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異世界召喚された勇者たちののんびり気味逃亡旅  作者: 邑雲
第三章:ダンジョン攻略
33/222

29.心が燻る(ハル視点)


私は、昔から運動が苦手でした。

いつも体育だけは5段階評価で2です。ひどいと1でした。

力も弱く足も遅く、運動神経も切れてるならいい方で、時には消滅してるんじゃないかと言われた事もあります。


それでも、何かを振るうのはそれなりに出来ました。

バッティングセンターでバットを振ること、ゴルフなんかもそこそこ。

でも反射神経が必要になるスポーツは得意じゃありませんでした。

テニスや卓球のように、ボールなんかを目で追いながら走って打ち返す。これは出来ませんでした。

野球やゴルフは、ボールを打つ時止まってますからね。あとバッティングセンターの場合、打つタイミングがわかれば当てること自体はできます。打ち返しても飛びませんが。

そんな私が、短剣術なんて覚えた時、真っ先に思ったのが『無理じゃないか』でした。

だってこれ、テニス卓球バドミントン系統でしょう?相手を見て相手に向かって場所を定めて振り抜く。そういうやつでしょう?

そう思って不安になったんです。足を引っ張ったらどうしようって。


それは、杞憂に終わりましたけど。

スキル補正というものは確かにあったようで、短剣での攻撃の時だけは消滅した運動神経が甦ったかのようでした。

逆に言えば、ダガーも苦無も持っていない時の私は、どん臭さ全開です。何もない場所で転ぶのはお手の物です。

それも、隠密を使っている間は鳴りを潜めていましたが。私、スキルに生かされてるな…


でも生来のそういうどんくさ感覚は残っているもので、攻撃が来るのが見えても硬直して動けなかったりしました。

頭ではさっさと動けと思っても、体が動かなくて。ナズ姉やラテちゃん、ラムに何度助けられたでしょうか。

スライムの突進が来ると察知した瞬間に硬直し、これでは避けられないと悟っても動けなかった。

正面から来るスライムの攻撃をくらいそうになった時、スライムが弾かれた時は何事かと思いました。

それが、リオ兄さんの新しい派生能力『物理壁』だと知ったのは、戦闘後です。

スライムは何とか弾かれて体勢を立て直す前に倒せましたけど。

スキルがあっても、私は根本的にこういう体を動かすことには向いてないんだなと思いました。

だって、リオ兄さんは打撃耐性があるスライム相手じゃ役立てないってはっきり宣言してました。

でもそれは倒せないというだけで、戦いの役に立ってないというわけじゃない。現にさっきは私を助けてくれた。

スライムが何かしようとしているのを見て、すぐに対応できる。鞭で、糸で、蹴りで、体勢を崩して攻撃自体をキャンセルさせる。

それがどれだけ助かっているか。とどめを刺せるだけの私より、ナズ姉やリオ兄さんやラテちゃんやラムの方がずっと貢献している。


知識や隠密スキルでは役立てている自信はあるけど、戦闘面では…

そんな思いがずっと燻っていました。

本当は怖い。でも、やらなければここでは生きていけない、そんな気がする。

攻撃手段があるのに、スキルを覚えたのに戦いたくないだなんて言えば、失望されるかもしれない。それは嫌だ。

私の覚悟なんて、こんな自分本位で身勝手で半端なもの。


怖いけど牽制という手段なら戦えるかもしれない。そう、自分の道を示したナズ姉の強さが眩しくて。

虚勢を張って、戦えるのだと嘘を吐いた自分が情けなくて、醜くて。


いざとなれば、アキ兄さんやリオ兄さんが助けてくれる。だからやれる。そんなことばかり考える自分が、嫌い。

二人は男の子の格好をしているけど、女の子です。私たちより身長は高いけど、大柄というわけじゃない。

