ。こんな感じなのか。レベルアップしたらわかる、ってのを実感した。確かにこれならわかる。

どうやらこの声とかは本人にしか聞こえないらしい。注意すべきは、ここでちゃんと聞いてないとレベルアップで何が起きたか確認できないことだ。

今戦闘中で忙しいから後で確認!とかは出来ない。自分のステータスを見ることは出来ないからだ。

これが出来るとしたら『鑑定』系のスキルが必要らしい。かなりのレアスキルということだった。

下位互換に『表示』系スキルがあって、これはプチレアスキルにあたるんだとか。

ただ、鑑定と違って、何が見れるかはスキル名依存。『名前表示』『スキル表示』『レベル表示』『状態表示』など。

鑑定は全部ひっくるめて見れるそうだ。状態って何だよと思ったら、状態異常の判別が出来るそうだ。毒、麻痺、呪い、病気など。病院必須じゃね?

ともかく、後で確認が難しい以上、しっかり聞いておいた方がいいものらしい。

…私は、必要ないけども。



『…あれ、これ…』



鑑定板とは違って半透明の画面が目の前に表れた。薄っすら向こう側が透けて見えるが今は無視だ。

画面に映るのは「召喚できるもの」のリスト。どうやらスキルの中には、こうした召喚系のものがあるらしい。

もしくは、アイテムボックス系のスキル持ちで、今自分が持っているものをこういう一覧で見れるのだとか。まあそういう類のものだ。


今私が召喚できるものはいくつかある。レベルが低いせいか、単純な構造のものだけで、ちょっと複雑なものは表示されてるものの薄っすらグレーになってて選べない。

白くなってるものが現時点で召喚できるものなんだろう。わかる、わかる…けど、ちょっと理解が追い付かないものが見えた。

でも、これなら…と思ったもの。これがあれば、逃げ出す時に有利になる。自然、他の勧誘すべき人が見えてくる。

いくつか表示された「複雑な構造のもの」…それを吟味しつつ、ここで初めて同行者を真剣に考え始めた。

今までは、同行者がいた方が良いと考えてはいたけど、それを誰にするかはまったく考えていなかったので。

自分のスキルを見て、同行者の条件がぼんやり固まってきた。



四日目。

格差社会がはっきりしてきた。

まだまとめて「勇者たち」だったものが、「勇者」と「落ちこぼれ」になってきたように思う。明らかに待遇に差がある。

生産スキル系は、ついに体を拭くお湯さえもらえなくなったらしい。

まあ自分で用意しろって感じなんだろうけど。


なお風呂は贅沢品で、王族さえめったに入れないものなんだとか。日本人涙目である。

どういうことだ歴代勇者…と思ったが、多分こんな国に積極的に自分達の痕跡や趣味趣向を残したくなかったんだろう。

だって日本人の舌を満足させる料理とか無いらしいし。食がほとんど発達してない。

奴らの言い分だと、異世界人、特に日本人は何度も召喚してるのにも関わらず、だ。

ここに文化を残したくないと判断したのかもしれない。


とりあえず城から、そして王都から出た後はどうしようか。世界地図を引っ張りだして悩む。

地図は軍事的にも機密事項なので本来閲覧も制限されてそうなもんだけど、まあここ一応資料室だしね。王城の。

もちろん持ち出せないので記憶で何とかするしかない。唸れ私の記憶力。ちょっと信用ならない子だけど。

いや、やっぱ一人じゃ無理があるな。明日あたりから勧誘を始めようか。今の待遇にキレてる子とか絶対いるだろうし。



五日目。

さあいい天気で勧誘日和、と思ったら部屋出た瞬間に兵士だか騎士だかに連行されましたよ。あァ?(圧)

どうやら、攻撃系スキルを得た連中が実際に魔物を倒したいとかアホみたいなことを言ったらしい。

本音言っていい?勝手にやってろ巻き込むな。

ブチギレてやろうかな、と思ったけど考え直した。


あれ、外に出るってことは、脱出経路の下見に行けるんじゃね?


あ、いいじゃん、行こ行こ!ごめん、喜んで同行致します!