頼りになるから、寄り掛かりたくなる。全部預けて投げ出してしまえばどれだけ楽だろう。でもそんなことをすれば、私が自分を許せない。

剣術と体術の組み合わせは癖なく戦えるから任せろ。そう笑うアキ兄さんは頼もしくて、全てを任せてしまいたくなった。

けど彼女が好きなのは料理だ。手伝いをしていたからわかる。本当に楽しそうに料理をする普通の女の子なのだ、この子は。


リオ兄さんは大人ではあるけど、だからって何でも頼っていいわけじゃない。

私たちが気づけなかったことに気づいてフォローしてくれる人。

でも、危うい。この人は、私達のことを気遣ってくれてるけど、不思議と自分を勘定に入れていないことがある。私達を守るためなら怪我を厭わない気がする。

前に聞いた、不思議な力に目覚めた…というか、自分の力を知った時の話。

濁されてはいたが、その時に何かあったのではないか。

ガラっと生活が変わるなんて相当なことだ。今回の異世界転移のように、突然という訳でもない。自分で選んだ道。

その時に、自分のことをないがしろにしかねない何かがあったのかもしれない。自分が嫌になったとか、自分を許せないことが起きたとか。

その自責の念で、自分の安全の優先順位が著しく下がってしまったのでは…実際はどうだかわからないけれど。


だから、彼女に頼り切るのも危ないと思った。絶対、自分を犠牲にしてでも私達を守ろうとする。そんな風に思わせる何かが彼女にはある。

ラテちゃんやラムに初めて会った時のこと。あの子たちを敵だと思っていたあの時、自分を犠牲にしてでも私達を守ろうとしていた。

毒耐性を得ようと考えた時。危険を伴うかもしれないからと、まず自分で試そうとしたこと。

ああ、この人は自分を大事に出来ない人なんだと思った。

だって、自分を犠牲にしかねないことをする時、彼女から恐怖心を感じない。

ケガするかもしれない、死ぬかもしれない、なのにそれを恐れてない。

自分がどうなろうと、どうでもいい…無意識かもしれないけど、そう思っているようだった。


だから、負担をかけたくない。

自分のことくらい、自分でやらないと。

気負っていたとは思いません。ごく当たり前のことだと思っていました。

でも、そう思っていたのは私の頭だけだったのかも。体は、限界を訴えていたのかも。

調子が悪かったわけじゃない。何の前触れもなかった。少なくとも、私はそう思っていた。



「うわボス赤かよ!えっと…フレドスライム!さっきまでのよりでかっ!どんなやつ!?」

「火属性のスライムです!火耐性と、下級の火魔法を使います!」

「魔法使う魔物か!初だな!光ったら詠唱だ!優先して止めるぞ!打撃でもいい、とにかくぶっ叩け!」

「りょーかいリオ兄!」

「ラムが、こいつは『灯火』と『火球』を使うって!『射出』と併用するから威力はともかく速度はあるらしい!」

「撃たせないのが一番ですね!」



3階層のボス戦。フレドスライムを中心に、7匹のスライム、うち4匹がレドスライム。万が一火魔法の巻き添えをくらっても無事にすむようにでしょうか。

作戦はシンプル。私がボススライムに行って、アキ兄さんが補助。リオ兄さんとナズ姉は牽制に回るとのことでした。

忙しくなりそうならラテちゃんとラムも参加するそうです。最初は私たちだけでやると決めました。


さすが3階層と言うべきか、湧いてくるスライムの補充速度が前の階層より早い。2匹倒したと思ったら既に1匹湧いている。

今まではボスのお供として出てきた魔物はすぐ半分くらいにできて、ボスと戦うメイン戦力の補助に回れる人が1人以上はいる状態だった。

けど、相性もあるのかもしれない。リオ兄さんとナズ姉の二人が決定打を与えられないので一体あたりの討伐の時間が伸びている。

フレドスライムも体が大きい分、なかなか核まで斬撃が届かない。もしかしたらダガーと苦無じゃ長さが足りないのかも。

アキ兄さんに代わってもらった方がいいでしょうか。でも、私に任せると言ってくれたのに。

攻撃は当てられるけど、浅いのか、動くせいで浅くさせられているのか。少々切れたくらいじゃ、すぐ元に戻ってしまう。

きっとHP自体は削れているだろうけど、目に見える成果がないので焦りが生じる。


アキ兄さんが、衝撃波で離れた場所のスライムを仕留める。その振り抜いた状態からすぐ振り下ろし、近くの一匹を仕留める。

こっちに向かってこようとするスライムを、ナズ姉が鞭で引っ叩き、自分に注意を向けようとしている。

一瞬光ったフレドスライムに焦った次の瞬間、石が当たって詠唱が中断される。リオ兄さんが石を蹴飛ばしてぶち当てたらしい。蹴術と投擲の合わせ技だ。

さっきよりスライムが増えていて、10匹近い。まずいと思ったのか、ラテちゃんとラムも参戦していた。

ボス戦は、ボスが倒されない限り下位種が湧き続ける。私が、仕留められていないせいで戦闘時間が長くなっている。



(―――早く、早く、倒さないと…!)



不定形の魔物のせいか、手応えが感じられなくて焦りが加速する。

鑑定は集中しないと使えないので、残りHPも確認できていない。多分、みんな出来てない。そんなことより目の前の敵の対処に追われている。

私の近くに来ていたブルスライムを、ナズ姉の鞭が絡めとり、遠くに投げた。そのままブルスライムは空中を舞ってる状態でアキ兄さんの衝撃波に倒される。

フレドスライムがこちらを向いたと思ったら、酸攻撃を射出してきた。当たる直前、光る盾が見えて酸とともに霧散して消える。

こうして物理壁に守られるのは何度目だろうか。ナズ姉がフォローに回ってくれるのも、アキ兄さんがスライムを仕留めるのも一体何度目か。

補助に回ってくれると言ったアキ兄さん。牽制すると、詠唱が見えたらとにかく攻撃して中断させると言ったリオ兄さんとナズ姉。数が増えたら参戦すると言ったラテちゃんとラム。

みんな、仕事をしている。役目を果たしている。ボスは私が倒すと言った、私だけが何も出来てない。



(…核、核はあそこ。体の中心、やや上方。心臓か脳にあたると思われる場所)



核さえ貫けばスライムは倒せる。見ただけで核の場所はわからないが、大体の位置は決まってるので、そこを狙えばいい。

思い切り踏み込んで、ダガーを深く刺せばきっと届く。常に震えるよう動いて跳ねるスライムが相手なのでうまくいってないけど。

きっと相手も必死なんだろう。倒されないために。

一歩踏み込んで攻撃をしようとした時、横からレドスライムがぶつかってきて体勢を崩された。

前に行こうとしてたところに横からくらったので、踏ん張れなかった。ギリギリ倒れはしなかったけど、体勢を崩したままダガーを振るって、レドスライムは何とか倒せた。

こっちにまで取り巻きのスライムが来たということは、かなり数が増えてるのかもしれない。牽制が間に合ってないのだろう。確認している余裕はないけど。

そして、レドスライムに気を取られた事で、フレドスライムに時間を与えてしまった。


―――光ってる。詠唱、させてしまった。



「しまった、詠唱…!」

「だめだ、間に合わない!完了する!」

「ぴぷぷー!」

「ハル、火球が来る!避けろ!」

「っごめん、牽制間に合わなかった…!」

『ハル様ー!避けるですのー!…っ、後ろ!』

「………え?」



うしろ?

目の前には僅かに赤く光るフレドスライム。詠唱が完了して、火球を生成した。それをこっちに放とうとしている。

正面を狙われてるのがわかったので、横に飛んで躱すしかないと本能的に悟った。射出スキルでスピードは速いらしいけど、こっちも速さだけはそれなりだ。

フレドスライムとの距離は2mほど。何とか躱せるはず…そう思っていたところに、後ろから衝撃が。



(…前に、倒れ…っ!?しまった、スライムが後ろからぶつかって…!)