大抵のことは笑って許せそうな気分で行軍に参加した。ふふふ、ご機嫌すぎて荷物持ちまーすとか立候補しちゃったぜ。

ちょっとお腹空いてて力出ないけどこのくらいなら問題ない。

そして嬉しいことに、野営で出た食事は私の分もご用意されていた。


まともな食事久々すぎて嬉しいね!素材の味が素晴らしいね!正直、味には期待してなかったので、こんなもんだよねという感想しかない。

いやでもほかほかの温かい食事とか久々だし、芋っぽいのホクホクだし野菜はシャキシャキしてて食感は200点満点だと思う。

芋とか火が通ってなくて筋が残ってるとか、そういうの一切なかったんだ。

だからきっと料理班の料理の腕は抜群なんだと思う。味付けが日本人にとってはうーんってだけで。


狭山さんもいたから、多少の工夫は感じ取れたけどね。彼女、料理班で冷遇されてるのか、あんま意見とか言える立場じゃないっぽい。

食うのがほぼ日本人なんだから、同郷の彼女の意見通した方が絶対いいのにねえ…

逆に出しゃばるなって注意されてたよ。どうしようもねえな。


で、攻撃班も料理に文句言うだけでそういう事情察知しようともしてない。狭山さんに料理下手だなって言うだけ。

ただでさえクズスキルなのに、とか、スキルあってこれ?何もできねえじゃん、だそうですよ。

お前らのその発言で、狭山さんのスキルの価値がどん底に落とされたんだけど、そういうのも察してないんだろうな。

国の連中からすれば、同郷の勇者でさえ無能と認めた、みたいにとれるだろうし。

あ、よろしかったご機嫌が急降下した。私自身が料理に満足してたのもあって、その気持ちさえ踏み潰された気分になったからだ。

狭山さんのスキルは『料理』…調べたら、調理と料理は違うスキルだった。今日は無理だけど、明日あたり接触してみようか。



六日目。

勧誘…狙うスキル持ちは決めた。

出来れば追加で勧誘したい子もいたけど、無理にとは言わない。そもそも、城から逃亡なんて博打にも程がある。

狙うのは、友人でもあった三人。料理スキルの狭山さん、被服スキルの波川さん、隠密スキルの林さん。

仲が良いのもあってか、この三人は同室だ。そのため、うまく行けば一晩くらい誤魔化しがきく。

これが他の部屋の子だったら、戻ってこないとかいないだとかで騒ぎになりかねない。

逃亡の時間は当然夜中。就寝時間となると、全員大人しく部屋に籠る。何せ娯楽が少ないからな。ネットも漫画もテレビもない。寝るしかない。


さて、三人のうち誰から勧誘しようか。断られたら仕方ないから一人旅だ。勝算はあるけど、どうかな。

資料室のある方に向かいつつ廊下を歩いてると、波川さんを見つけた。一人だ。お、ターゲット発見。いい獲物である。

話がしたいと言って資料室に誘うと着いてきてくれた。動きがぎこちないから筋肉痛かもしれない。わかる。私もだ。

そしてやっぱりスキルのことで悩んでいたらしい。この様子だと、スキルについて深く調べることもしてなさそうだ。

まあ私が資料室にいる時、生徒は見なかったからな。たまに研究員っぽいのが出入りしてたけど、私が大人しく本読んでるだけって知ってスルーしてた。


私は、今まで調べたスキルについて波川さんに話してみた。めちゃくちゃびっくりしてた。

多分、視野が狭まってて、スキルについて本で調べようなんて思いもしなかったんだろう。この子、電化製品を説明書読まないで使うタイプと見た。

なまじ、同じスキル(と思ってる人)が先生代わりとしていたから、資料は必要と思わなかったんだろう。

不明点あったら教科書読まずに教師に聞くタイプでもあるかも。ある意味優等生だけど、今回に限っては教師がよろしくなかったので努力が実を結ばなかったと。


被服スキルについて話し、実践してもらうとすぐにレベルアップした。あっけないとも思ったけど、今までの裁縫で溜まった経験があったのも理由だろう。

多分、召喚で経験値50とか得られて、今までの数日分の裁縫で地道に経験値が30~40くらい溜まってたんだと思う。同系統スキルだろうから経験にはなってたはず。

で、二回の召喚で経験値100に達してレベルアップした、と。いや経験値100でレベルアップするのかは知らないけどさ。

レベルアップで喜んでるところ申し訳ないけど、本題に入りたい。ここからの逃亡の勧誘だ。


正直、被服スキルはめちゃくちゃ必要になると思う。

何しろ逃亡したら着替えどうするって話だ。荷物と考えるとめちゃくちゃかさばる。

それに、服装で身バレしたら元も子もない。逃げたら即着替えた方が良い。Tシャツ大歓迎である。

今私達が着てる服は同じデザインの服だ。シンプルではあるけど、多分訓練服…体操服に近い用途の服だ。

胸元に国章みたいなのが入ってるので、これ着てたら城の関係者だとバレかねない。


それに、生活に必要とされるのは「衣食住」とも言う。被服スキルはこのうちの「衣」にあたる。

そう、私が重視したのが、この「衣食住」をまかなえるスキルだ。

安全に寝られる場所、清潔な服、栄養のある食事。贅沢とか言うな。現代日本でぬくぬく生きてた以上、これが一般的な生活基準なんだ。

そう思って勧誘した波川さんは、逃亡に同意してくれた。狭山さんと林さんも一緒だという部分も決め手だったかもしれない。


波川さんと歩いてると、狭山さんを発見した。

どうやら朝食の片づけがひと段落したところだったらしい。

何かちょっとレイプ目っぽく見えるんだけど大丈夫だろうか。昨日の今日だし、暴言吐かれまくったのかもしれない。

そう思ってたらその通りだったらしい。勇者のくせにとか勇者崩れとか、本当に勇者に見捨てられた哀れな存在、みたいに言われたらしい。

オーケー、私はどこのどいつをボコればいいんだ?笑顔でそう言ったら二人に即止められたけど。解せぬ。



『涼、資料室、資料室行こ!調べものあったよね!?』

『うん、でもその前に不届き者の顎をね、こう、かち割っておかないといけない衝動が湧いてね?』

『リオくん、あたしも調べもの手伝うから今すぐ行こ???』



二人に腕掴まれて引きずられました。解せぬ。

あ、でも狭山さんの目に生気が戻ってる気もする。よかった。

引きずるのは何とかやめてもらったけど、両手繋がれてるというか握られてるのでどこにも行けない。

いや、さすがにもう不届き者を探し出して顎勝ち割った後ボディブロー、なんて考えてないけど。

そう言ったら「レベルアップしてる」ってドン引きされた上にやっぱり解放してくれなかった。

資料室の近くまで歩いてきたところで、林さんを発見。当然声をかけたら、目的地が一緒だった。



『ちょっと、資料室でスキルのこと調べようかなって…もっと出来ることありそうなのによくわからなくて』

『タイムリー』

『え?』

『そういう話したくて探してたから、ちょうどいいね』

『え?』

『ちーちゃん、一緒に行こ』

『あ、うん…』



再び戻った資料室。やっぱり無人。マジで人気ないなここ。まあ騎士とかは来ないだろう場所だけど。

でも騒ぐのは良くない。巡回で近くを通る奴はいるんだ。人数が増えた分、音に気をつけなきゃいけない。

今の私達に監視なんてついてないだろうけど。多分攻撃系スキル連中は監視されてると思う。勘だけど。



『さて、まずちょっと話をしよう。出来るだけ小声で…』

『…ねえ、涼。聞かれたらまずい話するの?』

『うん、ちょっと』

『じゃあスキル使う?』

『え?』

『あたしのスキル、そういう隠れる系のだから。えーと、うん、このくらいの距離なら範囲に入る』

『声聞こえなくなる系?』

『そう、消音。姿は見えるけど、ちょっと認識阻害の効果もあるかも』



四人が机に座って、ちょっと近づいてるくらいの範囲。半径1メートルくらいだろうか。人数が多いと無理だけど少数なら余裕だ。

聞けば、密室なら部屋全体に及ぶらしい。でも開けた場所だと、空間っていう目に見えないものを指定するようなものだから精度が一気に下がると。

この城みたいな大きさは無理だけど、閉め切ってさえいれば教室くらいの大きさなら見えないように、音も漏れないように出来るらしい。

…思っていた以上にとんでもねえ能力だった。想定以上のスキルですよ奥さん。誰だよ奥さん。

今は何となく姿が目に留まりづらくて、声が聞こえないっていう状態らしい。

ちなみに自分に対してだと、姿も声も匂いも感触も消えて透明人間みたいになるそうだ。



『林さんのスキルがヤバイ』

『うん、ヤバイ。ちーちゃんヤバイ。え、これが落ちこぼれ扱い?マジで?節穴か?』

『でも自分以外に使えないなら意味ないって言われたし、暗部の人とかもっと長い時間姿見えづらくするスキル使えるって。あたし短時間しか使えなくて』

『多分ね、林さんのスキルとその暗部さんのスキル、似て非なるものだと思うよ』

『…え?そうなの?』

『林さんのスキルって隠密だよね。で、多分暗部の人のスキルは隠形ってやつだと思う』

『…何か違うの?スキル名はちょっと違ってるけど、似たようなものじゃ…』

『スキルに関しては一文字違うだけで別物になるらしい。私が調べた限りだけど』

『涼、ずっと資料室で調べものしてたっぽいよ。スキルのことも結構調べたって。だから確かだと思う』



狭山さんは声もなく驚いてるけど、林さんはやっぱりって言いたげだった。

自分で使ってて、何か教わったのと違うなって思ったのかもしれない。林さんの教師が誰か知らんけど。暗部か?