フレドスライムから火球が放たれるのが見えた。

正面に向かって倒れそうになってる私に向かって。

極限状態だと周りがゆっくり見えるというのは本当だった。

後方に赤色が見えるので、ぶつかってきたのはレドスライムだったらしい。


離れた場所でアキ兄さんが3匹のスライムを相手取っていた。こっちを見て目を見開いている。剣を振り下ろした直後の体勢だった。

ナズ姉が鞭をこっちに向かって振るおうとしている。けど、多分間に合わない。火球の方が先に私にぶつかると本能的に悟った。

ラテちゃんはちょうど目の前のスライムに向かって糸を射出したところだったらしい。こちらに糸を飛ばすのは無理だろう。

ラムが光っているのは詠唱だろうか。完了したらその属性の色に染まるので、まだ詠唱は完了していないらしい。



(助けは間に合わない。だめだ、食らう―――…あれ?)



待って、足りない。仲間はまだいた。あと一人…リオ兄さんは、どこへ?

ここまで多分コンマ数秒ほどの間だ。思い当たった直後、右側から衝撃がきた。

後ろからスライムに突進されて、今度は右肩?またスライムかと思って思わず視線だけでそちらを見れば、こちらに手を広げたリオ兄さんの姿。

こっちに向かって、飛び込んできたような体勢だ。その勢いのまま私を手で突き飛ばした。

ああ、そうだ。私は速さはそれなりだってさっき思ったけど、蹴術スキルなんて得たリオ兄さんの方がスピードは上で。

体勢さえ崩さなければ私でも避けられると思った。ならリオ兄さんが走れば、当然間に合う。何せ比較的近くにいるのはわかってたので。

でも私がスライムに体勢を崩されたせいで、避けられない。それを見たリオ兄さんが咄嗟にとった行動なのだろう。


咄嗟に私を、突き飛ばした。


私がいた場所には、飛び込んできたリオ兄さんがいるという結果が、目の前に。

つまり火球をくらうのは、私ではなくリオ兄さん、で―――…

スローモーションのように見えた。

リオ兄さんに向かって放たれる火球。リオ兄さんの近くで浮いてるように見える、私にぶつかった直後のレドスライム。

ボンだかボフだか、そんな音がして弾ける赤。一瞬目が眩んだ。…火が、ぶつかって。



「―――リオ兄さ…っ!」

「…ぅあっち!」

「え…!?」



光が消え、リオ兄さんの影が見えたと思ったら、リオ兄さんは勢いよく私にぶつかってきたレドスライムを蹴り飛ばした。

その先にいたのはアキ兄さんで、レドスライムの赤く輝く体を両断する。…ん?レドスライムは確かに赤いけど、あんな色でしたっけ?