それで違和感を持って、資料室に来たんだろう。今までは言われた通りにやってみて様子見をしてたのかもしれない。

教師に尋ねないで自分で調べようと思ったあたり、信頼関係はないみたいだな。どんな態度で教師してたんだろう。


『隠密』スキルは、『隠形』スキルの上位互換だ。隠形スキルは姿形を隠す認識阻害系のスキル。そこにいるのに認識できない。

実際に姿が消えているわけじゃないけど、無意識に人がいることを忘れると言うか、別人に置き換えてしまうものらしい。

自分の存在をどこまでも薄くして、姿を掴ませない、そんなスキルだ。めちゃくちゃ厄介である。ちなみに弱点は『看破』スキルと『鑑定』スキル。


隠密スキルは、隠形スキルと似ているけど、自分の姿を掴ませないのではなく見えなくするらしい。まさに透明人間。

気配も感じないし、姿は見えないし、声も聞こえないし、触れることもできない。手で掴もうとしてもすり抜けるらしい。怖い。

ただ、これだけの効果だ。隠形スキルより魔力消耗が激しい。つまり持続力に難点がある。

隠形スキルのいいところは、一度スキルを使えば何日でも持続できるくらい消費魔力量が少ないらしい。


もっとも、隠密スキルの方にも消費を抑える方法はあって、声だけ消す、姿だけ消す、と選択が出来るらしい。レベル1だと出来ないけど。

今は匂い消しとか必要ないなと思ったら、姿と声と触れられない部分だけ発動、なんてことも出来る。

あと意外だと思ったのは、自分より部屋の一室に効果を付与する方が消耗は少ないのだとか。


人間、生きてて超動くからね。部屋は動かないから範囲さえ決めればいいんだろう。どうやら隠密スキルは、外側に張り付けるようにして発動するらしい。

なので人間に付与すると人型の膜のようなものになり、腕を伸ばすだけでその部分だけ新たに膜を生成する、みたいな。

微調整がちょこちょこ発生するので消費魔力量が増えると。

部屋だと動かないので長方形の膜が出来てそれで終わりだとか。あと、膜の中は何してようが影響はないらしい。

心臓が動きまくってても、その音が漏れることはないし、部屋の中でサンバを踊ろうとも曲も足音もしないと。魔力を新たに消費することもないそうだ。

あくまで、外殻というか外皮というか、その範囲が変わった時に魔力が使われる。

もちろんスキルレベルに依存するところはあるだろう。けれど、私が資料を読んでわかったのはこのくらいである。



『待ってめっちゃ凄いんやけど。想像以上!』

『これ、例えば道のど真ん中にテント張ってその中で爆睡かましても、馬車とか通りまくろうが吹っ飛ばされないし怪我もしないってこと?』

『林さんとんでもねえ例え出すじゃん…けど多分そうだと思う』

『は?めちゃくちゃ良スキルじゃね?安全に旅出来るじゃん。ちーちゃん凄い!』

『旅に出る予定ないけどね…』

『あ、それは…』

『旅、出る?ここから逃げようぜ!』

『は?』

『涼、その勧誘方法減点100点な』

『手厳しい』

『えっ、逃げ、え…?』



さすがに強引すぎたか。

叱られたので真面目に話した。

ここから脱出しようとしてること。これは扱いの悪さを全員が知ってたので納得してくれた。特に私のだな。

でもさすがに食事さえ許されてないとか布団さえないことは知らなかったらしい。青褪めてた。

何故か謝罪されたけど、他人を気にしてる余裕なんてなかっただろうから、特に気にしてない。

ただ、この扱いを知って、私が脱出計画を立ててることについては、致し方ないことだと思ってくれた。

それに協力するかどうかはまた別だろうけど。



『でも、逃げるって言っても、どうやって、どこに…』

『獣族領のあたりを考えてる。比較的人族に好意的な種族らしいし』

『けもの、ぞく…?』

『あ、そっか、知らないか』



この世界のことを軽く説明する。人間族以外もいると聞いて全員驚いてた。

私も資料見るまで知らなかったし、これは無理もない。それで全種族の中で獣族が一番危険が少なそうだと思った。


この種族は一応獣人みたいな種族で、獣の要素を持った人族の一種だそうだ。

漫画でよく見るような耳と尻尾だけの獣要素から、二足歩行の獣まで外見は幅広い。

肉食獣の要素がある獣族は好戦的だけど、草食獣の獣族は比較的穏やかな気性らしい。

領土は魔の森で区切られてるものの、魔の森に面した町では人間族と獣族が共存状態で暮らしている。

魔の森のこちら側(人間族領)は人間が六割ほど、獣族が四割ほど。

魔の森の向こう側(獣族側)は人間が四割ほど、獣族が六割ほど。そんな割合でうまく暮らしてるそうだ。


もっとも資料室の情報でしかないので、今もそうなのかはわからない。

資料の日付から見て、大きく変わってはいないと思うけど。三年前の情報だからね。

とりあえず目標として、人間族領の獣族との共存街・ビスムズを目指そうと思う。

人間族領から脱出した方がよければ、魔の森を通った先の共存街・ヒュムドを目指すと。



『…涼、思ったより考えてた』

『波川さん、どんだけ私を考え無しの愚か者だと思ってたの…?』

『そこまで言ってなくない!?』

『一回、自分でも調べてみたいかな、情勢とか…』

『あ、いいね。今私が言ったのも含めて自分で探すのっていいかも』

『や、疑ってるわけじゃないけど』

『うん、でも自分で調べた情報って大事だと思う。私もかいつまんで話してるから、詳細を知る意味でも』

『あ、確かにそうやな…?』

『…ごめん、答え、ちょっと待って…ううん、違う。自分で調べて、納得出来たら誘いに乗りたい。今はまだ、色々不安で』

『ああ、もちろん』

『え、そうなの?じゃあ、あたしも色々調べたいかも…食材についてとか』

『ちなみにあたしは誘いに乗ったパターンね。あ、涼、脱出するのいつにするかって決まってるの?』

『いや?でも2~3日中かな?でないと私餓死しかねないし…』

『待って、待って???とんでもねえカミングアウトするやん!?』

『あ、そういえば食事…!うう、あたしのスキルで何か増やせたりしないのかな。目の前の食材二倍にするとか』

『調理スキルってそういうやつだっけ?あ、もしかして茜のスキルも勘違いしてるパターンじゃない?あたしみたいに』

『え、あたしまで?』

『ああ、そうそう。料理スキルな。調理スキルの上位互換な』

『…へ?』



ここで調べた限りの料理スキルについて話した。やっぱりというか何というか狭山さんは驚いてた。