え、ていうか待ってください。火球くらったはずのリオ兄さんがほぼ無傷なんですが…



「リオくんどういうこと!?今の幻!?」

「いや今はまず戦闘続行を…ぅわ!まぶし!何だこれ!あ、何か疲れ取れた!?」

「ラムの回復魔法だわ!ハルに使おうと思ったのをリオくんに使ってる!ハル、いける!?フレドスライム倒せる!?」

「え、あ………やります!」

「よっしゃ行け!」

「ごめんー!あたしも牽制頑張るから!次はハルのとこに行かせないからー!」

『うー、スライム種に下位の土魔法は効きづらいですのー!石も岩もぶつけてもダメージ出ないですのー!でも大きい魔法は詠唱に時間かかっちゃうですのー!』

「もー、今からナイフ使って仕留めてくわ!ナズ、ラテ、アキ兄さんだけじゃなくて僕のとこにもスライムちょうだい!」

「りょーかい!」

『わかったですのー、あとラテも糸で切断してくですのー!数減らすですのー!絶対ハル様のとこに行かせないですのー!』

「ぴぷー、ぷー!ぷぷぷー!」

『待つですのー!詠唱破棄で魔法連打は危ないやつですのー!』

「ひええラムがめっちゃキレてる!」

「ラムさんそれちょっと怖いのでやめて!?」

「は?今から始まるの殲滅戦じゃなくて回避ゲーか!?ナイフの出番なかった!?」



何てことでしょう。フレドスライムより味方の方が怖い。まあ明らかにエレメンタルスライムの方が格上でしょうけど。

心なしか力が抜けたような気がします。いえ、焦燥感がなくなったと言った方が正確でしょうか。

ひとまずリオ兄さんを見習って、再び詠唱を始めたフレドスライムに石を蹴ってぶつけておきます。よし、キャンセルされた。



「あなたの相手は、私ですよ」



詠唱しながら狙っていたのは、リオ兄さんでした。今何が起きたのかがわからなくて、とりあえず思った通りにいかなかった原因を排除しようとしたのでしょう。

そんなこと、させるものですか。

苛立ったのか、再度私をターゲットとして定めたようです。

さっきみたいに勇み足ではいきません。落ち着いて、狙うのは核。

私には短剣術と投擲のスキルがある。武器はダガーと苦無。権能の分身は考えなくていいでしょうか。

これを使ってどうにか隙をついて核を仕留める。油断を誘うとしたら苦無でしょうか。

後方では賑やかな声とともにスライムを次々減らしているのだろうなと思われる音もする。もうこっちにスライムが来ることはないだろう。

さっきのように、表面を掠める程度の斬撃しか入らない。私のダガーの長さを把握したのかもしれない。

一瞬、怯ませることができれば動きが止まるはず。そこを狙うしか、深く刺せる機会はない。

MPを多く使うけど、試してみたかったことをやってみようか。まさか実戦で試すことになるとは。



「…『分身』」



初めて使った時は自分の姿を作るのに精一杯だった。人間一人はさすがに大きい。動かなくてもコストがすさまじい。

でも思った。分身って、何も自分を作らなくてもいいんじゃないかと。すぐ消えるものなんて作っても意味はないと思ったけど、違う。

すぐ消えるからこそ、躊躇いなく使えるんじゃないかと思った。数秒でいい。投げる時間含めて2~3秒もてばいい。


そう、私は苦無に分身を使った。

分けられて、すぐに消える方をフレドスライムの目に向かって投げる。



「ビギョォア゛ア!」

「…よし!」



スライムの目や口は普段隠されていて見つけづらい。でも隠れてるだけで、ある。

普段ラムを見ていて大体の位置は把握してる。そこに向かって苦無を投げれば命中した。『命中補正・微』が仕事したのかもしれない。

狙い通り弱点のひとつだったのか、怯んだ。投げた苦無は既に消えている。構わない、この一瞬の硬直があれば充分だ。

思い切り踏み込んで、深く体の中心を刺して、切り開いた。途中固いものを切った感覚があったので核を切れたのだろう。

何となく、刺す時にここだという感覚があったので、もしかしたら初めて『急所攻撃・極稀』が発動したのかも。

何であれ構わない。フレドスライムがずるりと崩れ落ちた。


―――倒せた。



「ハルがフレドスライム倒したぞ!あとは消化試合じゃー!」

「おら逃げんなブルスライムー!ナイフの餌食になれー!」

「兄貴どもバーサーカーかな!?」

『わたくしは牽制に回るですのー』

「ぷぷーぴぴぷー」