波川さんのように召喚が出来ると伝えると、挑戦し始めた。やっぱり半透明のパネルが出て、食材が選べるようになっていた。

一番消費魔力の少ないりんごを召喚したところでレベルアップしたらしい。

波川さんと違って、日々の料理と実地訓練の野営時の調理で経験値が結構溜まってたようだ。



『これ、茜がいたら食糧問題解決じゃね?すごくね?』

『それな』

『や、でも、せいぜい果物しか選べない…あ、小麦粉が一覧に出た。選べないけど』

『魔力消費したからだと思うな』

『これさ、静も茜も、一日一回新しいの選んで、残りの魔力で一度選んだことあるやつ召喚してけば結構経験値溜まるんじゃ…』

『それだと召喚出来るものの種類も増えるしな。多分これ初回だけごそっと魔力消費するやつだろうし』

『ほんとだ…え、そしたら続けてたらレベル5くらいになるんじゃ…?』

『レベル上がると消費魔力量も減るっぽいしな…さっき消費魔力がどうのって聞こえたし』

『…涼、あたし、逃げる日までそれで経験値稼ぎまくるわ。少なくともあと2~3種類くらいレパートリー増えるし、最低Tシャツは召喚できるようにならないと』

『おおう頼もしい』

『…リオくん、やっぱさっきの無し。調べるのはやるけどあたしも一緒に逃げる。けど、シズっちと同じで何種類か選べるまで経験値稼ぎしたいから、ちょっと待ってほしいかも』

『え?おお、仲間増えるのは嬉しいけど…』

『とりま、このりんごあげるから食べて。…あ、みかんも召喚できるけど…明日にして、りんごあと何個か出すから、これ食べて今日は飢え誤魔化して』

『みかんは選ばないの?種類増やしたいならやった方がよくない?あたしは召喚できないからしてないけど』

『これ選んだら魔力尽きる気がする。一応昼と夜に調理しないとだから、魔力残しときたい。でもリオくんの空腹も何とかしたいから、これで』

『あ、せやな。茜はガッツリ仕事あるもんな』



どうやら料理に関することをする際に僅かに魔力を消費するらしい。

もっとも、今の狭山さんはほぼ雑用しかやらせてもらえないそうだけど。

それでも面倒な野菜を切る作業とかが丸投げされたりするので、スキルの恩恵がないと素早く片付けられないらしい。

ああ、早さと正確さなんかが補正されたりするのか。

ぽんと三つのりんごが手渡された。日本ではよくスーパーとかで見たものだけど、こっちでは見ない。

似たような果物はあるけど、味が全然違って裏切られた気分になったんだよな…



『ところでこのりんご…日本仕様かな?食べるの楽しみなんだけど』

『あ、味?確かに気になるな。自分で召喚しといてアレだけど。こっちにもりんごっぽいのあるけど超すっぱいもんな』

『わあ…余裕できたらあたしも一個欲しい。日本の味、恋しいよね…』

『もちろん。明日以降になると思うけど…何なら逃げた後かもしれんけど』

『うん、じゃあ、今日のところは資料室で調べものでいいかな?涼、特に調べたいことってある?一緒に調べるけど』

『マジで?色々調べたいんだけど手が足りなかったとこなんだよ。お願いしていい?』



地図とか町の情報とか世情とか調べたいことはたくさんある。

でも、これらを全部調べて記憶しておくなんて芸当、僕には無理だ。

林さんが協力してくれるなら超ありがたい…!



『もちろんいいよ。…ところで、餓死の問題解決したなら逃げるのもう少し先でもいいよね?知りたい情報手分けして調べて…一週間後くらいは?』

『そだなあ。餓死しないし、日数稼いだら稼いだだけ狭山さんと波川さんの召喚の種類増えるし』

『ここに一週間いなきゃなのかあ…てか、調べものならあたしも手伝うけど。むしろ料理関係調べたいし』

『は?まさか涼と千晴の二人で調べものする前提だった?あたしももちろん手伝うけど?』

『あれ、マジで?いいの?』



二人は召喚のこととかあるから、これ以上負担かけるのもなって思ってたんだけど…

ああでもこっちの食材とかは確かに必要な情報か。同時に服装とかもだ。民族衣装とか禁色とかあったら大変だし。



『じゃあ、今日からそれぞれ手分けして調べものして、調べた内容は夜にあたしらの三人部屋で共有しようか』

『ん?私がそっち行くってこと?見回りとかしてない?バレない?』

『多分夜中に怪しいことしてないか部屋覗くくらいしかしてないよ。で、その前の時間に遊びに行く分はスルーされるから』

『え、マジで?覗き魔いたの!?初耳なんだけど!』

『茜、一回寝たら起きないからなー。あたしも気づいてたくらいやで…』

『うおお…』

『まあ布に包まって寝てるの確認してすぐ去ってるから。部屋に一歩も入ってないし。まあ、そんな感じだから、夜の消灯の時間まで自由だから、報告はそこで』

『なるほどー、了解した』



そっちも見回りいたんだ。

うん、私の方にも来てました。寝たふり決め込んでるけど、確かにチラ見だけですぐどっか行ってたな。



『ちなみにさあ、リオくん、体拭くのって出来てる?あたしら一応水拭きしてるけど』

『お湯沸かすの、手間だよね…』

『禁止はされてないから適当にやってるよー』

『そっか、よかっ…待って、タオルって綺麗なやつ?』

『雑巾みたいなやつ』

『あかんやつ!涼、このハンカチあげるから、今日はこれ使いなさい』

『え、初召喚記念のハンカチじゃん』

『いいから使いなさい。元より消耗品だし。明日はタオル召喚する予定だから、それ使いなさい』

『お、おう…』

『涼、よく生きてたね…?あたしならキレ散らかしてる』

『ちーちゃんキレると怖そう。まあだからこそ逃げるって発想になったんだろうけど』

『何ていうか、人権とは?って感じやんな、ここの生活…』

『うん、やっぱ逃げよ。俺、逃げたらこの世界の美食を探すんだ…』

『謎フラグ立てるのやめて茜。逃げるのは賛成だけど』

『この世界に美食ってあるん…?今んとこ微妙食しかないけど』



ともあれ、勧誘は成功して四人で逃げるのは決定した。

ひとまずこれで衣食住がほぼ揃ったから問題ないとして、ここに追加要員はどうだろうか。多くても機動力が削がれるし少なければ出来ることは限られるし。

うーん、課題かな。明日以降に考えよう。


それにしても、と思う。

私はここまで、自分にスキルがあるということは伝えていない。

つまり、彼女達は私のスキル度外視で共に逃げることに賛成してくれたのだ。

やばい、ちょっと泣きそう、かも。スキルなしの人間なんてお荷物なのに。


黙ってたのは何となく言い逃してしまったのが理由だ。

あとはまだ考えられてないだけかもしれないけど、こういうスキルあったら便利だねって話題が出た時に話そうと思ってたのに、そういう話題が出てないこと。

別に私のスキルに関係ないものでもいいんだ。火をつけるスキルあったら助かるね、みたいな感じでもいいんだ。

そういう話題になったら、へへへ、実はわたくし、火は出せませんがこういうスキル持ってまして、良ければ使い道をご一考ください、って感じでさ…

どこの悪徳訪問販売だよって感じだけど。


ちょっと相談したかったのに、何か別の話題に一生懸命になってたらすっかり忘れちゃってたよ。

そして、忘れたまま、言いそびれたまま解散してしまった。おおう、確かに緊急性はない話だったけど…どっかでちゃんと言えたらいいなあ。

私だって、スキル使って三人の役に立ちたいのに。



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