全階層でバーサーカー発生してません?いいですけど…

私も参加しますか。普通に。

ここからは早くて、ほんの数分で全てのスライムはドロップに変わった。

私のせいでえらい量になっている。大変申し訳ない。



「…フレドスライムの魔石、ちょっと大きいですね」

「ほんとだ。一応下位スライムだよな?魔法使えたからかなー」

「何かに使うかもだし、これはとっとこうか?」

「そうですね。属性も火ですし、使い道ありそうです」



何か、戦闘時間よりドロップ回収の方が時間かかったような…

気のせいですかね。まあいいですけど。



「ちょい疲れた。4階層着いたらカーくんに撤収しない?」

「そうだな。一息つこう」



大賛成だったので、全員でカーくんに乗り込みました。ハーブティ美味しいです。アキ兄さん愛してる…

同じ気持ちだったのか、リオ兄さんが軽率にアキ兄さんに告白してました。この人ちょいちょい好きって言いますね。

一息ついたところで話し合いになりました。



「レベル上がった人ー?」

「あ、レベル6に上がりました」

「僕もー」

「基礎レベルの方?おめでとう!」

「あと隠密もスキルレベル8になりました」

「おお、二重でめでたい!何か覚えた!?」

「はい。『透明化』ですね。これ、自分じゃなくて他人も透明にできます。隠密かけるより低コストです」

「へえ!透明人間になれるのか!すごい!」

「何かその派生能力って隠密の効果の単品売りみたいなやつだな」

「単品売りて」

「そうですね。もしかしたら透過も覚えるかもしれません」

「気配遮断とか認識阻害っぽいのは?」

「隠蔽じゃね?」

「そうですね。そろそろ人相手にもかけれるかも…まだコスト高いですけど」



どうしても実在してるものは存在感があるせいか、魔力使うんですよね。

そして生き物だと更に使う。ままならないです。



「今ステータスに使ってるんだよな」

「はい。最初はラテちゃんやラムのステだけでしたけど、人間四人もまあまあアカン内容になってきてたので、いじってます」

「大変申し訳ない。お世話になっております」

「結構スキル増えたりしてるもんね…そりゃいじらんと駄目だよね」

「ステータスもいじってますよ。レベル5とかでこのステータスは規格外みたいですから」

「まじでありがたい」

「今の所鑑定とかされたりはしてないけど、突然やられる可能性のが高いしな。常にいじってた方がいいかあ」

「そういうことですね。…それで、私、リオ兄さんに聞きたいんですけど」

「ぅえ、は、はい…?」

「火球、当たりましたよね…?あの光ったの、直撃して燃えたからですよね?」

「あーそれな、俺も気になった。リオくんやけにケロっとしてるし」

「あたし、オチが読めてる気がするな」

『わたくしも何か想像つきましたのー』

「ぴーぷー…」



そうですよね。だってこのパターン、前にもあったような気がします。

そう、毒の時とかの…



「えーと…『魔術無効』スキルが生えました…」

「んなこったろうと思ったわ!!!」

「知ってた!!!」

「しかも魔法無効じゃなくて魔術無効…あらゆる魔術現象効かないんですか…?」

「いや、さっき回復魔法効いてたよ!?」

「多分、傷つける系のやつシャットアウトするか、敵と見做したやつのは全部カットするか、そんなとこじゃないか?」

「うーん、僕もそう思う、かなあ…?でもそんな便利でもないぞこれ」

「何で?攻撃魔法とか全部効かないんでしょ?便利じゃん」

「最悪リオくん盾にしたら魔法効かないの?」

「ひどい」

「…盾にするのは駄目だな。僕、体質で全部謎の力透過するって言ったじゃん?火球も、僕をすり抜けてった。だから僕の直線上にいたら魔法くらう」

「え、…まじか」

「さっき、僕の直線上にいたレドスライムに火球ぶつかったんだよ。あ、ハルを突き飛ばしたクソスライムな」

「ああ、あのスライムか」



どうやらあの火球をくらったの、レドスライムだったらしい。直撃して爆発だか破裂したあの光の光源、リオ兄さんじゃなかったんですね。

あの時、かなり近くにいたので勘違いしてたみたいです。てっきりリオ兄さんにぶつかったものと思ってました。



「あと、僕は魔法自体スルーしたけど、魔法が生み出した副産物は効果ある。さっきので言えば、スライムが火球で熱された熱を感じた」

「…へ?」

「そういえば、あつって言ってましたね。あれ火球じゃなくてレドスライムのことでしたか」

「そう。さらに言うなら氷は効かないけど凍った部分の冷えは感じる。風の刃とかも効かないけど、それによって引き起こされた周りの風、そよ風とかは感じる」

「あ、あー…何か漫画で雷効かないけど雷によって熱された熱は効くってあったな。そんな感じか」

「そんな感じだ。だから、ぶっちゃけ微妙なんだよな…」

「うーん、でもそれは起きて当たり前の現象とも言えますし…便利は便利では?」

「まあ囮とかには使えそう…」

『リオ様、自分を傷つけるようなことしないでほしいって、ラテ言ったはずですの』

「う…いや、これは、みんなを守るためだから…魔法、効かないから…傷つかないから」

『嫌ですの』

「…ハイ」

「ラテが正しい」

「よく言ったラテ」

「それ、私達の体は守れても心が無事じゃすまないんですよ」

「ハイ…」



ほんとに何とかなりませんかね、この人のこの性質。

思わずジト目で見てしまった。目が合って、逸らされた。罪悪感はあるらしい。治してくれるかはわかりませんが。



「そ、それより、あの攻撃何だったんだ?ほら、フレドスライムを怯ませたやつ!」

「露骨に話逸らすじゃん…でもそれあたしも気になったから聞きたい。何したの?」

「ああ、あれですか。大した事じゃないです。苦無に『分身』を使ったんですよ。権能の」

「へ?」

「あれってハル自身の分身以外も作れたのか…その発想はなかったな…」

「マジか!そんな使い方できたんだ!?」

「自分より小さいし動く必要もありませんからね。数秒で消えるから投げた後回収もいりません。まあ試したのは初めてでしたけど」

「短剣術と投擲のスキル恩恵がダブルでつくし、いい手かも。…問題は消費MPか」

「…はい、手のひらと同じくらいの大きさなのに、結構使いました。自分の分身より遥かに少ないですが、普段使いは難しいですね」

「MP増えるか、消費が減るかしないと難しいか…権能に使うMPってどうやったら減るんだ?」

「あ、これレベルでもスキルでもないから…!MP増やすしかない感じ?」

「これは多分、熟練度じゃないかな?使ってたら覚えてMP消費効率のいいコツがつかめるとか、そういう感じな気がする」

「あー…言われてみればそうかも?俺もちょくちょく倍化使うけど、何となく使い慣れた感じがするようなしないような」

「曖昧!でも、目に見える形でわかんないから仕方ないかもかぁ…」

「そうですね。いざという時の手段として、覚えておこうとは思います。あまり使えませんけど」

「自分の分身を出すよりは使い道はっきりしてて使いやすいだろうけどな」

「そうですね。正直、消費を気にせず投げられるものは欲しいと思いました。投擲のスキルレベル上げにもなりますし」

「僕も似たようなことは考えるなー…投げても戻ってくるとか、爆弾みたいなそれこそマジの消耗品とか」

「とりもち的なやつとか足止めによくない?」

「胡椒爆弾とか…?」

「いいなそれ。使えそう。ちょっと考えるか…」



攻撃のバリエーション増えたらさっきみたいに苦戦しなくなるでしょうか。

ともあれ、すぐ準備できそうなことでもないということで、今は4階層を進むことになりました。

できれば5階層まで…は望み過ぎなので、4階層のボス部屋まで行ければ僥倖でしょうか。

ハーブティで落ち着き、クッキーで小腹を満たし。

私達はカーくんから降りて、進むことにしました。


詠唱破棄

該当の魔法の1.5倍の魔力を余分に消費して発動できる

下位互換に詠唱短縮、詠唱短縮・大がある

MP10の魔法を詠唱破棄をしようとした場合、プラス15必要で、合計25の消費

ただ、イメージがしっかりしてれば消費は減らせる

何度も同じ魔法を使ってるとイメージが固まるので、慣れた魔法であればほぼ元の消費量と差がないMPで発動できる

ラムの場合はなまじ使える魔法(魔術)が多いため、得意の魔法というものがなく、消費量はほぼデフォルトのまま

なので無駄にマナを消費する詠唱破棄は基本使わない

が、MPおばけ・真のため少々消費MPが増えたところでデメリットになってない

でも何となく使ってない、ホントに何となくで、大した理由はない

もったいない

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